表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界は愛おしい!  作者: 終マ2
1章 曙の道
13/43

12話 朝日は眩しい!

 あのあと、裸足になり、包帯を巻いてもらった。


 松葉杖も用意してもらい、相合傘をしてもらい帰った。


 そこを詳しく説明しろって?

 俺がただ、「いてぇ…いてぇよぉ……」

 と呻きながら帰っただけで情けないだけだから割愛。


 ちなみに鶴山は同じ八塩荘の住人らしい。

 昨日いなかったのは任務があったかららしい。


 学校を出たときは日は出ていたが、八塩荘に着く頃には日は落ち、月が現れていた……雲がなければ綺麗な月が見えていただろうか。


 八塩荘に入ると、大川さんが駆けつけて来た。

「事件に巻き込まれたと聞きました。大丈夫ですか……きゃああ!」

 大川さんが恐る恐る俺の足を指差す。

「ま、まさか……」


「いや、これは自分でやった。事件?は鶴山が駆けつけてくれたおかげで大事にはならなかったよ」


 大川さんはどこか安心した顔をしたが、また、青ざめる。

「…でも……その足は?」

「ナイフが突き刺さっただけだよ」

「大丈夫なのですか?」

「明後日くらいには治ってるよ」


 鶴山は先に居間に行き、俺は尻をついて、靴を脱ぐ。

「晩御飯は八潮さんが用意してるの?」

「はい。今日は生姜焼きですよ」

「朝ご飯もお弁当も美味しかったから楽しみだな」

 洗面台に行き、手を洗う。


 そのまま俺は松葉杖をつきながら居間に入る。

「なにその足?」

 テレビを見ながら夕食を食べていた小柄な少女、柚伏さんが反応する。

「ちょっとヘマしちゃって」

「ふ〜ん、Mなんだ」

「断じて違うからな」

 俺は即答して、座布団に座る。

「自分で用意しろよ」


 ハッとなる。無意識的に誰かが用意ししてくれると思い、座布団に座ってしまった。

 今、親に甘やかされて生きていたことを実感した。


 俺は立ち上がろうと足に力を入れる。

 ちゃぶ台に手をついて、よっこらしょ


「……何やってんの?」


 普通に立とうとした俺は盛大に転び、床に頭をぶつけた。幸い、畳だから大声を出すほど痛くはなかった、頭は。足はもう全身の血が出てるんじゃないかと思うほど痛かった。思わず「いたあぁ!!」と叫んでしまった。


「……ごめん。誰かご飯を持ってきてください」

「自分がヘマしたんだろ?自分で責任取れよグズ」

 正論かもしれないが、怪我人にそんな辛辣なことを言わないでくれ……泣いちゃう。

「私が取りましょう」

 そう言ったのは鶴山。

 優しい……

 約1分程度待つと俺の前にはほくほくと湯気を立てる白米と生姜焼き、味噌汁が広がっていた。

「ありがとう、鶴山。ほんとに助かった」

 俺はいただきますをして、箸を取る。


 美味しい夕食を食べたあと、足に注意を払いながら風呂に入り、自室で少しスマホを見て、歯磨きをして、現在寝る準備を終えたところだ。

 今日は疲れた。時刻はまだ10時前だが、寝るか。

 電気を消して、布団に入る。

「おやすみ〜」

 と誰に対してなのかわからないことを言う。






 妾には野望(・・)がある。

 信じておるぞ。





 目を開ける。


 何故か目が覚めてしまった。枕元にあるスマホで時間を確認する。

「……4時半か…」

 深夜と早朝の境目みたいな時間だな。

 俺は二度寝しようと再び目を瞑る。


 が、胸騒ぎがして、起き上がる。

 何かが起こりそうな予感がする。


 俺は妙に速い鼓動に我慢できず、立ち上がり自室から出る。そのまま、階段を駆け下りて、パジャマのまま、いつの間にか治っていた裸足のまま靴を履いて、玄関を開ける。

 東の空は日は出ていないがほんのりと明るくなっている。

 俺は何かに焦燥感を駆られ、小走りで心が導かれる方へ足を進める。


 どこかはわからない。でも、わかってる。

 謎だ。自分でも意味不明だ。


 彼女(・・)との因縁の地(・・・・)あの場所(・・・・)しかない。


 会ったことがない。行ったこともない。

 けど、俺はなんとなく、知ってるんだ。


 無いはずの記憶を頼りに足を進める。



 そして着いた先は、朝にも行った……学校だった。


 俺は校門を開けようと横に押したり、前に押したりするが、当たり前だがこの時間では施錠されていて開かなかった。

「やっぱり閉まってるか……」

 しかし、まあよじ登れるほどの高さしか無いし、登ればいいか。


 俺は校門を越えて、敷地に入る。

 次は校舎に入る必要があるが、勿論入口は閉まっている。

 て、あれ?

 隣の扉を押してみると難なく開いた。

 誰かが閉め忘れたのだろうか?


 何にせよ、校舎に入れたから良いか。

 俺は土足のまま廊下を走り、階段を上り1つの扉の前で止まる。

 屋上に続く扉……この先に……

 俺はドアノブを捻り、開ける。こっちも開いてるのか……

 まるで、俺がここに来るのを分かってたかのようだ。


 俺は深呼吸をして、屋上に出る。



 東の空はほんのりと明るく、西の空は真っ暗で、雲は片方だけ輪郭を隠し、片方はぼかし、街全体がほのかに照らされている。

 どこか幻想的らしい光景に目を取られる。

 少しずつずれる空は時間を感じさせ、暖かい空気で、夏が近づいてきているのを2つの感覚で感じる。季節が、変わろうとしている。



『久しいな、神里司よ』



 どこからか、突然声が聞こえた。

 俺はあたりを見渡す。

 が、誰もいない。

 気のせいか?


『汝にとってはお初かのう?』

 いや、気のせいじゃない。同じ声だ。さっきと同じ女の声。

 どこにいる?隠れてるのか?


『汝に妾は見つからんよ』

 自分の動きが止まる。動揺と意味深な言葉が俺の身体を止めた。思考も呼吸すらも、止まった。


『妾は汝の心におるのじゃからな』

 あり得るわけ無い。人の心に入り込むなんてそんなのゲームとかの作り話じゃ無い限り、あり得ない。

 喉に詰まった息を出して、頭を回転させる。


 異能力(アビリティ)………

 まさか……もしかして………


『やっと気づいたか…』


 心の中に入り込む異能力(アビリティ)なのか?


『まあ、及第点は与えよう。妾の異能力(アビリティ)は違うが、汝の推測は部分的にあっておるしな』


 俺が言葉を発していないのに会話をしている。彼女の言っていることは本当のことなのだろう。

『理解できたようじゃのう』


 東の空がオレンジ色に染められてゆく。


『妾の名はアザトース』


 そしてついに、太陽が空に顔を出した。

 俺にはとても眩しくて、一瞬目が閉じる。

 ゆっくりと目を開けると

 紺とオレンジが混ざる空と照らされる雲、輝く濡れた床、電線に泊まっていた鳥が影となり空を駆ける。


 今まで見てきたどの景色より美しい


『いずれ、世界を征服する者じゃ』



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ