第3話 自慢の親友
それから神社に行ってお参りして、お守りをかなちゃんに買ってもらい、私たちは帰り道を二人並んで歩いていた。
帰りの街並みを眺めていると、この近所にかなちゃんの家があることを思い出す。
昔は結構頻繁にかなちゃんの家に遊びに行っていたけど、受験前あたりからぱたりと行かなくなった。
かなちゃんには二歳年上の兄と、三歳年下の弟がいたはず。
兄のほうはとても優秀で、中学から私立の進学校に通っていると聞いている。
家の中で会っても軽く挨拶する程度であまりよくは知らないけど、真面目なそうな印象だった。
弟のほうは姉であるかなちゃんにすごく懐いていて、私が遊びに行くと一緒に混ざってくるような元気で明るい子だった。
どこか私の妹のゆいに似ていたこともあり、すぐに馴染めた。
(三人でよくテレビゲームをして盛り上がっていたっけ。懐かしいな……。弟の悠真くん、元気にしてるかな)
思い出すと無性に行きたくなってきた。
「かなちゃん家ってこの近所だったよね。久しぶりに遊びに行ってもいい?」
「え……」
私が何気なく問いかけると、一瞬かなちゃんの表情が歪んだように見えた。
まるで、ドキッとしたような驚きと戸惑いを含んだ顔だ。
「えっと……ごめん、今日は部屋が散らかってるから、また今度ね」
「それくらい別に気にしないよ? 私の部屋だっていつも散らかってるし。久しぶりに悠真くんにも会いたいし」
かなちゃんは乾いた笑みを浮かべながら、さらりと断った。
高校に入ってからは、かなちゃんが私の家に遊びに来ることは何度かある。
急に来られて、散らかっている部屋に案内したこともあった。
だから、別に恥ずかしいことではない気はするけど。
「じ、実は……、昨日から部屋の模様替え始めちゃってさ、今は足の踏み場もないくらい散らかってるんだ。だからごめんね。悠真には、りりいが会いたがっていたよって伝えとく」
「そっか。じゃあ、仕方ないね……」
かなちゃんの目が少し泳いでいた。
まるで焦っているような、必死に理由を探してるような、そんな感覚がしたのは気のせいだったのだろうか。
(前に私の部屋のことをからかったから、仕返しされると思ったのかな……?)
考えられない話ではないけど、私たちの中では笑って流せてしまうような内容な気もする。
(しっかり者というイメージを壊されたくないのかな……)
少し気になったけど大したことではないと思い、それ以上聞き返すこともしなかった。
そんな話をしていると、駅前に到着する。
「かなちゃん、今日は付き合ってくれてありがと。お守り大事にするね!」
「うんうん。お参りもしたし、きっとこれで変なことは起きないはず」
「そうだといいな」
「まあ、なにかあったら連絡して。親友がピンチのときは絶対駆けつけるからね!」
かなちゃんはにっと笑い、かっこいいセリフを平然と口にする。
私はおかしそうにクスクスと笑い「かなちゃんは私のヒーローだね!」と冗談交じりに答えた。
それに対して、かなちゃんは「当然!」と間を開けず言い返す。
明るくて、頼りになって、優しい彼女は私の自慢の親友だ。
「それじゃあ、また明日ね。りりい」
「うん。またね、かなちゃん」
そう言って、かなちゃんと別れた私は駅の中へと入っていった。
***
家に帰宅すると、玄関で妹のゆいとばったり出会う。
「ゆい、どこか行くの?」
「うん。友達のところにちょっと……」
私が声をかけるとゆいは返事をしてくれたが、その声音はどこか暗くて弱弱しい。
元気が取り柄だと、いつも口癖のように話していた妹。
昨日の夜のこともあり、ますます心配になる。
「なにかあった?」
「……っ、お姉ちゃん、私……」
私が訪ねると、ゆいはこちらに視線を向けて一瞬泣きそうな顔を浮かべた。
けれど、すぐに首を横に振って「なんでもないよ」と笑顔で返した。
「友達が待ってるから、私行くね」
「あっ、ゆい……待って!」
ゆいは早口でそう言うと、逃げるように玄関から出て行った。
私は引き留めようと声をかけたけど、応じてはもらえなかった。
(ゆい、大丈夫かな……)
あんな顔を見てしまった以上、心配せずにはいられない。
(でも、友達と一緒なら、とりあえずは大丈夫、かな……)
ゆいが帰ってきたら、ちゃんと話を聞かなければいけない。
あの目は私に助けを求めているように見えたから。
しかし、夜になってから自宅に電話があり、ゆいは今日友達のところに泊まることになった。
私は寝る前に机の上で日記帳を開いた。
昔から日記を書くのが日課というか習慣であり、毎日欠かさず付けている。
**りりいの日記**
5月10日
今日はいろんなことがあった…
昨日見つけた写真、学校に持っていってかなちゃんに見せたけど、なにも写ってないって言われた。なんで…?
最初は私のこと、脅かそうとしてるのかなとも思ったけど、本気で見えてないみたい…。
意味わかんない。怖すぎる
まさか…私、霊感ある!?
怖がってたら、かなちゃんがお守り買ってくれた!
めっちゃ優しい!!ありがとー、かなちゃん。早速かばんにつけといたよ!
お参りもしたから、多分もう大丈夫!
そうだと信じたい!!泣
それから、かなちゃんの弟の悠真くんに久しぶりに会いたかったな…
それから…、ゆいの様子がやっぱり変。
絶対昨日なにかあったんだと思う!
帰ってきたら話を聞こうと思ってたけど、今日は友達の家にお泊りみたい
明日帰ってきたら絶対聞いてみる!
すごく心配…。大したことじゃなければいいけど…