19話 今日は何かおかしい!
教室に戻った俺たちは目を丸くした。
ある席に人が集まっているからだ。その席は俺の右隣の席。
「有名人でもいるのか?」
「いや、あの席はずっと空いてたはず」
困ったものだ。隣の席だから俺の席が占領されている。
「は〜い席に座って〜」
担任の入海 愛先生が入ってくる。
生徒たちは次々と座り、ホームルームが始まる。
生徒たちはまだ賑やかで、所々笑い声が聞こえる。
先生がパチンッ!と手を叩き、生徒たちを静かにさせる。
「昨日のことですが、学校に爆弾を仕掛けたという脅迫が来たらしくて、至急皆さんを下校させたそうです」
教室が途端にさらに騒がしくなる。
「先生!爆弾はどうなったんですか!?」
とある男子生徒が好奇心と恐怖心を原動力にして問う。
「幸い、爆弾はありませんでした。なので、今日は通常授業です」
えぇー!と教室がブーイングに包まれる。
「まだ爆弾があるかもしれません!今日は休校にしたほうがいいと思いますっ!」
さっきの男子生徒が手を上げて声高らかに言う。
そして、その流れに乗って教室の雰囲気が休校の流れになる。
バンッ!と先生が教卓を叩く。
教室は静かになり、緊張が走る。そして数秒開いて、先生が語る。
「私、昨日彼氏にフられました。帰るのが早かったから、クビになったんだろ!って言われて……ならお前と付き合う必要はないって言われて……タケちゃん……」
入海先生は教卓に突っ伏して、静かに泣く。
と思ったら
「あのクズ野郎っっ!!ただ私の給料でギャンブルしたいだけだったんだろ!!競馬競輪競艇パチンコスロットたまにクズ友との賭け麻雀!!!!クレジットカード止められたこと知ってんだからなっっっっ!!!私以外の女とお楽しみしてることも知っっってんだかんなっっ!!!家族から絶縁されたこともな!!!!!!……………私はずっっっっっっっっっと我慢してきました。どんなクズでも私を愛してくれる人だと思ってたから………っでもっ!実際は私より年収が高くて、締りの良いお股ガバガバな女に乗り換えるために今回のことを口実にして捨てるクズ男!!…す…………ろす………殺す……………ブッ殺す!爆弾仕掛けて学校もろとも、あいつの家もろとも!!!そしてナイフで頸動脈滅多刺して、山手線の電車に引き飛ばされて玉川上水に突っ込んで死ねば良いんだわ!!!!!!!!!!!チャカポコ!チャカポコ!!ケエエエェェェェェ!!!!!」
教室に阿鼻叫喚の嵐が吹き荒れる。
阿鼻叫喚ってる人は1人だが、40人程度の人間が氷のように固まっていて、恐怖の雨が心を突き刺している。
俺もその中のひとり。横目で北村を見ると俺と同じ反応を、鶴山を見ると無表情のままだった。
隣なのに遠いな。
そのとき、他の先生が教室に入ってくる。ガタイの良い中年男性の先生と入海先生とほとんど歳の違いがなさそうな若い女性。
「落ち着いてください!大丈夫、大丈夫ですから!東先生、入海先生を保健室に運んでください」
中年男性は指示を出して、女性教員はその指示に従って入海先生が連れ出される。
「えー……入海先生が不在の為、わたくしがホームルームを行います」
中年教員はそのまま教壇に立ち、話し始める。
「入海先生は素敵な女性です。今回はあの優しさゆえに、ストレスが溜まり爆発してしまったのです。誰でも極度のストレスを加えると…少し正常な判断が出来なくなってしまうのです。なので…えー、彼女のことを嫌いにならないでください。………あなたたちを責めるわけではありませんが、言葉は慎重に選びましょう。はい、終わりです。号令はなしです。では」
嵐だ。嵐のように現れて過ぎ去る。
いや、…なんだろ……このなんとも言えない空間は。
午前中の授業は最悪な雰囲気なまま終わった。
そして現在、昼休み、俺達3人はA組でご飯を取っていた。
教室の空気は最悪だったのと、A組に集合しろと放送がかかったからだ。もちろん直接的ではない。
なにも放送しないのにピンポンパンポンだけ流れて終わることあるだろ?
それが俺達異能力者の集合の合図になっている。他にまだ何個かあるがそれはまた別の機会で。
「このパン甘すぎるな。1回食べたら満足する味」
隣で俺が肉のお礼で買った1日限定クリームパンを頬張る北村。
クリームパンを買うとき、それはもう戦場であった。
満員電車のように押し込まれている生徒の中に割り込んでいき、なんてことはないが、授業終了と同時に閃光のように駆ける陸上部がいて、それをなぎ倒していく柔道部とラグビー部たち。
そして一番強かったのは、よぼよぼな古典のおじいちゃん。
俺の教室は4階にあるのだが、その教室からロープを垂らして、チャイムがなる直前に窓から飛び下りたのだ。
ちなみに、俺が1階に駆け下りた時に担架で保健室に運ばれていった。担架で運ばれながら、
「かけめぐる〜
かぜのこたちに〜
かなわない〜
こしとひざ……」
と、短歌か俳句かよくわからないものを詠っていた。
そして、肝心な購買は皆規則正しく並んでいた。生徒会の人からピンク色のモヒカンにしている個性的な生徒まで、挙句の果てには学校で買ってるウーパールーパーまで陸に上がってきていた。
ここまで、人を狂わす…人以外までも狂わすクリームパンはどんな味なのか気になったが、1人1個だったので1つだけ買って北村に渡した。
そしてあの発言である。
純粋に俺の努力を返してほしい。
「次は1ヶ月に1回だけ売られる幻のカレーパンにしよう」
「はあ!?」
「あの肉がどれほどの価値があるか考えてみろ」
「いや、わからん。高いだろうなくらいで」
普段食べてる牛肉はわかるが、黒毛和牛が何円かなんて知る由もない。たまに売られている黒毛和牛とは格が違うだろうし、あの肉は庶民が見ることもできない品だろう。
「170円より高い。だから次はカレーパンだ」
「努力はお金に入りませんかね〜?」
現に俺はラグビー部にタックルされて、柔道部には背負投げされた。それでも、限定クリームパンを買ったのだ。
「努力に価値はない。努力した結果に勝ちがある」
北村の口角が上がる。
「お前ただ俺が苦しむところが見たいだけだろ?!」
「うるせぇーー!」
少し離れた席で大川さんと一緒に昼食を取っていた柚伏さんが怒鳴り始める。
「もっと静かに食えねぇのか?!あ゛っ!?」
「野蛮な女じゃ」
と誰かが言った。
数秒沈黙が流れ、そして俺に視線が集まる。
「お、俺?」
柚伏さんはフッフッフッと笑いながら、通学用カバンを漁り、中から鉄バットを取り出す。そんなところからバットが出てくるか?いやありえないだろ。そんなデカくないだろカバン。
「死にてぇならさっさと言いなさいよ……殺してやるから」
ゆずふしさんがおそいかかってきた!
→にげる
あやまる
いったのはアザトースだとべんめいする
俺が選ぶべきなのは………
「かかってこい」
違うっっ!!!挑発じゃない!
この発言で柚伏さんがヒートアップしたかのように見える。見える。柚伏さんの後ろに龍がいる。
おいアザトース!何してんだよ!?
『いや少し彼女の力を見たくてな』
勘弁してくれ!
バギィーン!!
俺の弁当が乗っていた机が真っ二つに折れる。同時に俺の心も折れた。
柚伏さんが頭めがけてスイングをする。
ははは……終わった…………
ゴキッ!
っと鈍い音が左耳の近くで鳴る。
同時に左前腕から激痛が走る。
「いってぇぇえええ!!」
無意識的に動いた左腕がスイングを喰らい、頭部を守る。が、腕の関節が1つ増えた。
俺は椅子から後ろに転げ落ちて、床を右往左往転がる。
「アザトースだったか?たしか世界征服目指してんだってな……ならここでアタシを殺してからにしな」
『中々面白い奴じゃ。しかし、彼女を殺すのは無理じゃな』
全然面白くない!どうしてくれんだよ!?
『うむ。ではここで汝の異能力の使い道を示そう』
異能力?
『異能力は心に宿る。汝ならその腕くらい一瞬で元通りじゃ。想像してみよ』
柚伏がバットを振りかざす。俺は横回転して避ける。
カンッ!とバットが床を打ち付ける。
「明里ちゃん!落ち着いて!」
大川さんが柚伏さんに矛を納めるように言うが、
「どうせいつか殺り合うんだ。ならまだ弱ってる今殺す。この男もろとも」
それは届かず。
俺はこの間に立ち上がって、体勢を整える。
左腕はぶらんぶらんしていて赤紫に変色している。指は動かない。
やるしかない。
自分を信じろ。
自分の異能力を信じろ!
俺の左腕よ治ってくれ!!
そのとき、不思議な感覚が身体を巡った。
妙な高揚感と自分が自分でなくなるような喪失感、痛みは消えて、感覚が現れる。
「かかってこいよ、柚伏」
アタシを呼ぶ声。誰のものか。
答えは明確。神里司しかいない。
しかし、彼ではない。
「ショー・タイムだ」




