26話 同行は絶対に許さない!
あれから、どれほどたっただろう
あたまがはたらかなくなってきた
ほんとうはしんでるんじゃないか
さけぶほどのきりょくなんてない
うごけるほどのからだはもうない
このままねむってどこかいきたい
『おい、正気にもどれ』
アザトース?お前ずっと黙ってたけどどうしてたんだよ。
『眠っていたのじゃ。汝が妾の異能力を使ったからの。妾の体力が尽きてしまったのじゃ』
俺はお前の異能力なんて…
『使った。柚伏と戦ったとき、汝、警棒とパイプを出したじゃろ。あれは妾の異能力じゃ。無理やり使われたから驚いたぞ。やはり汝にしか無い何かがあるのじゃ』
とりあえずアザトース、何とかしてくれ。このままじゃ頭がイカれる。
『もうイッておったがな。そうじゃな…待つだけじゃとつまらんしの……逃げるか。汝にその覚悟があるならじゃが』
この拷問され続ける状況よりか悪くなることは無いだろ、たぶん。
『ならば手足の拘束だけ取ってやろう。妾ができるのはここまでじゃ』
途端に手足の紐が緩む。力を入れたら解けるぐらいだ。
俺は耳を澄ませ、近くには1人しかいないことを確認する。いやどちらかというと祈っている。
その1人はずっと俺を拷問していた男だ。今は拷問器具を選んでいて、カチャカチャと音を鳴らしている。ずっと俺のそばから離れなかったから、ここから離れるのことは無いだろう。
なら逃げるなら今しかない!
俺は手足に力を入れて、拘束を解く。すかさず、目の布を取って視界を確保する。
窓の無い個室、奥には扉がある。あそこから出られる!
俺は扉に一直線に走り、ドアノブをひねり、前に押す。
ガチャン!
扉は開かない。
「そんな簡単に逃げられませんよ」
後ろからゆっくりと足音が近づいてくる。
ヤバい
手前に引っ張る。
ガチャン!
しかし開かない。
ヤバい
後ろから足音が近づいてくる。1歩1歩確実に音は俺の方に向かっていき、やがて足音は真後ろでパタリと止まる。
俺は振り返るのと同時に拳を相手に突き出す。が拳は男には当たらなかった。まして、突き出した拳が無事なわけも無かった。手首から先は身体から離れてしまった。断面から血がドバドバ滝のように流れ落ちる。
俺は跪き、床に落ちた手を眺める。さっきまで動いた手が今は自分のものではない肉片になっている。
『怯むな。敵から目をそらすな』
俺は見上げて、男の顔を見る。彼の顔はおしろいをまぶした様に白く、口と目は三日月の形をしている。あの日見た仮面だった。
「そこまで逃げたいのですか……」
そのとき、仮面の男の電話が鳴った。
アイツに連絡してから4日が経った。もうすぐ痺れを切らして電話をかけようとしたとき、アイツから電話がかかってきた。私はすかさず電話に出る。
「見つかったの!?………………わかった。ありがとう」
電話を切って、通学用鞄を持ってリビングに向かう。
放課後だから制服のままだが、一刻も争う状況で着替えている暇なんてない。
アタシはそのまま隠し部屋から出ようとはしごに触れたとき、後ろから誰かが近づいてきた。
「…何?」
「私も行きます」
来たのは鶴山だった。あの日、協力的では無かった女だ。
「アンタは信用できないからついて来ないで」
「明里ちゃん、相手は1度負けた人たちです。仲間は1人でも多いほうがいいと思います」
鶴山の後ろからひょこりと出てきたさゆりはギターケースを担いでアタシの前に立つ。
「………信用できない仲間を連れてくくらいなら1人で行ったほうがマシ」
「でも…!」
「ここで言い争っても時間の無駄だよ」
そう言ったのは、さゆりの後ろから出てきた北村。
「…何アンタら、ふざけてんの?」
次々と出てきやがって。最初からいっきに出てこいよなら。
「明里ちゃん、私たちもついて行くよ。少なくても私はどこでもついてくよ」
「……んもー!お前のことなんて知らん!勝手にしろ!行くよさゆり!」
アタシははしごに足をかけて、上りかけるがすぐに止まり、北村に言い放つ。
「お前が先に上れよ。なに黙って下にいようとしてんだ。殺すぞ」
パンチラを防いでから1時間弱、日は傾き始めていた。
着いた先は大字駅のとある薄汚れた細長い雑貨ビル。ここに神里がいる。結局ついてきたのはさゆりと鶴山と北村、つまりは全員。
アタシはそこそこ強いし、さゆりは昔から一緒だったから強さはアタシが本人の次に知っている。しかし、鶴山はあの宮黒の手下。北村はそもそも能力者ですらない。
本当にアタシたちが勝てるのか?
少しの不安と死ぬ覚悟を抱き、アタシらは雑貨ビルに足を踏み入れた。