15話 作戦始動
10数分後、2人はお目覚め。
鶴山はまだ意識がハッキリしていなくて、もう少しここにいるそうだ。
宮黒さんの方はタバコを吸いながら、
「アザトース、お前の考えに一理あると思ったが…なら殺しはなしだ。殺したとき、俺は全力でお前を殺しに行く」
「よかろう」
また口が勝手に動いた。
「じゃあ、もう行け」
宮黒さんは机の上の書類に目を通し始める。
「あの、服とかは……」
「ない。今日は休め」
さっきと言ってることが違う。
ということは俺は、友人に「ちょっと席外す」と言っといて帰っただけの狂人になっちゃうじゃん。北村になんて説明すれば良いんだよこれ。
「あの、ジャージとかは借りれないんですか?」
「……………」
「宮黒さん?」
「……ここにいろ」
また言ってたことと違う。と思いはすぐに消える。
宮黒さんの表情が険しくなったからだ。
「鶴山、神里を護れよ」
そう言って、宮黒さんはタバコを置いて出ていった。
鶴山は弱い声で「…はい」とだけ。
宮黒さんが出て行って約1分後、全校アナウンスが流れた。
「全校生徒、全職員はすぐに下校してください」
内容は10秒も無かった。でも、この放送で学校は混乱の渦に巻き込まれた。
そして、ある2人が親友のために、命を少し張る。
俺がまだ、異能力というのを理解できていなかったころの話。
保健室にいた俺でもわかるぐらい学校内は騒がしくなった。
授業中に加えて、生徒だけでなく職員も下校を命令されたのだ。
誰もがただごとではないとわかっている。
それ故に、混乱して声を大きくなり、騒がしくなる。
「鶴山!早くここから……」
『アヤツの言葉を思い出せ。ここにいろと言われたろう。とりあえず、鶴山を正気に戻せ』
鶴山は虚ろな目をしながらぼうっとしている。
鶴山を正気に戻せったってどうすればいいんだよ。
『自分の異能力を思い出せ』
俺の……?
回復させる異能力……もしかして、精神状態にでも効くのか?
『異能力は精神に宿る。汝が思うなら、叶うはずじゃ』
俺はポケットに入っていたナイフを取り、刃を出す。
俺の血が……本当にできるのか?
ナイフを人差し指に刺す。
血のドームは形を大きくして、やがて流れ始める。
これって飲ませても良いのか?
『それは汝が決めることじゃ』
要は自分を信じろってことか。
俺はできる……俺ならできる……
鶴山の口に指を近づけ、口の中に入れる。
ざらざらしててぬめりがあって、温かい。
な、なあ…これってどれくらい続ければ……
『血が足りんようじゃな』
俺の意に反して、口から指が離れ、近くの机に手を付ける。
おい!なにする気だ!?
『妾が汝の使い方を教えてやる』
ナイフが俺の人差し指を第1関節から分断させる。
「いっ……っっ────!!」
俺はナイフを落とし、切った指を片方の手で覆う。
これが……俺の力なのかよ……
1筋の涙が出て、歯茎が痛くなるほど食いしばる。
『いつか慣れる。我慢しろ』
乱れた呼吸を整え、意を決する。
俺は再び指を口にいれる。
感触なんてない。
ただ痛い。切断面から伸びる神経が焦がされる感覚が走る。
「ありがとうございます」
鶴山の細くて小さい声が届く。
「鶴山、大丈夫か?」
「はい」
俺は指を離して、指を握る。それでも止まらない出血は指の間から滴り落ちて、床に打ち付ける。
鶴山は俺の指を見て、表情を変えないまま
「応急処置をいたしましょう」
鶴山は起き上がり、棚から包帯や消毒液を取り出す。
そのとき、戸がガタンガタンと鳴る。宮黒さんが閉めたのだろうか。
俺はなんにも考えずに戸の方に近づき、鍵を開けようとする。鍵に手を伸ばした瞬間、それに気づいた鶴山が
「離れてください!」
と鶴山から聞いたことのない声量で叫ばれる。
でも、もう遅かった。
鍵は開けていない。戸が破壊されて、突然飛んできた戸を避けられるわけもなく、俺は戸の下敷きにされたのだ。
俺は頭を強く打ち、視界が何重にもぼやける。
戸があった場所には、6?5?人くらいの人影が見える。
耳鳴りの中に、話し声が聞こえる。
たぶん、鶴山の声……と…男の声か?女の声にも……
ここで最後に聞こえた声はとても鮮明で、耳鳴りなんてものも貫通していた。
『弱いな』
アザトース……お前は何者なんだ……
「あいつ遅いな……」
今、僕は校庭に出て、整列をしている。
この緊急事態時に前に出て指示しているのは先生ではなく、生徒会長の志田。やはり、生徒会長は凄いな。あれはもう役不足だろ。
「まだ生徒が揃いきっていないか……」
あまり目立ちたくないんだが……唯一の友人のためだ。一肌脱いでやるか。
僕は手を上げる。
「君は……」
生徒会長が僕に気づき、口ごもる。
「北村です。……いない人をリストアップして1部の教員と今いる生徒を帰すのがいいのではないでしょうか」
生徒会長は少し悩み、答えを出す。
「そうしよう。教員とは私が話をつけよう」
生徒会長は指示台から下りて、教頭と話す。たぶん、2言くらい交わしただけで終わる。
すると教頭が指示台に上り、
「えー…今いる生徒たちは下校し、各学年主任と養護教諭の宮黒さんは残って、それ以外の先生方も下校してください」
そして数分間、生徒たちは下校し続け、俺もその流れに従い……
校内に侵入した。
「あの生徒会長…本当に何者なんだ……」
まあいいや……迷ってんのか知らないが、あいつを探すか。