14話 10年ぶりの来客
血が飛び散り、鉄臭い匂いが部屋を駆ける。
手足を縛られた人間の頭には1つの穴が空いている。眉毛の間の穴から血が滝のように流れる。
半開きの目は瞬きもせず、下を見つめる。
それはもう、生を無くした死体であった。
「残念じゃったな」
しかし、その死体は口を開く。
「こやつはこんなものじゃ死なんぞ」
死体は顔を上げる。血を流したまま、目を見開き、笑う。
「久しいな……宮黒、会えて嬉しいぞ」
「俺はもう会いたくなかったけどな」
俺はコッキングして排莢する。薬莢が床に落ち、カランカランと音を立てる。
「世界征服が企みか?」
「それ以外あるのか?」
「何故俺の前に現れた?何故俺達に自分の情報を与えた?何を考えてる?」
「そんないっぺんに質問するな………目の調子はどうだ?」
挑発か……そんなん物で心が乱されるものか。
「俺の質問に答えろ」
「先生のお墓参りはちゃんと行っているのか?」
やめろっ……お前が先生の話をするなっ!
「黙れっっ!」
俺は引き金を引く。
弾丸は左胸部、心臓が位置するところに当たる。
神里の身体からは尋常じゃないほどの、出血死するレベルの血が吹き出る。
「わかりやすい男じゃ……この知識も先生から教えてもらったのか?」
俺はもう一度撃とうとコッキングする。
次で仕留めるように狙いを定める。
「その銃でこの身体は死なんよ。暗殺向きのその銃じゃな。大砲じゃなければ、妾は楽しめん」
「もういい、死ね」
「何をしているのですか……宮黒さん」
保健室の扉は閉めていたが、誰かが開けたか。もっとも、ここの鍵を持ってる奴なんか限られてて、誰かなんて一瞬でわかったが。
「何の用だ、鶴山」
「神里司は護衛対象です……命令に背く気ですか………?」
「だとしたらどうする?」
鶴山は口を少し開いたまま息が止まり、一瞬戸惑った様子を見せる。だが、すぐに言葉を発する。
「裏切り者として、私がここで貴方を拘束します」
「お前じゃ俺には勝てないぞ」
「私はここで耐えるだけです」
鶴山はトンファーを取り出し、戦闘態勢を取る。
「安心せよ鶴山。神里は死なん」
妾は異能力を使い手足の拘束を外す。
そして、手を上に向け、
「汝らに妾の力の片鱗を見せよう」
目を開けると、真っ白な空間にいた。
「おはよう」
そう声をかけてきたのは黒髪ロングの女性。顔はぼやけていてわからない。
「あの、俺は死んだんですか?」
何だろう……酷く冷静だ。この状況が一切わからないのに、焦る必要が無いとだけ感じる。
「大丈夫だ。君は死んでいない。死ぬ以外君にとってはかすり傷のようなものだ」
彼女は少し間を開けて、語る。
「私と少しお話をしないか?」
俺はなんとなく頷く。
「ありがとう。……君にとって、未来は何だ?」
「未来……自分で切り開くもの……とか」
彼女はフフフと笑う。
「良い答えだ」
彼女はそのまま続ける。
「君はこれから色んなものに出逢う。悲しいことだったり、腹立たしいことだったりもあるだろう。時には、迷うこともある。でも、君の信じる道を行け。そうすれば、未来は君のものだ」
視界がぼやけていく。
「もう時間みたいだな。アドバイスだ。自由は幸せとは限らない。また会おう」
視界はぼやけ、ついに女性の輪郭すら捉えられなくなり、光も無くなる。
目が覚める。
鶴山と宮黒さんはどちらも口から泡を出して、白目をむいて立ったまま気絶している。
「どうゆう状況?」
『ようやく起きたか』
何したんだよ。
『妾の力を見せただけじゃ』
俺はベッドから立ち上がり、気づく。
なんか俺めっちゃ血まみれ何だが。
『顔もじゃぞ』
そっか、頭を撃たれて……死ぬのってこんなにあっさりしたものなんだな。
『何馬鹿なことを。妾が衝撃を和らげたのじゃ。死ぬ経験なんぞしたら、大抵の人間は壊れるからの。汝もじゃぞ』
じゃあ俺はお前に助けられたのか?
『そうじゃ。感謝してもよいのじゃぞ?』
よく考えたら、お前がいたからこうなったんだろ。
そのとき、チャイムが鳴る。
やばっ、今何時だ?!
俺は壁がけ時計を見て唖然する。
2限目が終わったチャイムだったのか。遅刻じゃん。早く行かないと……
と思ったが、この状況で行っても……あと、ここをおいても行けない。
「……家に帰りたい……」
そんなことをボソッと言った。もちろん、ここの誰も聞いていない。心のなかににいる奴は別だが。
1つ訊きたいんだが、お前は俺の身体を操れるのか?
『そうじゃ。じゃが、今の妾の力では動かせるのはほんの数秒。精々口を動かせる程度じゃ。あと、精神が宿っていない身体の方が動かせる』
どういうことだ?
『つまり、寝ている人と起きている人を操るなら、寝ている人のほうが好都合ということじゃ』
だから俺を1回殺させたのか……
『それほどの衝撃はなかったじゃろ?』
……不思議なくらいにな。
お前は本当に何者なんだ……