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相合傘

作者: 松本 和

出会ったのは深夜の街。

声をかけられた。

かっこいい大人の男だったから、いいかなって思った。

いまは最低だった元カレの匂いを、わたしからとってくれるならだれでもよかったんだ。

別に愛なんかなくてもやれた。


「かわいいね。いま暇?」

ストレートに言う人だな。スーツでいかにもまじめそうなのに。


「暇だよ」

そう答えるわたしは私服。深夜に高校の制服はまずいもん。


「そっか。じゃ、エッチなことでもする?

…なんか、そうされたがってるみたい」


思わずなんでわかったの?って言ってしまいそうだった。

「…いいよ。一回きりなら」


それからはまっすぐラブホに向かった。

その間、彼もわたしも何も話さなかった。


「俺のことはきょうって呼びなよ」

ベットに入ってこれからってときにいきなり言われた。

「じゃあわたしのことはりさって呼んで」

ホントの名前は言わなかった。


「どうされたいの?」

いままで黙っていた分なのか今度は口数が多い。

「…めちゃくちゃにしてほしい」

「若いのに大胆なこというね」

子供扱いされてむかっとした。


「別にいいでしょ?めちゃくちゃにしてよ」

「そう言うと思ってた。…なんてね」

初めて見せた笑顔からつい目をそらしてしまった。


それから、きょうはわたしをめちゃくちゃにしてくれた。

乱暴だけどところどころでやさしくされて、声はかけてこないのに、

わたしの望みをかなえてくれるセックスだった。


「一回きりの仲で聞くのもどうかと思ったんだけど、なんかあったの?」

まさかそんなこと聞いてくるような人だと思ってなかったから驚いた。

「処女っていうふうでもなかったし、一回きりのセックスに興味あった?

それとも、前の男を忘れたかった?」


図星をつかれて苛立ちを隠せなかった。

「うるさいな!なんでもいいでしょ!」


きょうはセックスの最中に見せた冷めた目と別人のようなやさしい目をしていた。

「う~ん。まぁ俺が言えることじゃないけど、こういうのはやめたほうがいい。

こういうのは好きな人としないと。どう?いま後悔してない?」


…なんでこのひとわかるんだろう。

わたしがいますごく後悔してて、なんかなくしたみたいな空虚感におそわれてて、

今日のこと全部なかったことにしたいと思ってるって。

絶対このひとの前では泣くもんかって思ってたけど、

全部みすかされていたってわかって、あふれてくる涙を止められなかった。


泣くわたしの背中をなでる彼の手が、最後は最低だった元カレを思い出させて余計に泣けた。


セックスはしたけど、きょうと会うことはもうない。

わたしときょうが相合傘することはあり得ないんだ。

次は絶対好きな人とセックスする。

相合傘してくれるひとと。


ひとしきり泣いたわたしの横で、きょうはじゃあ帰りますかといった。

一夜限りの関係の別れの時がきた。


わたしをめちゃくちゃにしたひと。

でもその相手がきょうでよかった。

「じゃぁ、もうこんなことしちゃだめだよ」

「余計なお世話だよ。はやく行きなよ」


感謝する気持ちはあったけど、言葉にはできなかったな。

後ろを向いて歩きだしたきょうの背中に叫んだ。


「ねぇ!わたし、ほんとはありさっていうの」

ほんとの名前を教えたのは、ただの気まぐれ。


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