3話 八潮さんは若々しい!
おっとり系美女はパンパンに詰められたエコバッグを持っている。
胸はあっち系の動画で爆乳、巨尻のタグを付けられるほど大きい。
ここから見える横顔だけでも、美人だとわかる。
「うふふ」と柔らかく笑い、1つに束ねた不自然な金髪を揺らす。
その美女が俺に気づき、手招きをする。
俺はそれに応え、居間に入る。
「あっ神里さん!今呼びに行こうと思っていたんです。この人は……」
大川さんは5本指を揃えて美女を指差す。
それにしてもこの美女、若いなぁ。年上感もあるし、3年生の先輩だろうか。
「大家さんの八潮 美幸さん」
え?大家さん!?
JK大家ってこと!?
「お若いですね…」
そう言うと、八潮さんはうふふ、と笑い、柚伏さんは鼻でふっ、と笑う。続けて、
「3年前に20代卒業してるどねー」
居間のテレビで格ゲーをしながら言った。
八潮さんは微笑んでいる。しかし、雰囲気が怖い。表情は一切替わっていないが、キレているのがわかるほど雰囲気がガラッと変わったのだ。
それに気づかずに柚伏さんはゲームに夢中になっている。大川さんは気づいたようだが、俺と同じで言葉を失っている。
八潮さんはエコバッグを置き、柚伏さんの隣に座り、もう1つのコントローラーを握る。
「みゆちゃんもやるの?」
柚伏さんは呑気なことを言っている。
八潮さんはペンと紙で文字を綴る。書いた言葉は『柚伏ちゃんが負けたら1週間、一日強制四時間勉強会をします。』と。
柚伏さんはようやく八潮さんが切れていることに気づき、「……み、みゆちゃん?なんか怖いよ……?」と話しかける。が、八潮さんはなんの反応もしない。ただ微笑んでいるだけだった。
────────
ボロ負けだった。
手も足も出ないとはこのことか……と思うほど華麗なコマンド入力で相手を圧倒し、攻撃を喰らわずカウンターを仕掛ける。勝負は一瞬で終わった。
「アタシが……負けた」
柚伏さんの第一声は絶望に染まっていた。
「決着も着きましたし、お夕飯の準備をしましょうか」
大川さんはエコバッグを持って台所に行く。八潮さんはコントローラーを置き、台所に行く。
柚伏は固まっている。
俺はふふっと笑ってしまった。
「おめぇ、笑ってるけど、一日強制四時間勉強会だぞ。」
柚伏さんが暗いトーンでぼやく。
ま、まさかこいつ………
「一緒に勉強しようじゃないか……神里」
「お、横暴すぎる!」
「もし、おめぇが参加しなかったらおめぇのタンスにみゆちゃんのパンツを入れる」
脅しだ。これは脅しだ。こいつのどこが優しいんだ……
こうして俺も勉強会に参加することになった。
「「「いただきます」」」
俺達4人はちゃぶ台を囲い、八潮さんと大川さんが作った夕食を手にする。
俺ずっと気になっていたことを訊く。
「八潮さんは…その……吃音症なのですか?」
大川さんと柚伏さんは「あっ」と何かに気づいた顔をする。
沈黙は無かった。誰も思い詰めた表情はしていない。
「神里さんはここに来たときおかしいと思いました?」
大川さんは箸をおいて話し始める。
「あぁ!そういえば、怪奇現象があったんです!」
「内見した建物がなくなっていた……でしょう?」
「は、はい」
「八潮さんが原因というか…所業というか…」
???
まったく話が見えてこない?
そのとき、八潮さんが口を開いた。
「▲○☆#゜¶µ」
何と言ったかは解らなかった。聞こえたはずの声にノイズが走った感覚だった。
だが、そんなことがどうでもよくなることが目の前で起こっている。
家庭用ゲーム機のコントローラーがちゃぶ台の上に出現した。
俺は理解が追いつかない。思考を停止したい気持ちでいっぱいだった。
ただ、1つわかったことがある。
理解不能なことが目の前で起きると人間は驚くことすらできない。
「あの怪奇現象はこれが正体なのです」
大川さんは話し続ける。
「つまり、八潮さんがあのアパートを出しました」
何を言ってるのかはわかるが。何を言ってるのかがわからない。
信じられないことが多すぎて思考が追いつかない。
「さゆり、こいつ理解してないよ」
柚伏さんが会話に入ってくる。
「俺強え系は好き?」
「へ?…まあまあ…かな」
突然の質問に素直に答える。
「それでよくあるでしょ、女神が与えたスキルやら祝福とかで無双するのが。みゆちゃんも同じく、たまたまそんな異能力があるの」
なんとなくわかってきたぞ。とりあえず、そんなのがあるのか。科学的におかしい気がするが納得するしか無い。
「で、そんな異能力には代償があんの。みゆちゃんの場合は声が出せなくなること。代償はMP代わりみたいな感じ」
わかってきたぞ。
「つまり、八潮さんの物を出すチカラでアパートを出したということですか?」
「そ。さゆがさっき言ったことはそゆこと」
柚伏さんはお茶を飲み、ふぅ、とひと息ついて、
「んで、アタシたちも異能力がある」