魔女は、今日も愚痴聞き役。
「魔女さま〜!聞いてくださいよ〜!」
今日も、客の嬢ちゃんが泣きついてくる。
「今度はなんだい?」
「また婚約者が浮気してたんです!」
「また、って…、この前のはあんたの誤解だったろう?」
「今度の今度こそ、浮気です!あいつ、私というものがありながら〜!」
「嬢ちゃんは婚約者殿を浮気者にしたいのかい?信じたいのかい?」
一瞥もくれることなく、手元の鍋を煮詰めていく。
いちいち全力で構っていたら、作業が何一つ進まなくなる。
魔女に相談にくるやつなど、自分の周囲には言えない愚痴を聞いてほしいだけなのだ。
甘酸っぱいベリーの匂いが漂ってくる。
ベリーソースを大量に作って、使い魔の餌にしてやらんと。
舌だけ肥えやがって、まったく。
「……信じたいに決まっているじゃないですか」
「じゃあ、信じてやればいい」
「でも〜…!」
「この前は婚約者殿が道を聞かれてギルドまで案内しただけだったし、その前は街中でぶつかられた妊婦を支えただけだったし。嬢ちゃんの婚約者殿はただのいい奴じゃねぇか」
使い魔が窓から入ってきて、鍋の中を覗いた。
「まだだよ、待ちな」
手で払うと、不機嫌そうに唸ってくる。
ったく、人間の客がいる間は入ってくるなと言っているのに。
…まあ、黒猫に化けてきたのは褒めてやる。
仕方なく顎下を撫でてやると、目を細めた。
猫は嫌いじゃない、こいつは猫じゃねぇが。
「……私にだけ、優しくしてくれればいいのに」
客の嬢ちゃんがぽそりと言ったのが聞こえて、ため息が鍋の中へと溶けていく。
ぶつぶつと音を立てる鍋の火を止めて、そばから冷やしていく。
小さな小瓶に入れて、上からテキトーな粉をかけて閉めた。
「ほい、嬢ちゃん。土産だ」
「なんですか、これ…」
「魔女特製のただのベリーソースだよ。パンにでも塗って食いな」
「へえ〜、綺麗な色」
「今日中に食うんだぞ」
「はーい、いただきまーす」
そう言って、言いたいだけの愚痴を吐いて嬢ちゃんは少しスッキリした顔で帰って行った。
使い魔にガミガミ言われたので、残りのソースを渡してやる。
「少しあげただけじゃねぇか、ったく」
こうして魔女は、また新たな作業に取り掛かった。
「魔女殿、ありがとうございましたっ!!」
翌日、昨日の嬢ちゃんの婚約者が嬉しげに店に訪れた。
その後ろに、気恥ずかしそうにしている嬢ちゃんもいた。
「おう、その分じゃ効いたようだな」
今日もまた鍋をぐつぐつ言わせながら、客対応をする。
「彼女が思っていることを話してくれたんです!おかげで反省しました、不安にさせていたんだなって」
「へえ〜」
「魔女さま、あのベリーソースなんだったんですかぁ…。あれ食べた途端、彼に会わなきゃって思って、気づいたら喋っちゃってたんですけど〜!」
嬢ちゃんは口を尖らせて文句を言うので、肩を竦める。
「ただのおまじないさ」
「おまじない?」
「ああ、魔法でもなんでもない。自分のしたいように勇気をくれるおまじないだよ」
そう言うと、嬢ちゃんは気まずそうに顔を赤らめた。
「嬢ちゃんが婚約者殿のことを大好きなのはわかってたしな。まあ、効いても行動するかは自分次第だ。そこまでの効力はない。だから」
そこまで言って、嬢ちゃんの方を見た。
目が合って、笑ってやった。
「嬢ちゃん、頑張ったんだな」
嬢ちゃんはむすっと照れていたが、不機嫌ではないとわかる。
それくらいには、愚痴を聞いてきた。
「魔女さまって、世話焼きですよね」
「そんなことないさ」
「ほんとにありがとうございました!魔女殿!」
「はいよ」
魔女は黒猫を撫でながら、今日も客が来るのを待っている。
了
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