儚いプロローグ
「――ヒロロン、少しいいかしら?」
私の数少ない友人が、そうやって話す。
私は、友人に用件を尋ねた。
「急に、どうしたの?」
「あのさ、ヒロロンってミステリを専門に書いてる小説家じゃん? それで、質問があるのよ。――ヒロロン、あなたって……人を殺したことがあるの?」
当然だけど、私は友人の質問に答えていく。
「――殺したことなんてない。たとえ劇中で誰かを殺したとしても、それは机上の空論でしかない」
「ふーん、そっか」
私は、軽くあしらった友人に対して――話す。
「そうやって軽く流しても、あなたが殺人犯であることに変わりはない。ここは、大人しく恵介くんに対して白状すべきだと思う」
「恵介くん? ああ、葛原恵介ね。ビクトリア神戸の選手になるべく神戸の高校にスポーツ留学したけど、結局挫折して刑事になったっていうのは聞いてる。でも――どうして彼なの?」
私は、友人の疑問に対して、正直な意見を述べた。
「――これは、恵介くんの事件だからなの。まさか、豊岡とかいう寂れた街でこんな事件が起こるなんて思ってなかったし」
「なるほど。――それで、私は恵介くんに白状すればいいの?」
「うん。正直に『私がやりました』って言えば済む訳。まあ、『初犯』という烙印は捺されると思うけど」
「――分かった。それじゃあ、ヒロロン……さよなら」
友人は、悲しい顔をしながら兵庫県警のパトカーへと向かっていった。当然だけど、パトカーの前には葛原恵介が待ち構えている。
「――あなたを、殺人の容疑で逮捕する」
「分かりました。――どうせ、私なんていらない人間だし、どうなっても良かったのよ」
「そうか。――でも、君は初犯だ。刑務所で真面目に服役したら、いつかは元の世界に戻れるはずだ」
「そうですか」
友人が乗ったところで、パトカーは赤灯を回しながら警察署に向かって走り出した。
*
結局、私だけがここに取り残された。私の推理が正しかったのかどうかは分からないけど、1人の友人をこういうカタチで失ってしまったのは、正直言ってココロがイタイ。そう思っていると、私の一番の友人――西野沙織が駆け寄ってきた。
「――あっ、ヒロロン。こんなところにいたのね。結構探したのよ?」
「沙織ちゃん……。ゴメン、今は独りにさせて」
私はそう言ったのだけれど、西野沙織は話す。
「そうは言うけど、ヒロロンにとって大切な人が犯人だったことは同情するわよ」
「同情してくれるだけでもありがたいけど……こんな私の隣にいて、いいの?」
「いいのよ。――まあ、これから事情聴取だと思うけどさ」
「確かに。――でも、恵介くんからはまだ連絡が来ていない。今日はもう遅いし、事情聴取は明日だと思う」
「そっか。――それじゃあ、今からヒロロンの家に行ってもいいかしら?」
「別にいいけどさ……家、何もないから。でも、おせちの残りぐらいは用意できるかもしれない」
「えへへ。そうと決まれば――行こっか」
そう言いながら、西野沙織は黄色いアウディに乗って、私の家へと向かった。
仕方がないので、私も――自分のバイクを家に向かって走らせることにした。




