11話 アクションは難しい!
鶴山さんが体を起こし、俺と宮黒さんを見る。
「……すみません、護衛しきれませんでした」
鶴山さんが頭を下げる。
「謝らなくて良いですよ!」
彼女が謝る必要なんて無い。なんなら、俺は彼女に感謝をしなくてはならない。彼女がいなければ誘拐されていただろう。
「そうだ…鶴山は謝る必要なんてない。作戦通りだからな」
作戦通り…………
元から彼女が守り切れるなんて思ってなかったんだ。
俺は心の底から沸々と怒りが込み上げてきた。
宮黒さんの作戦に対して、宮黒さん自身に対して、そして、それを今ここで言えない自分の弱さと不甲斐なさに対して。
俺はただ、歯を食いしばり、シーツをグシャリも握るだけだった。
「……なら、良かったです……」
鶴山さんの表情は動かない。ただ、目線が自身の腹部に移っただけ。
「これが……神里司様の異能力ですか」
これ、とはたぶん傷のことだろう。
「起きたなら、早く帰ってくれ」
「………」
俺は静かに座っているだけだった。さっきまで気絶していた人に言う言葉ではない事はわかっていても圧倒的強者に物言いはできなかった。
「了解しました」
鶴山さんはベッドから降りて、カーテンレールに掛けられているブレザーを着て引き戸に手をかける。
「…ああ、それと、A組に案内してやれ」
「はい。了解しました」
「ほら、お前も出てけ」
宮黒さんは俺のブレザーを投げ、俺に覆いかぶさる。
俺はブレザーを掴み、鶴山さんの後に続いた。
廊下は夕日に照らされる。赤い空は不気味に見えた。でもどこか綺麗だと思う俺は外を眺めていた。
「神里司様、A組に案内致します」
鶴山さんは歩き始め、背中が遠くなっていく。
俺は後に続き、後ろを歩く。
「あの、鶴山さんは……」
「私の呼び方はなんでもいいです。鶴山でも真白でも私は構いません」
「じゃ、じゃあ…鶴山?鶴山は宮黒さんに……なんて言うんだろう、不満とか無いのか?」
「心配してくださり感謝します。しかし、無用です。あの方は被害を最小限に収めることを第1に考えていますから……必要とされている限りは命を落とすことはありません」
夕日は雲に隠され、外が暗くなる。
「もし、必要のされなくなったら……?」
鶴山が歩みを止める。
「そのときは…………」
夕日はもっと厚い雲に隠され、雨が降り始める。
「……………指示に従います」
夕日は見えない。雲の先の日はどんなものだろう。
鶴山は再び歩き始める。
雨は強よくなる。
案内されたのは食堂。
ここでは格安で美味しい学食を食べられて昼休みはいつも混雑している場所である。ときどき、期間限定のメニューが出て、スクランブル交差点よりも人が集まるという。(by北村)
ここには七不思議に突然人が消えると言われている。(by北村)
「ここに隠し通路があります」
鶴山が非常口の扉ノブを何度か捻り、開ける。
その先には上りと下りの階段があり、床に穴が空いて、隠し階段が現れる。
「……凄いな…」
「開け方は後でお教え致します」
鶴山は隠し階段を下る。俺は恐る恐る下りる。
何段か下りると入口が閉まり、一瞬暗くなるが灯りがつく。
階段の先には1室だけが広がっていた。普通の教室より2倍くらい広い部屋。
壁には大きなホワイトボードがあり、プロジェクターが天井にぶら下がっている。
椅子と机以外にも、後ろの方には大きなロッカーが置いてある。
「ここが能力者だけが使う部屋、通称A組です。普段は自身の異能力の理解を深めるために使います」
鶴山はロッカーから何かを取り出し、机の上に置く。
それは電流計だった。
「私の異能力は〚放電〛です。なのでこのように持つと……」
電流計の針が右に振れる。
「おぉ…!」
電流計の針が左に振れる。
「おぉ…!」
何か自分がバカっぽいな。
「最初は電流の向きまでは操れなかったのですが、特訓すると操れるようになりました。このように、異能力とは特技のように成長させることができます」
鶴山は電流計をロッカーに戻し、また何かを取る。
「あなたの異能力は聞いています。なので、これを常に持っていてください」
鶴山が持っているのは銀のバタフライナイフ。
「…なぜ?」
「もし私や他の能力者が負傷した場合、あなたの血を飲まして回復させるためです」
てゆうことは、自分の手とか切れってこと??
俺はバタフライナイフを受け取る。
「宮黒さんがアクションができるようにしとけと」
アクションと言うのは、なんか、クルクルしてクパッとするあれだろうか。
見ているだけならかっこいいがやるとなると怖いな。
俺は試しにペン回しの要領で人差し指で回してみた。
が、ペン回しすらできない俺が、こんな重いものを回せるはずがなく、手から落ちる。
俺はそれを受け止めようと手を差し伸べる。
しかし、変なところを掴んだせいでバタフライナイフの手持ち部分が開き、刃が現れる。
掴みはしたが、握力が足りず、指からスルッと落ちる。
ナイフは刃を下にして落下する。下へ、下へと。その先には
「いっっっっっつあぁぁぁぁあああっっ!!!!」
ナイフが靴を貫通し、足に刺さる。
鶴山は表情を変えずに
「流石に、靴から滴り落ちた血を飲むのは……嫌です」
俺は痛みに悶えたまま、小さな声で言う。
「…………俺にそんな特殊性癖はないっ……」




