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『運命の番』に出会ってしまった

目があった瞬間、激しい動悸に襲われた。

自分でもわかるくらいの発熱と発汗、そして欠乏を感じた。何かが満たされない……満たして欲しい……。

目を逸らせば少しは落ち着くかもしれないのに、それさえできずにいる。


『彼』だ


メアリーの心は確信している。

初めて会うのに懐かしいような、欠けていた何かを知ったような感覚。彼と共にいることが当然に思える情動はまさしく、『番』によるものかもしれない。

けれど、『彼』は良くない。『彼』は友達の婚約者だ。心が確信していても、到底受け入れられるものではない。


「あ、あの……わたし……」


体調が悪いから辞したい、その一言が上手く紡げない。そもそも挨拶さえできていない。

このままだと激情に駆られて公衆の面前で醜態を晒してしまうかもしれない。この場を離れようと足を踏み出すもよろめいた。

隣にいた男子生徒が庇おうとしたその時、愛しくてたまらない『彼』が奪うようにメアリーを抱きしめた。


ああ、ずっと欲しかったもの


「メアリーさん?」

「メアリー、大丈夫??」


うっとりと酩酊しかけたが、友人たちの心配する声にハッと我に返った。

名残惜しくも『彼』から逃れようと、身じろぎして離れる意思を伝えてみる。『彼』の体はびくりとも動かず、むしろいっそう強く抱きしめてきた。


「彼女はひどく体調が悪そうだ。このまま医務室に連れて行こう」


ああ。声まで素敵。


体の内側から沸き出る熱い激情にメアリーは耐えきれなくなり、膝から力が抜けていく。とうとう『彼』に抱きかかえられてしまった。


「セドリック様っ!!」

「ロザリー嬢、今日はこれにて失礼」


騒然とする周囲。

婚約者に一瞥もくれず、『彼』はメアリーを抱えて歩みを進める。


「せ、セドリック、僕が彼女を連れて行こう。君は婚約者の側に」


気を利かせた男子生徒が婚約者との間をとりなそうと、慌てて『彼』に近づいて来た。それは常識的模範行為であるが、『運命の番』に常識は通用しない。


「俺が行く」


普段朗らかなセドリックからは想像もできない冷たい眼差しを返され、男子生徒は驚き慄いた。

隠すことのない殺気を向けて断固拒否するセドリックに彼の友人たちもただ見送るしかできない。


いくらか歩くとセドリックの従者が近づき、会話を交わす。

セドリックは医務室ではなく、馬車止めに向かった。


馬車に乗り込んだとき、メアリーは朧げな意識を取り戻す。


「あの……うぅ」


『彼』にしっかりと抱き止められ、メアリーは安心と喜びに包まれつつも、気力を振り絞る。


「ここ、は……?」


カタンと馬車が動き出す。『彼』がうっとりとした表情でメアリーに顔を寄せる。


「はぁ、まさか運命に出会えるなんて思ってもみなかった。君は? メアリーと呼ばれていたね?」


返事が上手くできなくて、コクコクと頷く。


「俺はセドリック。セドリック・ランカスター。メアリー、わかるよね?? 俺たちは番なんだ。なんて幸運だろう!!」


幸運――メアリーを受け入れてくれたことがすごく嬉しい。


でも、彼には婚約者がいる。


神様はなんて残酷なんだろう。

『運命の番』であろうと、決して結ばれてはいけないのに。

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