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愛しい『運命の番』(セドリックside)

カタカタ。

メアリーを送り届けた後、セドリックは御者の横に付けていた従者に声をかけた。


「コリン、アシュフォード伯爵邸の警護を厳重に。護衛を24時間付けてくれ」

「はい、取り急ぎでしたのでメアリー様専属を1人と館の警護に2人配置しています。追って交代要員も手配いたします。増員は必要でしょうか?」

「いや、十分だ。人を増やすと目立つからな。今のところは大事にしない方が良いだろう」

「かしこまりました」


幼い頃からセドリックに仕える従者のコリンは有能で仕事が早い。ひとまず警備面では安心できそうだ。

しかし心が晴れるものではない。

今ここに、隣にいないことが半身をもがれるように辛い。


メアリー……


まさか『運命の番』に出会えるなんて思ってもみなかった。

そして想像以上に耽美で心を魅了し、衝動を突き動かすものだった。


衆目の中なんとか取り繕えたとは思うが、冷静に判断すると悪手だった。今の自分の状況にメアリーを近づけてはいけない。危険だ。

頭ではわかっているのに、『運命の番』の前で平然とすることができなかった。


そもそも『運命の番』とはいえ、メアリーは可愛過ぎないか? 触りたくなる柔らかな髪の毛に、潤んだ瞳、甘い声色。あまつさえ上気して淡く色づいた肌ときたら!


番でなくても理性が揺らぐんじゃないだろうか。


性格も真面目そうで好ましいし、欠点が見当たらない。あえて、あえて言えば、今ここにメアリーがいないことが欠点と言える。なぜ隣にいてくれないのか。


――医師が言っていた『とまどい』を、セドリックは年上らしく寛容に受け止めなければならないのだが、喉の渇きを満たせないような苦しみが続く。


ひとつ深呼吸をする。


ずっとメアリーとまどろんでいたい。しかし今は、やるべきことがある。馬車の行き先に目を向け、気を引き締める。


胸ポケットから男性用の『抗発情薬』を取り出して飲み込んだ。さっきも飲んだが、念のため。あの人の前では少しもヘマはできないから。





「王太子殿下」


セドリックは通い慣れた王太子の執務室に入る。


「よせよ、他人行儀だな。気持ち悪い」

「そうか。アーサー、頼みがある」


アーサーは、サッと手を上げて言葉を止める。


「聞いたよ。『運命の番』に出会ったんだって?」


既にアーサーは情報を掴んでいた。

気を悟られぬよう振る舞い、要望を簡潔に伝える。


「リヴァーデン家との婚約を破談したい」


アーサーは怪訝な顔をした。


「婚約破棄?? 今すぐに?」

「ああ」

「いくら『運命の番』に出会ったからと言って、わざわざ計画を修正することはないだろう。いずれロザリーとの婚約は破棄が既定路線なのだから」


そう――ロザリーとの婚約は、リヴァーデン家の裏稼業を摘発するために仕組んだ罠だ。


「番いたければ囲っておけば良いじゃないか。もちろんその後で結婚したければすれば良い。アシュフォード伯爵家なら特に問題はないよ。家格は少し低いがどうとでもなる」


アーサーは予定が変わることに不満気だ。

だがセドリックも譲歩するつもりはない。そもそもこの婚約は王太子命令でセドリックとしても不本意だったし。それに――


「彼女には、誠実でありたいんだ」


セドリックは真っ直ぐ見据えて真意を伝えた。

『運命の番』――メアリーがいるのに、他の女性と結婚の約束なんて、たとえ嘘でも許せない。


アーサーの顔がわかりやすく驚愕に歪む。

メアリーに出会う前ならセドリックもアーサーと同じ考えだった。きっと理解できない感情だろう。


「……婚約は目的でなくただの手段だ。代替案があるなら構わない」

「ああ、もちろん!」


アーサーにとって計画は「楽か」「より楽か」でしかない。結局、セドリックの意向を尊重してくれた。


「破談理由はどうするつもりだ?」

「それは」


面白いものを見つけたかのように、にこやかに笑いながら問いかけてきた。


もともとランカスター家とリヴァーデン家の婚約は破格だ。信用させる為に持参金を釣り上げていたから、今さら金銭面を問題にするのは現実味がない。

『運命の番』に出会ったことを公表すれば確実だが、今は時期でない。


アーサーは手元の書類を捲る。


「現時点でいくつかリヴァーデン家の小さな悪事を詳らかにすることもできるが……」

「それは大物取りの時に使うべきだ」

「そうだ。今はその時でない」


アーサーはトントンっと指で机を叩いた。セドリックを非常に愉快だとばかりに、楽しげに。


「ロザリーじゃヤる気になれないってコトにするか」

「…………」

「我々にとって後継者作りは死活問題だからな」


セドリックは呆れながら、嗜める。


「……さすがに女性に失礼だろう」

「あながち嘘でもあるまい!」


クククっと笑い出す始末だ。

全く笑えないことを躊躇なく笑う美しい人ほど、気味の悪いものはない。

従兄弟であるセドリックにとって慣れたものだが。


「そうだ」


アーサーはひとしきり満足したのか、新しい書類を取り出す。


「アシュフォード家の嫡男がちょうど出仕請願を出していたんだ。真面目で余計な野心もなさそうだ。文書局の補助官に回しておこう。重要文書を扱う部署だ。身辺警護を付けるのも自然だろう」


トクン


抜かりなく鮮やかに、アーサーはアシュフォード邸を監視下に置いた。

セドリックの焦りは上手く隠せただろうか。


用件は済んだ。

退室するセドリックにアーサーは背中越しに声をかけた。


「番が歳の釣り合う貴族令嬢でよかったな」


セドリックは足を止める。

振り向くと、アーサーは上品な笑みを浮かべていた。まるで本当に祝福しているように。


セドリックの夜はまだ終わらない。

リヴァーデン家に破談の申し立てをして、父とも今後について話しておかなければ。


メアリーは今頃休んでいる頃かな。

ふとした時にメアリーのことが過ぎる。セドリックの愛しい『運命の番』。明日の朝、メアリーの様子を見に行こうと決めて口元が緩む。


――全てはメアリーのために。



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