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世界は愛おしい!  作者: 終マ2
3章 人の道
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38話 見るのも痛々しい!

「何してんだお前ら」

 ふと大川が来た方向からまた声が聞こえる。

 そこには宮黒さんが建物の端から顔をのぞかせていた。


 柚伏は返答に困ったかのように大川を見る。

 大川は少し考えた後、「喧嘩?です」と言った。


「まあいい、暇なんだろ?ちょっと来い」


 宮黒さんは顔を隠してしまう。

 別に暇というわけではない。本来は学校に行って授業を受けている時間だ。ただバックレているだけで暇という訳ではない。


「神里さん、立てますか?」

「ちょっと待って」


 俺は負傷した部分を治して立ち上がる。と見せかけて柚伏を抱きかかえる。


「俺に惚れてんのか?柚伏ちゃん?」


 小動物のように可愛らしい柚伏は照れて顔を真っ赤っ赤になる。そして俺の手の内でジタバタと暴れ始める。それほど俺の魅力に魅入られたということか。


「…俺はなんて罪な男なんだ……」


 こんなちっちゃい子すら俺の魅力に気付かされるなんて……


「殺す!殺すっ!絶対にコロす!!」

「殺したって俺は死なないZE☆」


 俺はそのまま柚伏を抱きしめる。そして左右に揺さぶる。

「いい子だ柚伏ちゃん」

「なんでこんなに力強いのよ!?離せ!!」


 ハハハ!柚伏が俺の顔を触ってくる。そんなにも触れていたいのか!首の骨が折れる寸前まで強く触ってたいのか!


ゴギっ



 ───ハッ!?

 ……何が起きた?


「あ、起きましたか?」

 耳の横で声が聞こえた。

 そちらに振り向くと目と鼻の先の距離に大川の顔があった。身体が密着していて肩を貸して貰っていた。


「うわぁ!」

 俺は直ぐ様大川から離れる。

 女性の身体ってあんな感触なのか。大川と手が繋がっていた手を見る。


 なんか柔らかかったな。


『キモいな』


 そんなん俺が1番感じてるわ!


 ていうか待って!?

 俺、柚伏に何した!?なんか凄いことしてた気がするんだが!?


『抱きついてたな』


 誰か俺を殺してくれ………

 俺は両手で顔を隠す。

『なら右隣の奴に頼め』

 右隣…?俺は右を向いて誰がいるのか見

「ぬわあぁぁああ!?」

「うっさい。真横で叫ぶな」

 隣には刀を肩に担いでいる柚伏がいた。そして柚伏は睨みを利かせながらドスの効いた声で「次叫んだら口縫い合わせるから」

「……はい…」


 ところで今はどんな状況なんだ?


 俺たちは今玄関の前にいて、目の前の塀に寄りかかってタバコを吸っている宮黒さんがいる。


「これって何の最中?」

 俺は思っていることをそのまま大川に向けて言う。


「えっと…」

「新しい住居者の出迎えだ」

 その質問は宮黒さんが答えた。


 タバコを携帯灰皿に入れて腕時計を確認する。

「ちょうどか」

 宮黒さんがそう呟くと1台の白のバンが前の道路に停まった。


 バンの運転席から誰かが降りてくる。

「まだ野垂れ死んでねえって悪運が強いな、ミヤクロ」

 可愛らしい声色なのにワニに睨まれているかのような威圧感に襲われる。


「加えて、今はガキの子守とは……ザマァねぇな」


 身長だけは小1の女児だ。自然な金髪は、左だけ刈り上げされていて、毛量の差で模様が描かれている。右は伸ばされていて、耳が完全に隠れている。後ろはポニーテールにされている。金属フレームの真っ黒なサングラスをかけていて目は見えない。


 黒のシャツは第二ボタンまで開けられていて胸元が見える。けど目に向くのは胸元から首筋まであるタトゥーだ。全体像は見えないがかなり入っている様に見えた。黒のスラックスを締めるベルトにはしっかりと樹脂ホルスターが着けられていて、スライドやらグリップが見える。


 ここまでの人物描写でこの人は只者ではないのは明白。1度見たら2度と忘れないインパクトがあるが、それを強調するものがあった。左腕に装着されたフロストランドクラッチだ。


 いかにも強そうな雰囲気を漂わせているがこの杖だけ彼女の過去を物語っているようだった。



「で、そいつが神里っつう野郎か。ふんっ……まだ◯◯◯の毛が生え揃ってねえガキじゃねぇか」

「さっさと用件を済ませてくれ」

「あ?私は昨日あのクソから配達の依頼されて今日実行してんだぞ?もっと労働者は労わりな」

 彼女は杖をつきながら、バンのドアを勢いよく開ける。


ドサッ


 と嫌な音が鳴る。


 バンから人が落ちた。その人は謎児、もとい美郷こゆりだった。


 全裸のまま手足は縄で縛られ、口は布で巻かれて、目も布で隠されている。

 縄や布はどす黒い赤色で染められている。全身は紫や赤など皮膚が変色している。鉄の匂いが鼻を通る。


 謎児は微動だにせず、まるで死んでいるかの様で、俺は恐怖で尻もちをついた。

 大川や柚伏は何事もないかのように立ち続けているが、空気は張り詰めていた。柚伏の刀を握る強さは増して、大川は少し手を開いて腰辺りに手を添える。


「こんな人クズがなんの役に立つかは知らねぇが、依頼は果たした。報酬をもらいたいが、その前に」


 金髪の少女は俺の前に来て、サングラスをずらして俺の顔を覗く。黄金に輝く右目はこちらを向いているが左目がこちらを向いていない。


「私は情報屋でね、てめえとアザトースの情報を買いたい。てめえとアザトースの足の小指の長さから頭の毛の数まで知れたら、この加齢臭漂う廃れた国の借金なんてへでもないくらいの額が手に入るんだ。もちろん無償って訳じゃねえ。手に入った金額の4割をてめえにやるよ。それでも末代まで苦のない生活が送れるぜ?どうだ?」


 俺に迫ってくる。まるで脅されている感覚だ。

 俺は現実感が湧かない提案に戸惑い恐怖しつつも受け答えをする。


「え、遠慮しておきます……」


 彼女はサングラスをかけ直して、


「金じゃ釣られねえか。まあいいや、報酬も貰ったし」

「えっ?」


 彼女は宮黒さんの方を向いて、黒のシャツの胸ポケットから1枚の紙と小瓶を取り出した。


「こんな紙切れと瓶の為にガキ1人養うって、中身が気になっちまうだろ?値段はそっちが決めて良い?売る気はねえか?」

「残念だが、売る気はない。用が終わったらさっさと帰ってくれ。こいつらに毒だ」


 彼女は皆に聞こえる大きさで舌打ちをして、車に戻った。運転席のサイドガラスを開けて、顔を出してくる。


「私はアリスって呼ばれてる。覚えやすいだろ?差別と格差の国からこの老衰と腐敗の国まで来たんだ。移民なんだから優しくしてくれよ?あー、あと困ったら私を頼りな。東京でアリス(・・・)商店(・・)っつうのを営んでるから。モダンで良い店だよ」


 アリスさんは「もしあのダッセェ仮面に出会ったら、へそと◯◯◯くっつけてへその緒作ってやるって伝えとけ」と言って、サイドガラスを閉める。そして車を発進させた。


 俺は宮黒さんに色々訊きたいことがあったが、まずは痛々しい謎児の抱きかかえた。


 酷く軽くて冷たい身体はまだ辛うじて息をしていた。医学には詳しくない俺でもこのまま放置したら1時間も持たないとわかるほどに衰弱していた。


 俺はブレザーに入れていたバタフライナイフで自分の手の平に刃を当てる。


「待て」

「こんな状態で何言ってるんですか!?今すぐにでもしないと死んじゃ……」


「ここで治療したらここら1面血の海だ」

「……っ!」


 そうだ。この子はこんなにも小さな図体で柚伏も大川も鶴山も殺しかけた相手だったんだ。


「治療の準備は中でしてある」


 宮黒さんは謎児をゆっくりと抱き上げて、中には入っていった。

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