29話 上はおどろおどろしい!
耳をふさいでいてもまるで近くに雷が落ちたかのような程の音が届く。そして、打ち上げ花火が爆発したような衝撃を何倍も強めたものが身体を襲う。
僕は放心状態に陥っていた。
しかし、大川が僕の肩を叩いたことで、正気を取り戻した。
「北村さん、後はお願いします」
僕はゆっくりと立ち上がると、窓は割れていた。その先は外ではなく、この部屋と全く同じ内装の真っ暗な部屋だった。
違うのは爆発で落ちてきた瓦礫たちだけだった。
そして瓦礫と一緒に落ちてきたものがあった。
「つ、鶴山!大丈夫なのか!?」
鶴山と少女が落ちてきた。鶴山は全身傷だらけだった。おそらくあの傷は爆発でのものじゃない。
鶴山は小さく「はい…」と言って、トンファーを強く握る。
「北村さん、ここは私たちに任せてください」
大川は僕にバットを投げ渡した。柚伏が使っていたバットだ。
隣にいる柚伏を見ると通学カバンから日本刀を取り出していた。どう見ても通学カバンから出てくるもでは無いが、ツッコむ暇もないので、見なかったことにして「わかった」と返事をする。
北村さんはバットを持って走り出す。
すると少女は彼のことを目で追い、彼に手のひらを向けた。少女の異能力はわからないけど彼の邪魔をさせるわけにはいかなかった。
私はスカートの内側に隠していた愛銃、ルガーLCPをコッキングと同時に構え、そして少女の前肩に標準を合わせて1発。
手にくる衝撃と同時に、弾丸は少女に向かう。
1秒にすら満たない時間が私たちの運命を決める。そう思った。
弾は少女の肩を貫き、血が吹き出る。
少女は私の方に振り向き、私に手をかざした。
窓の先は窓が1つもない真っ暗な空間だった。唯一光っているのは非常口マークだけ。
あと、窓の先は鏡の中のように世界が反転していた。違うのはさっき述べた通り窓がないところだ。その他は椅子の位置も書類の量すらも同じだった。
そして中には誰もいなかった。真っ暗な部屋を手持ちのスマホだけを頼りに階段に辿り着く。
上るか下るか。僕はどちらが正しいのか迷っていると、下から足音が聞こえてきた。誰か来る。
僕は息を呑み、待つ。
1歩1歩、均一な速さで近づいてくる足音は鼓動を加速させる。
やがて、その足音は僕が照らしていた踊り場にたどり着いた。
照らされたのは神里
ではなく、仮面をつけた男性だった。
話に聞いていた、あの少女の仲間だ。
「神里さんなら後から来ますよ。おまけもいますから安心して下さい」
そう男は言って、階段を上ってくる。
「それ以上近づくな!」
僕は牽制して、男の動きを止める。しかし男は一瞬止まったものの、再び足を動かし始める。
「止まれ!」
「そんなに興奮しないでください。私は敵対するつもりはありません。あの子を止めに来たんですよ。ほらあの子、強いでしょう?もしものことがあったら大惨事ですから」
男がバットが届く位置に来たのと同時にバットを振りかざす。が、手に力を入れた瞬間に男はスーツからリボルバーを出して、僕の指を確実に撃ち抜いてきた。
手には激痛が走り、手を見ると親指と人差し指、中指が無かった。
バットは手から離れ、階段から転げ落ちる。
「安心してください、神里さんが治してくれますから」
男はそう言って、引き金を引いた。耳に届いたのは1発の発砲音だった。
僕はゆっくりと下を向く。僕の腹と右の胸に穴が空いて、服に血が滲み出る。
そしてじんわりと意識が遠のいていき………
階段を上っていると突然銃声が聞こえた。銃声は聞き慣れていないからかろうじて上からの音だとしか分からなかった。
そして上に何かが起こっているということを予想して、足を速める。
「あの銃声…本当に大丈夫なのかよ……?」
蓮井の不安は白山にも移り、
「ねえ…やっぱり待とう?」
ふたりの足はだんだん遅くなる。
もちろん俺だって不安はある。ここで待って助けを待ちたい気持ちはある。
でも何かが僕を掻き立てる。行かなくちゃ。行かなくちゃ。
それは誰かから命令されているような感覚だった。
「ふたりはここで待っててくれ」
「で、でも……!」
「そもそも命の重さが違うんだ。俺は頭が外れても生きていける。心臓を取られても生きていける」
拷問のときに色んなことを知った。自分の異能力の強さは死なないことと凄まじい回復力だ。体が真っ二つにされても再生するし、断面をくっつければ元通りになる。首が外れたとしても生きていけるのだ。火傷もすぐに治るし、毒は解毒される。どれも苦痛を伴うが、死ぬというリスクはない。
「俺は誰よりも無茶できるんだ」
俺は足を止めてふたりを見る。どちらも困惑と不安をかき混ぜた顔をしている。
「ここから出たら犯人のことを洗いざらい言ってもらうからな。俺がお前ら全員とっ捕まえてやる」
そう言うとふたりは頷いて、
「なら生きて帰って来いよ」
「ちゃんと捕まえてね」
「…ああ」
俺は階段を上る。
あいつらは加害者だ。犯人のことを知っておきながら、黙り込み、そしてこんなことに陥らせた。もっと早く犯人のことを話していればこんなことにはならなかった。こんな辛いことは起きなかったんだ。
でも、辛いのはあいつらも同じだと思った。今でも罪悪感で押しつぶされるんしゃないかと。今すぐにでも贖罪したいんじゃないかと。そう思ったんだ。短い間しか付き合っていないが、あのふたりは自ら悪事をする人とは思えなかった。
あいつらは今、自分を許せていないんじゃないか。なら、俺がするべきことは罪を償わせることだ。
こんなことを招いたあいつらは俺は絶対に許さない、刑務所にでもぶち込んでやる。そうあいつらに言うことだ。
罪人に向ける慈悲とは罰を与えることだ。そう信じて、俺は階段を上り続けた。
2、3階分階段を上ったときだった。踊り場で誰かが倒れていた。俺は誰かを確認するため、血の池に足を突っ込み顔を確認する。
「……北村!?」
俺はすぐにさっき拾ったナイフで手首を切って、血液を飲ませる。傷はみるみる回復して、呼吸もハッキリしてきた。
俺は一安心して、階段を見上げる。
この先にいったい何が待ち受けているのか……
俺の額から流れた汗は目尻の横を通った。




