孤独なエピローグ
私の心が壊れそうになった事件から数日後。
事件に関する事情聴取も一通り終わったので、私は豊岡から芦屋に帰ろうとしていた。
母親は話す。
「向こうでも元気でなー、また、芦屋にも遊びに行くで」
そうやって言われても、私の家は――ゴミ屋敷でしかない。
「せやな。まあ、私のアパートって――知っての通り結構悲惨な状態だけどさ」
「別にええんやで。アンタが掃除嫌いなのは知っとるから」
そうやって言われると、仕方ないか。――私は話す。
「――まあ、とにかく……たまには芦屋にも来てな」
そう言いながら、私はバイクのギアを入れた。遠くで母親が手を振っていたけど、振り返る余裕はなかった。
*
芦屋に戻ると、なんだか豊岡という存在が懐かしくなった。――別に、何かがある訳じゃないし、便利さでは芦屋が勝るのだけれど、やっぱり実家という存在があるだけでもありがたいと思った。
アパートの部屋に入ると、実家に戻る前のままだった。カレンダーは12月から止まっているし、部屋は散らかっている。――マズいな。
私はダイナブックを充電コードに繋いで、ついでに部屋の掃除もした。まあ、人1人呼べるぐらいにはキレイになったか。
それから、私は大の字に転がった。――正直言って、小説のことすら考えられる状況じゃなかったのだ。多分、まだあの事件に引きずられているのは確かだろう。
それでも、私は前を向いて歩いていかないといけない。そのために私がすべきことはなんだろうか? 今はまだ、その答えが見つからないのだけれど、そのうち見つかるだろうと思っている。――意外と、単純な答えかもしれないし。
*
さらに数日後。私はコンビニの雑誌コーナーで『週刊現代』を購入した。――ネットで見た見出しに「福田菜月の死の真相」と書かれていたからだ。普段、こういうモノはあまり買わないけど、仮に春日千捺が文章を書いているなら、あの時のことは詳しく書いてあるだろう。
アパートに帰って『週刊現代』を読む。――やはり、文章は春日千捺のモノだった。もちろん、事件の真相を知っているのは私と葛原恵介、そしてグループチャットで情報を共有していた西野沙織と春日千捺だけである。
そうやって考えると、あの事件があったからこそ私は春日千捺や福田菜月と再会できたし、水野圭子という存在とも再会できた。――何も、悪いことばかりじゃない。
でも、結局あの事件は水野圭子が犯人だったし、罪状は殺人だから――多分、釈放されるまでにはそれなりの時間を要するのだろう。
私は、「孤独」の中で生きている。その「孤独」は、大切な人を何らかのカタチで失ったことによるモノである。――なんだか、心が痛いな。
心の痛みに耐えきれなくなった私は、カミソリを手に持った。どうせ私1人死んだところで、誰も悲しまないし。そして、腕に傷を付けようと思った時だった。スマホが短く鳴って、メッセージが送られてきた。私は、メッセージの送り主――西野沙織の名前を見て、自傷行為をやめた。
――私は独りじゃない。それは、分かってる。(了)




