12話 朝日は眩しい!
あのあと、裸足になり、包帯を巻いてもらった。
松葉杖も用意してもらい、相合傘をしてもらい帰った。
そこを詳しく説明しろって?
俺がただ、「いてぇ…いてぇよぉ……」
と呻きながら帰っただけで情けないだけだから割愛。
ちなみに鶴山は同じ八塩荘の住人らしい。
昨日いなかったのは任務があったかららしい。
学校を出たときは日は出ていたが、八塩荘に着く頃には日は落ち、月が現れていた……雲がなければ綺麗な月が見えていただろうか。
八塩荘に入ると、大川さんが駆けつけて来た。
「事件に巻き込まれたと聞きました。大丈夫ですか……きゃああ!」
大川さんが恐る恐る俺の足を指差す。
「ま、まさか……」
「いや、これは自分でやった。事件?は鶴山が駆けつけてくれたおかげで大事にはならなかったよ」
大川さんはどこか安心した顔をしたが、また、青ざめる。
「…でも……その足は?」
「ナイフが突き刺さっただけだよ」
「大丈夫なのですか?」
「明後日くらいには治ってるよ」
鶴山は先に居間に行き、俺は尻をついて、靴を脱ぐ。
「晩御飯は八潮さんが用意してるの?」
「はい。今日は生姜焼きですよ」
「朝ご飯もお弁当も美味しかったから楽しみだな」
洗面台に行き、手を洗う。
そのまま俺は松葉杖をつきながら居間に入る。
「なにその足?」
テレビを見ながら夕食を食べていた小柄な少女、柚伏さんが反応する。
「ちょっとヘマしちゃって」
「ふ〜ん、Mなんだ」
「断じて違うからな」
俺は即答して、座布団に座る。
「自分で用意しろよ」
ハッとなる。無意識的に誰かが用意ししてくれると思い、座布団に座ってしまった。
今、親に甘やかされて生きていたことを実感した。
俺は立ち上がろうと足に力を入れる。
ちゃぶ台に手をついて、よっこらしょ
「……何やってんの?」
普通に立とうとした俺は盛大に転び、床に頭をぶつけた。幸い、畳だから大声を出すほど痛くはなかった、頭は。足はもう全身の血が出てるんじゃないかと思うほど痛かった。思わず「いたあぁ!!」と叫んでしまった。
「……ごめん。誰かご飯を持ってきてください」
「自分がヘマしたんだろ?自分で責任取れよグズ」
正論かもしれないが、怪我人にそんな辛辣なことを言わないでくれ……泣いちゃう。
「私が取りましょう」
そう言ったのは鶴山。
優しい……
約1分程度待つと俺の前にはほくほくと湯気を立てる白米と生姜焼き、味噌汁が広がっていた。
「ありがとう、鶴山。ほんとに助かった」
俺はいただきますをして、箸を取る。
美味しい夕食を食べたあと、足に注意を払いながら風呂に入り、自室で少しスマホを見て、歯磨きをして、現在寝る準備を終えたところだ。
今日は疲れた。時刻はまだ10時前だが、寝るか。
電気を消して、布団に入る。
「おやすみ〜」
と誰に対してなのかわからないことを言う。
妾には野望がある。
信じておるぞ。
目を開ける。
何故か目が覚めてしまった。枕元にあるスマホで時間を確認する。
「……4時半か…」
深夜と早朝の境目みたいな時間だな。
俺は二度寝しようと再び目を瞑る。
が、胸騒ぎがして、起き上がる。
何かが起こりそうな予感がする。
俺は妙に速い鼓動に我慢できず、立ち上がり自室から出る。そのまま、階段を駆け下りて、パジャマのまま、いつの間にか治っていた裸足のまま靴を履いて、玄関を開ける。
東の空は日は出ていないがほんのりと明るくなっている。
俺は何かに焦燥感を駆られ、小走りで心が導かれる方へ足を進める。
どこかはわからない。でも、わかってる。
謎だ。自分でも意味不明だ。
彼女との因縁の地はあの場所しかない。
会ったことがない。行ったこともない。
けど、俺はなんとなく、知ってるんだ。
無いはずの記憶を頼りに足を進める。
そして着いた先は、朝にも行った……学校だった。
俺は校門を開けようと横に押したり、前に押したりするが、当たり前だがこの時間では施錠されていて開かなかった。
「やっぱり閉まってるか……」
しかし、まあよじ登れるほどの高さしか無いし、登ればいいか。
俺は校門を越えて、敷地に入る。
次は校舎に入る必要があるが、勿論入口は閉まっている。
て、あれ?
隣の扉を押してみると難なく開いた。
誰かが閉め忘れたのだろうか?
何にせよ、校舎に入れたから良いか。
俺は土足のまま廊下を走り、階段を上り1つの扉の前で止まる。
屋上に続く扉……この先に……
俺はドアノブを捻り、開ける。こっちも開いてるのか……
まるで、俺がここに来るのを分かってたかのようだ。
俺は深呼吸をして、屋上に出る。
東の空はほんのりと明るく、西の空は真っ暗で、雲は片方だけ輪郭を隠し、片方はぼかし、街全体がほのかに照らされている。
どこか幻想的らしい光景に目を取られる。
少しずつずれる空は時間を感じさせ、暖かい空気で、夏が近づいてきているのを2つの感覚で感じる。季節が、変わろうとしている。
『久しいな、神里司よ』
どこからか、突然声が聞こえた。
俺はあたりを見渡す。
が、誰もいない。
気のせいか?
『汝にとってはお初かのう?』
いや、気のせいじゃない。同じ声だ。さっきと同じ女の声。
どこにいる?隠れてるのか?
『汝に妾は見つからんよ』
自分の動きが止まる。動揺と意味深な言葉が俺の身体を止めた。思考も呼吸すらも、止まった。
『妾は汝の心におるのじゃからな』
あり得るわけ無い。人の心に入り込むなんてそんなのゲームとかの作り話じゃ無い限り、あり得ない。
喉に詰まった息を出して、頭を回転させる。
異能力………
まさか……もしかして………
『やっと気づいたか…』
心の中に入り込む異能力なのか?
『まあ、及第点は与えよう。妾の異能力は違うが、汝の推測は部分的にあっておるしな』
俺が言葉を発していないのに会話をしている。彼女の言っていることは本当のことなのだろう。
『理解できたようじゃのう』
東の空がオレンジ色に染められてゆく。
『妾の名はアザトース』
そしてついに、太陽が空に顔を出した。
俺にはとても眩しくて、一瞬目が閉じる。
ゆっくりと目を開けると
紺とオレンジが混ざる空と照らされる雲、輝く濡れた床、電線に泊まっていた鳥が影となり空を駆ける。
今まで見てきたどの景色より美しい
『いずれ、世界を征服する者じゃ』