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第2話 消えたクラスメイト

「かなちゃん、ちょっとこれ見て」


 翌日、私は学校に行くと早速持ってきた写真をかなちゃんに見せた。

 彼女は「あ、これ一年のときのか、懐かしいな」と言って写真をのぞき込む。

 私は眼鏡の子の顔の傍に指を伸ばした。


「この子、眼鏡の子。名前なんだっけ? 私、度忘れしちゃって……」


 へらっと笑いながら私が言うと、かなちゃんは「ん?」と首を傾げた。


「そこ、なにも写ってないじゃん。どの子?」

「この子だよ! 眼鏡の……!」


 私は指を置いた場所を確認してみるが、ちゃんと眼鏡の子を指さしていた。

 かなちゃんは再び写真のほうに視線を向けるが、返ってくる言葉は同じだった。


「りりい、この写真に眼鏡の子なんていないけど?」

「うそっ! ここに、いるじゃん。この子だよ!」


 私が慌て始めたので、かなちゃんは戸惑った顔を浮かべた。


「じゃあ、他の子にも見てもらう?」

「そうするっ!」


 私は写真を持って傍にいるクラスメイトの女子に声をかけた。


「ねえねえ、ちょっとこれ見てもらってもいい?」

「いいよー」

「ほら、ここの端に写ってる眼鏡の子、このクラスにいるよね?」

「え……、いないけど」


 その言葉に私の思考は一瞬停止した。 

 戻ってきた返事は、かなちゃんと全く同じものだったからだ。


「ここ、なにも写ってないよね?」

「うん……」


 私の固まってる姿にクラスの子も困っている様子で、助けを求めるようにかなちゃんに声をかける。


(うそ……。なんで? 私にはちゃんと見えてるのに……)


 けれど、二人が嘘を付いているようには全く見えない。


「りりい、大丈夫?」

「あ……、うん。ごめん。私の勘違いだったみたい」


 困らせてしまってることが申し訳ない気持ちになり、私は笑ってごまかした。

 そうは答えたものの、やっぱりこれは目の錯覚なんかじゃない。


(本当に、私にしか見えてないの……?)


 こんなに鮮明に写っていて、これを取った日のことも私ははっきりと覚えてる。

 かなちゃんもこの写真を見て懐かしいと言っていた。

 写真を撮ったことについては覚えているのだろう。


(なのに、どうして……)


 私が考え込んでいると、ふいにクラスの子が話しかけてきた。


「もしかして、りりいって霊感ある?」

「え……」


 極端すぎる質問にきょとんとしてしまうが、一瞬本気でそうなのかもしれないと思ってしまった。

 しかし、すぐにかなちゃんが否定する。


「ないない。怖がりなりりいにそんな体質がでたら、真っ先に私に助けを求めてくると思うよ。ね、りりい」

「うっ、うん……」


 かなちゃんとは付き合いが長いので、私のことはよく知っている。

 ちょっと恥ずかしくなり、私は乾いた笑いをしながら答えた。

 オカルトは興味がないというよりは、怖いから苦手といったほうが正しい。


「私には見えなかったけど、りりいが嘘ついてないことも本当だと思う」

「かなちゃん……」


 信じてくれたことが嬉しくて、少しだけ泣きそうになった。


「帰りに神社に行ってみる? お守りあったら少しは違うかも」

「やっぱり、これって霊なの!?」

「そうと決まったわけじゃないけど、お守りを持ってれば少しは安心できるんじゃない? 不安だと余計に悪いほうに考えちゃうでしょ? その逆ってこと」

「たしかに……」


 正直なところ、この写真の子が幽霊だとは思っていない。

 けれど、かなちゃんは私を心配して提案してくれたに違いない。

 それに、おまもりは悪いものではないし、安心できるものだ。

 今日はバイトもないし、帰りに神社に寄ることにした。


 ***


 神社に行く途中、かなちゃんは思い出したように話し始める。


「そういえばさ、呪いの乙女ゲームの噂知ってる?」

「それ、昨日クラスの子が話してた。バイトの子も。SNSとかで流行ってるの?」

「話題にはなってるかな。私も気になって昨日ちょっと検索したりしてたんだ」


 かなちゃんはそう言うと、足を止めた。


「先に言うけど、りりいを怖がらせたいわけじゃないからね。これはあくまで噂。多分デマだと思う。でもちょっと、気になるところもあって……」

「気になるところ?」

「なんかさ、噂の乙女ゲームをプレイした人は、7日後に記憶を消されるって話があるの。学校でりりいが写真の話をしたとき、ちょっと引っかかってたんだ」

「でもそれって詐欺の類じゃないの? ログインしたら情報を抜かれるとかの」


 私が聞き返すと、かなちゃんは「そういう噂もあるね」と言った。

 あくまで噂なので、どれが本当で、なにが嘘なのかはわからない。

 ひとつだけ確かなことは『良くない』ものであるということ。


「それでね、昨日オカルト系の匿名掲示板覗いてみたんだ。結構書き込みもあって、やってる人も結構いるみたい」

「本当に乙女ゲームだったってこと?」

「詳しいことはわかんない。ちょっとこれ見て」


 かなちゃんはそう言うと、ポケットからスマホを取り出して、一枚の写真を私に見せてくれた。

 それは匿名掲示板の画像をスクショした写真のようだ。

 ちなみにスクショというのはスクリーンショットの略でネットの画面を写真にしたもの。



【乙女ゲーム】噂のヤバい乙女ゲームスレ part.5


 17:名無しのヒロイン

 さっき見たら、スマホに『Last_L』ってタイトルのアプリ入ってた!!

 これ本物?詐欺じゃないよね?

 なんか黒い薔薇みたいなアイコンだった


 18:名無しのヒロイン

 それ本物じゃね?

 うちの隣のクラスの子もそんな話してた

 まじで出回ってるのかよ!ヤバすぎwww


 19:名無しのヒロイン

「君は誰を選ぶって?」変な通知きた

 やってる奴多くて草


 20:名無しのヒロイン

 今見ている人。今すぐそのアプリ消して!!

 本当に危険だから!

 妹がおかしくなった。。。どうしたらいいのかわかんない


 21:名無しのヒロイン

 やっぱり呪いだったのか?

 嘘くさいな


 22:名無しのヒロイン

 本当だよ、信じて!

 最初は全然ふつうだったけど、3日目くらいからおかしくなる

 真っ暗な部屋であのアプリをずっと眺めてる

 話しかけても反応ない


 23:名無しのヒロイン

 釣り乙!


 24:削除済

(※ このレスは削除されました)


「この24番のレス今は消されてるけど、私が見たときはまだ残ってて……」

「なんて書いてあったの?」

「誰も私に気づいてくれない。ここにいるのに、声も届いてないみたい。こわい、消えたくないって書いてあった。めっちゃ誤字ってたけど」

「なにそれ、こわい」


 その言葉を聞いて、急に背筋がぞくぞくと震え始めた。


「書き込んだ本人が消したのか、消されたのかわかんない。釣りって可能性が高い気はするけど。でも、なんか気になって……。そしたら今日りりいのあの写真の件があったから、あの噂は実は本当じゃないかって気もしてるんだよね」

「…………」


 私は怖くて言葉が出なかった。

 アプリで人が消えたりなんてするのだろうか。

 現実的に考えればありえないことだけど、私以外あの写真に写ってる子が見えていなかった。

 それならば、存在を消されたあの子はどうなってしまったんだろう。


(もしかして、幽霊…!?)


 そう考えると、ますますぞくぞくして恐怖心に支配されていく。

 怖がる私の態度に気づいたかなちゃんは、慌てて「絶対釣りだよ!」と言った。


「ほんっと、ごめん。りりいがそんなに怖がるとは思わなくて。ちょっと脅かしすぎちゃったみたい」

「もうっ!」


 私がむっとすると、かなちゃんは「本当にごめんね。お詫びにお守りは私が買うから!」と言って謝った。

 怖いから信じたくないって気持ちもあるけど、呪いなんて本当に存在するのだろうか。

 でも、私の傍で不可解なことが起きているのは確かだ。


 クラスメイトだった子の名前が思い出せないこと。

 私以外、写真の人物が見えていないこと。

 それは明らかにおかしいことだ。

 そして、なにかすごく胸騒ぎがする。


「りりい、手も繋いであげるから泣かないの!」

「私、泣いてないしっ!」

「ホントにー? まあ、いこっか」

「うん……」


 かなちゃんもさっき言っていたけど、不安になると悪いほうに考えてしまいがちだ。

 きっと、そのうち理由もわかるだろう。

 この嫌な胸騒ぎも、考えすぎからきているに違いない。


(気にしすぎはよくないよね。うん。怖くなるだけだし……)

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