一,その頃の事情
*これは第1シリーズ最終回に当たる話で、最終作「お札さまの花嫁」(問題がありすぎる内容のため再掲載は見送らせていただきます)の次の話になります。内容は別の作品で取り上げた内容を紅倉が語り直した物です。
約五年間続いた東亜テレビのスペシャル番組「本当にあった恐怖心霊事件ファイル」が三月の放送を最後に終了することが決まった。世間のことさら恐怖感を煽る怪しげな心霊番組を嫌う風潮の中視聴率が下がり続け、昨年末起きた忌まわしき「お札さま事件」に番組が関わったことによるバッシングが決定打となり番組編成会議で正式に番組の終了が決定されたのだ。
「本当にあった恐怖心霊事件ファイル」を初期盛り上げたのが妖艶な女霊能師岳戸由宇(がくとゆう)であり、派手でエキセントリックなキャラクターが面白がられた彼女に対し穏やかな人情派の中年霊能師畔田敏夫(くろだとしお)が番組の良識と品格を保つという布陣であったが、三年目からここに妖精のような欧州ハーフ美人紅倉美姫(べにくらみき)が加わり、彼女は類い希なる霊視能力で実際の警察事件もいくつも解決してカリスマ的人気を獲得し、更に紅倉のアシスタントとして若い美貌の芙蓉美貴(ふようみき)が登場すると、美人霊能師弟のタレント的人気に押されて番組はこの手の内容としては異例の高い視聴率を得るようになった。
芙蓉が登場して一年くらいが番組の人気のピークだった。
しかし近年増加する凶悪犯罪やテロ事件によって一般市民に「恐怖」という感情を厭う傾向が強まり、番組で取り上げた「九州地方の廃病院」を舞台とした狂気としか言いようのない残虐な事件が発生したこともあり「ほんこわファイル」は急激に視聴率を落としていくこととなった。
霊能師畔田敏夫はその廃病院の事件に関わり瀕死の重傷を負って番組から去った。
元番組の顔であった岳戸由宇も「お札さま事件」で自ら墓穴を掘って表世間から姿を消した。
残る紅倉芙蓉師弟も、この頃私生活に置いてトラブルに見舞われていた。
彼女たちは都内某高級住宅街にある広壮なお屋敷に住んでいたが、これは紅倉の持ち家ではなく、実は某有力政治家の裏財産であるのをただ同然の家賃で借りていたのだが、その有力政治家もここ数年めまぐるしく変わる政局の中で立場を危うくし、もっともそこは紅倉の忠告でなんとか乗り切ることは出来たのだが、その紅倉の忠告で緊急に身辺の整理をしなければならなくなった。この屋敷なども「新政権」にはかっこうの疑惑追及のタネで、至急、権利、書類の正常化を図らねばならなかった。
結果、紅倉は三年間住んだお屋敷を出て行かねばならなくなり、当然紅倉を姉のように慕う芙蓉も二人の新しい住居を探さなければならなくなった。紅倉に屋敷を貸していた有力政治家は迷惑料と当座のホテル代として多額の現金を渡そうとしたが、紅倉は断った。彼女には新生活に向かってある彼女なりの野望があったのだが……、それはここでは関係ないことだから割愛する。
二月半ば、紅倉は番組最後の収録のため東亜テレビのスタジオに入った。