8話 交友関係は難しい!
俺たちは遅刻寸前に学校に着いた。
ちなみに、柚伏さんは登校中に起きた。
俺と大川たちは別のクラスなので、今クラスには話す相手がいない。
俺の席は1番後ろの2番に近い廊下側だ。右隣の人は今日は休んでいるらしい。
……話し相手がいないな。
入学から1か月過ぎているため、なんとなくグループが形成されていて、その中に入るのは気まずい。
誰とも話せないかもしれない。
と思っていたが、俺の左隣の人が休み時間ずっと1人だったため昼休みに話しかけてみた。
「俺は神里司って言います」
隣の人が俺に気づく。
髪はボサボサで、前髪で目元は見えない。マスクをしていて、顔もわからない。端から見れば不審者である。
「何で敬語なんだ、気色悪い」
予想していなかった言葉に豆鉄砲食らったかのような顔になってしまう。
なんだろう……ドッジボールでボール投げたらサブマシンガンで撃たれた気分だ。
でも、こいつとは仲良くなれそうな予感がする。
「じゃあ、敬語はやめよう。これでいいだろう?」
「そうか、なら話しかけないでくれ」
男のほうが関わりやすいと思っていたが……こいつは関わろうともしてくれないな。
先に言っておくと俺は性格が良いほうではない。仲のいい奴にはイタズラもするしちょっかいもかける。相手はほとんど男子だ。家族を除いて女子とはそんな関係になったのは過去に1回しかない。
そんな俺でも、自分を嫌っているやつには極力かかわらないようにしている。
だが、ここまで拒絶されるとグイグイ行きたくなっちまうな。ちょっとしたイジワル心だ。
「お前名前は?」
「…………」
無視か。
ならこっちは……
ガン!
机をくっつけて弁当箱を出す。
「話し相手いないから一緒に食おう!」
提案ではなく、決定事項のように……
「何入ってるんだろ〜?」
弁当箱を開けて、断る時間を与えずに……
「俺、事故で1ヶ月くらい休んじゃって」
相手に話す余地など与えずに……
「話すともだ」
「邪魔……ここで食いたいなら勝手にしろ」
髪ボサくんは俺を睨みつける。実際は前髪で目は見えないが、声色と顔の角度からして絶対にいい顔はしてない。
髪ボサくんは席から立ち上がり、踵を返す。
「すまん……」
反射的に謝ってしまった
いつの間にか俺はこいつの琴線に触れていたらしい。さすがにグイグイ行き過ぎたか。
だけど…諦めるものか。
「まだお前の名前を聞いてない」
髪ボサくんが小さく「え?」と言ったのを聞き逃さなかった。
「こっちは名乗ったぞ。そっちも名乗るのが筋ってもんじゃないか?」
何いってんだ俺。勝手に名乗って、だからお前も名乗れって……新手のカツアゲだろこれ。
でもいい。会話のラリーが続けば趣味も嫌いもわかる。そっから話を広げていけば…
髪ボサくんは少し考えた素振りを見せたあと、静かに席に座り、
「キタムラ……北村千鶴だ」
なんか……心が開いたな。なんでかはわからんがまあいいか。
「さっきも言ったとおり、俺は神里司。ぼっちドウシ、仲良くやろう」
「……勝手にしろ」
「勝手にするよ」
俺は弁当を食べ始めた。
「──で、七不思議に【A組】っていうのがある。そこは学校のどこかにある地下室につながる通路から入るらしい。噂によるとA組には白髪美女がいるらしい。胸がデカくて、尻もでかいらしい」
うーん……
めっちゃ喋るなこいつ。
マシンガントークすぎる。
初日からこんなに心を開いてくれるとは思わなかった。
最初の頃(約10分前)とは全く違うぞ。
というか、ここには七不思議というのがあるのか。案外、異能力に関わってたりしてな。
「あぁ、あと…」
「北村、全然弁当食ってないけど大丈夫か?」
北村はハッとして、弁当箱を開ける。
同時に俺は驚いてしまった。
「豪華だな」
ステーキや椎茸、エビフライなど庶民が弁当で食べるものではないものが詰められている。
俺が物珍しそうに見ていると、
「1つ食べるか?」
と訊いてきた。
俺は迷わずうなずいた。すると北村は鼻で笑い、箸で俺の空の弁当箱に移した。
「うおぉ〜美味しそう。ありがと、じゃあいただくわ」
ステーキを口に含んだ瞬間、冷めているのにも関わらず柔らかく、ジューシーな味が口いっぱいに広がった。
この弁当を作った人はたぶん弁当屋さんを開けるな。
こいつの家、毎日このレベルのご飯を食ってるのか……?羨ましすぎる……
「ごちそうさま。これ誰が作ったの?」
「…さぁな、それより、なんで1ヶ月学校休んでたんだ」
北村がマスクを外し、食べ始める。
意外と肌のケアがされているな……。髭の剃り残しもないし、見て分るぐらい肌はスベスベしてそうだ。
どうやったらそこまで肌が綺麗になるのか訊きたいものだ。
「俺が休んでた理由か……全治3ヶ月の怪我したんだよ。トラックにはねられちゃってさ」
あのときは痛かったなあ。時速70キロの4トントラックにはねられて、飛ばされた先でもまた違うトラックにはねられたんだから。
「全治3ヶ月なのにもう来て大丈夫なのか?」
北村は弁当の中身を口に入れていく。
「ずっと居るわけじゃないし、トラックで轢かれた程度なら1ヶ月経てば治るよ。前にもっとすごい事故に遭ったときは4ヶ月くらい入院してたけど」
北村は口に含んだものを飲み込み、どんな?と言ってまた食べ始める。
「えっと、軽トラにはねられたあとに、電車が来てはねられて、ダンプカーの下敷きにされた」
「ふっ。そんなくだらない冗談も言うんだな」
「嘘じゃねえよ」
俺はまだこいつがどんな奴かなんて知らなかった。
〜放課後〜
椅子を机に乗せて前に運んでいる中、前の人がなかなか行ってくれずに待っている最中。
「北村は帰り道はどっちなんだ?」
俺と同様に待っている北村に話しかける。
「僕は古井宿駅に乗る」
「なら古井宿駅までは一緒だな」
「神里はどこに住んでんだ?」
「八塩荘ってとこに住んでる」
「あそこ女子しか住めないって聞いたんだが?」
「まじ?そんなことはないだろ……」
「他に男子はいるのか?」
前の人がようやく動き出して、机を運ぶ。
「わからん。まだ全員とは会ってないから」
「案外、お前以外男いないかもしれないな」
「それは流石に気まずいな」
「ハーレムだろ?ラッキースケベがあるかもしれないぞ」
「そんなことそうそう……あったわ」
昨日のことを思い出す。柚伏さんの裸体。小さかったな……色々と。
「鼻の下伸ばしてキモいぞ」
「……伸びてた?」
少しな、と言って、机を置いて教室を後にする。
「はあぁ……」
帰り道、1人歩く。
北村に一緒に帰ろうと誘ったんだが、断られてしまった。
用事があると言っていたが、嘘をついている感じだった。
仲良くなったと思っていたんだがな。
そんなわけで、悲しく独りで帰っている。
俺はここに引っ越してきて間もないのであまり知らない。
だから、俺は少し遠回りして帰ろうと思い、小さい路地に入って行った。
好奇心というものだ。ここはどこにつながっているんだろう?という。
路地に入って、すぐのことだった。
黒いスーツを着た巨漢たちに囲まれた。
「神里司……だな?」
スキンヘッドのいかにも反社みたいな男が俺の胸ぐらを掴み持ち上げる。
喧嘩などしたことない俺にとって今の殺されそうな状況はチビッてしまうほど怖い。少ししかチビってないけど。
男が拳を握り、振りかざそうとしたときだった。
途端に胸ぐらの手が離されて尻餅をつく。
俺の目の前、男の背後には白髪で、八潮さん程度ではないが胸がデカくて、尻もデカい、俺と同じ高校の制服を着た美少女が立っていた。冷酷、というよりも無表情に近い表情で、
「お守りします、神里司様。」