7話 熊は恐ろしい!
ぅ 俺は大川さんの方を見る。
ゎ あ、これ大川さんも知らないやつだ。もう俺の方見てきてるもん。見つめ合ってるよ。
ぁ 俺はすぐにフルフェイスに視線を戻す。
ぁ「どちら様ですか?」
ぁ「俺か?俺は……」
ぁ フルフェイスがフルフェイスを取った。
ぁぁぁぁぁぁぁ「はす「ぁあああとまれないいいい!!」」
その刹那────何かとフルフェイスが公園へ飛んでいった。
残されたのは道端に落ちた食べかけのフランスパンと鞄。
「???」
「???」
俺と大川さんは状況が理解できずに固まる。
〜お分かり頂けただろうか ×1/20でお送りいたします〜
横からとてつもない速さで走ってきた食べかけのフランスパンを通学用鞄に突っ込んだ女子が叫びながら半目状態で「いいいい」と言っているフルフェイスのバイクのマフラーに脛を当てる。
「ぅあっちぃいいいい!?!?!?」
女子は叫びながら鞄を空に高々と投げ、マフラーに当たった脛を手で抑えようとしたが、バランスを崩し、横に倒れ込む。
そして、お尻を支点にして、足でバイクを持ち上げて、勢い余ってバイクが公園の方へぶっ飛んだ。
少女は「ぅいいいいいたぅぁああいいいいいいい!!!」と足首をさすりながらグルングルンと地面を転ぶ。
そして、いつの間にか落ちていたフランスパンをジャンプ台のようにして公園の方へぶっ飛んだ。
〜等倍速にお戻し致します〜
何が起こったのかわからないが、取り敢えず吹っ飛んで行った公園へ行く。理由は単純に気になったからだ。
この公園は神公園と呼ばれている。
遊具はそれぞれ高さが違う鉄棒が3つと小さな砂場、滑り台、2つ連なるブランコが3つ、シーソーが設置されている。だが、この公園はこれら遊具には見合わないほど広い。遊具があるのは公園の半分程度。残りは木が生えていて足場が悪く球技には適さない何のためにあるのかわからない謎の空間だ。
俺たちは公園に着いて、辺りを見渡す……ことはなく、一瞬で見つける。
上半身が土に埋もれ、足だけが出ている。
もっと簡単な言い方をしよう。
犬○村だ。
その状態の人が2人もいた。
俺は公園版○神村を見て笑ってしまった。
「笑い事ではありませんよ!首など折っていたら……」
「これ程度じゃあ折れないよ」
「な、何言ってるんですか?」
「え?あの勢いならたんこぶ程度だよ」
「どう見ても3階ほどの高さから落ちていましたよ」
「たぶん大丈夫だよ」
俺は膝を掴み、思いっきり引っこ抜く。が、思っていたよりがっつり埋まってる。
「や、八潮さんを呼んできますね!」
大川さんは柚伏さんをおんぶしながら八塩荘に走って行った。
周りの土を掘って引っこ抜くしかないけど、こっちは時間がない。遅刻してしまう。
俺は深呼吸をして、もう1度上に引っ張る。
その時だった、身体中に強い電撃のような感覚が走った。
ズボォオン!と引っこ抜いた。
土まみれの上半身が地上に出てきた。
学ランは黒色から茶色に染められている。
俺はそこらへんに寝転ばせて、もう1人の方へ行く。
日焼けした細い足の肌。運動部の人だろうか。
俺は膝を掴み、さっきと同じ容量で上に引っ張る。
ズボォオン!と熊が現れる。
かわいいかわいいにっこりのくまさんが白かった布にプリントされている。
その布の名前はパンツ、またはパンティーと呼ばれるものだ。
俺は不意のパンツに「はぁ!?」と情けない声が出てしまう。
と、取り敢えず2人共ベンチで寝かせよう。
そう考えていると大川さんたちが来た。
「神里さ〜ん。あとは任せていい………キャァーア!」
大川さんの顔が赤くなる。
「ち、違うんだ!クマが襲ってきたんだ!」
うわぁあ!何言ってんだ俺は!
パン!と手の叩く音が鳴り響く。
その手は八潮さんのだった。八潮さんはにこりと微笑み、時計台の方を見る。
つられて俺たちも見る。
いつの間にか走らないと遅刻してしまう時間になっていた。
「やばっ!大川さん急ごう!」
「は、はい!」
俺はカバンを持って、「すみません。あとはお願いします」と言い残して公園をあとにする。
俺たちは隣合わせに俺が右側を大川さんは左側を走る。
俺はカバンを左肩にかけるようにして持ち替える。
大川さんの身長からしてたぶん俺の股間にはカバンが邪魔で見えないはずだ。
深い意味はない。
-・・・ ・・--・ ・-・-・ ・--・
目が覚める。
最初に感じたのは服の違和感と不快感。服を見ると土まみれだった。
そうか………。
このバカが突っ込んできて、ふっ飛ばされたのか。
あれ?じゃあ、俺のバイクは?!
俺は立ち上がって辺りを見渡す。
あった。
あったのだが。
俺は膝から崩れ落ちる。
「……俺の………バイク………40万……半年分の………バイト代……必死に……」
俺のバイクは何とか原型をとどめていた。奇跡的に目立った傷もない。
しかし、乗ることはできない。
理由はバイクが木の枝の付け根部分に挟まっているからだ。
「んぁ?どうしたの?」
ふと後ろから奴の声が聞こえる。
「おい……俺のバイク!どうしてくれんだよ!?」
俺はバイクを指さして、目の前のバカを涙目で睨む。
「へ?」
バカが指の先に視線を移す。
「うぇええぇ!?」
バカが気づいたよう…「遅刻しちゃうよ!!」
何言ってんだこいつ。
俺は時計台を見る。
針が指しているのはもう遅刻確定の時刻だった。普段の俺なら急いでるだろうが、今はそれどころではない。怒りと悲しみがごちゃごちゃしている。
「んなことよりも…!」
「早く行こ!」
バカは俺の手首を掴み、走り出す。
全速力だった。こいつは元陸上部。そんなやつが全速力で走ったら……
「引きずるな!学ラン破れる!止まれ!止まってくれ!尻が燃えるから!!」
そんな声は相手には届いていなかった。
ちなみに、学校に着く直前にカバンを公園に置いてきたことに気づき、爆速で引き返されて、3限目には間に合った。