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世界は愛おしい!  作者: 終マ2
1章 曙の道
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10話 宮黒さんは恐ろしい!

「鶴山さあぁぁぁん!!」

 手を伸ばす。が、前にいるのは血まみれの鶴山さんではなかった。右目に眼帯をつけた男性が机に向かっていた。

 気づくと、俺はどこかの室内のベッドに寝ていた。


「目が覚めたか」

 眼帯の男性は立ち上がり、


「んじゃあ、質問に答えろ」


 俺の喉にナイフの刃を立てた。

 俺は恐怖で言葉も出なかった。

 男性の目が本気だったからだ。本当に殺される、と本能が反応している。

 鼓動が加速し、今までにないほど体を揺らす。


「アザトースと呼ばれている奴は知ってるか?」


「あ、ああ、アザト、ース?」

 言葉が詰まる。泣いているときの嗚咽に近い。


「……外見は小学高学年、黒髪の膝まで伸びたロング、紺色の目をしてる。口調はのじゃ、とかふざけたやつだ」


「し、…知りませ……ン」

 喉に痛が走る。


 目頭が熱くなる。呼吸もままならない。


「本当だな?」


 声が出ない俺は小さく頷くしか無かった。




 喉のナイフが視界に映る。ナイフの刃から血が滴り落ちる。

「すまなかったな」

 男性はナイフの血をハンカチで拭い、椅子に腰を下ろした。ナイフを机に置き、足を組み、机に肘を着く。

「何がなんだかみたいな顔だな………何から言えばいいか。どれだけ能力者の事を知ってる?」


 俺は言葉を発しようとしたが、言葉が詰まり、詰まり何も話せなかった。

 男性は小さく短くため息をつき、頭を掻く。


 ほんの少しの間を置いて、男性は話し始める。

「僕は宮黒(みやくろ) (ゆう)八潮(・・)さんの後輩(・・)だ。僕は……元々裏社会側の人間だったんだがな、改心して社会の役に立ちたくて八潮さん側の後輩になったんだ」

 宮黒さんは俺の顔を伺いながら、話し続ける。


「そもそも、八潮さんがどんな人かも知らないか。八潮さんは能力者の保護をしてるんだ。さっきみたいな奴らからあんたらを守るって感じだ。能力者の保護をする機関があるんだが、そこは機密機関でな、表の顔は八塩荘の大家をやってる。で、僕はここで働いてる」


 ここ、という言葉で、目線だけを動かして辺りを見る。

 白いカーテンの隙間にはサッカーをする生徒たちがいる。棚にはいろんな薬品が並べられている。独特な匂いが鼻に通過する。


 ここが学校の保健室だとわかるのに時間はかからなかった。


 状況がわかってきたことで徐々に呼吸が安定していく。


「落ち着いてきたか?」


「………はい」


 俺は1度大きな深呼吸をして、自分がどこまで知っているかを話した。


「……そうか。じゃあ、お前自身のことは何も知らないってことか」


 確かに。八塩荘の人々が能力者ならば俺も何らかの異能力(アビリティ)があるはずだ。色々あって考えてすらいなかった。


「まず、僕がどこまでお前のことを知ってるか言っておこう。神里司、15歳9月16日産まれ、父母と1つ下の妹の4人家族。小学1年生のときに軽トラにはねられた後に電車にもはねられて、ダンプカーの下敷きにされて全身複雑骨折したにも関わらず2ヶ月で退院、3ヶ月目にはほぼ完治。先月も大型トラックにはねられて全治3ヶ月の怪我を負うも、1か月で完治」


 宮黒さんはひと息ついて

「いつ聞いても信じられんな」


 俺は固唾を飲み込み問うた。

「どうしてそこまで……?」


 宮黒さんが眉をひそめ、俺を見つめる。

「その前にアザトースって言う奴の話をしよう」


 アザトース。

 小学高学年の容姿、黒髪は膝まで伸びており、紺色の大きな瞳を持っている。

 性別は女。

 約10年前から存在が確認されている。

 彼女は能力者の研究で産まれた人工能力者の1人で、その中でも特殊で脅威的な異能力(アビリティ)を持つ。

 しかし自我が強く、酷く混沌を求める。また、異能力(アビリティ)とそのことからつけられた名はアザトース(・・・・・)

 人工能力者の中では、最高傑作とされ、同時に扱うことができず駄作とされた。



 その彼女の異能力(アビリティ)は万物を創り、万物を破壊する。

 彼女にとっては物体も現象も創造物であり、破壊の対象になる。


「……そして、アザトースは今、お前の中にいる(・・・・・・・)

 俺はその言葉を聞いて、思考が停止した。

 思わず、「は?」と言ってしまった。


「アザトースは他人の精神に入り込むことができる」

「で、でも、俺知りませんよ……」

 宮黒さんは立ち上がり窓を開けて、より掛かる。そのまま、スーツのポケットからタバコを取り出して、ヤスリをジュッと回して火を付ける。

「心当たりは本当にないのか?」

 疑問形で訊かれているが、その声には確信が宿っていた。


 俺には心当たりなんて無い。アザトースなんてここで初めて知ったし、能力者だって知ったのは昨日のこと。俺の中にアザトースがいれば絶対に気づくはずだ。


 応えなんて見つかっている。

 しかし、歯車の間に入り込んだ異物のように口が回らない。


 宮黒さんが白い煙を吐く。

「……お前の異能力(アビリティ)は〚異常なまでの回復力と免疫力、身体の頑丈さ〛だ。だから、電車に轢かれようが大型トラックに轢かれようが比較的軽傷で済んで、ほんの数ヶ月で完治するんだ」



「あとお前にはもう1つ力がある」


双子(ジェミニ)ってことですか?」

「少し違うな。異能力(アビリティ)は代償を伴う。異なってる力があっても代償が1つならそれは1つの異能力(アビリティ)として扱うんだ。あと、2つの力が似てるんだ。例えるなら双子(ジェミニ)は炎と氷を扱えて、力が2つ持ちの奴は炎と温度上昇を扱うみたいな感じだ」

 宮黒さんはタバコを大きく吸い込み、吐く。タバコの火を消し、携帯灰皿に入れる。

 そして、机の引き出しから救急箱ほどの大きさの箱を2つ取り出した。片方の箱は3つの鍵穴がある。


 宮黒さんはその穴に鍵を差し込みながら話す。


「お前のもう1つの力は〚回復させる〛こと」


 パカッと箱が開いた。中から注射器と紅い液体が入った小瓶が出てきた。そして、注射器で紅い液体を吸い上げて、注射器と瓶を机の上に置いた。


 宮黒さんはもう1つの箱から手のひらに乗るほどのネズミを首根っこを掴み持ち上げた。


人に限らず(・・・・・)にな」





 宮黒さんは後ろ足を引き千切った(・・・・・・・・・・)



 ネズミから聞いたことのない声で叫び、



 足をバタバタとさせ、



 血はそこらに飛び散り、



 吐き気が襲ってくる。


「見ておけ、これがお前の力だ」


 宮黒さんは注射器を取り、暴れるネズミを無理やり抑え込んで、刺し注入する。

 すると、暴れていたネズミが静かになる。


 だがそんなことよりも目を見張る物があった。


 傷口から突起物が生え、それが足となった。


 ネズミはさっきまでのことが嘘のように大人しい。


 しかし、床は紅い血溜まりを作り、千切れた足もしっかりと机の上に転がっている。


 ネズミは箱にしまわれる。



「これはお前の血だ」

 宮黒さんは手を拭きながら、歩く。


 その先は俺ではなく隣のカーテンがかかったもう1つのベッドだった。

「人間に試したのがこれだ」


 カーテンが開かれる。

 先にいるのは……

「鶴山さん!?」

 俺は銃に撃たれた部位を見る。が、服を着ていて傷が見えない。


 すると、宮黒さんが服をめくり、そっと撃たれた腹部をなぞった。

「ここに撃たれた傷があったが、お前の血を飲ませてから跡も残らずに治った。足も同様だ。今はまだ寝ているが何の後遺症もない」


 俺は安堵するのと同時に疑問に思ってしまった。

 俺は安堵したはずなのに心臓がドクドクと鳴る。


「……な、何で、鶴山さんが護衛したんですか…………?たぶん、俺には…いや、アザトースには絶対に敵の手に渡したくない人です。なら、何で、鶴山さんに、1人で俺を護衛させたんですか?」


 俺はこの発言を後悔した。


「虎を狩るより、猫を狩るほうが簡単だろ?そして、猫を狩ろうとしたときに虎が出れば少なからず相手は怯む。要するにただの囮だよ」


 そんな答えは聞きたくなかった。

 聞いたことにより、理解してしまう。この人は道を外れている。


 いや、わかっていた。喉にナイフを当てられたときから、宮黒さんは1線を越えている(・・・・・・・・)、と。


 でも、それが誰かなんて予想してなかった。


 宮黒さんは、味方も敵も切り捨てた、冷酷な……悪魔なんだ。


「……僕が怖いか?」

 柔らかい、威圧感など一切感じない言葉が耳を通る。


 宮黒さんは俺を見つめる。

 黒い瞳は俺を見ている。けど、彼が見ているのは、俺ではない何か……そう感じた。

 

 理由は優しい声と淋しそうな表情が俺を横切ったからだ。


「話が脱線したな。……わかっていると思うが、僕はクズだ。仲間を囮に使い、敵の家族もろとも手にかけたこともある」


 宮黒さんはベッドの隣りにあった背もたれの無い椅子に腰掛け、自身の手のひらを見つめる。


「でも、間違っているとは思ってない。能力者はな人として生きてはいけないんだ。人の道を歩めば、その先は地獄(・・)がある。親は焼き殺され、兄弟は嬲り殺され、姉妹は輪姦(まわ)され、友人は殴り殺され、恋人は死姦される」


 宮黒さんは握りこぶしを作り、眉間にシワを寄せる。


「外道には外道で制す以外無いんだ」


 宮黒さんはひと息ついて、

「お前が後悔する前に言っておく。能力者は外道にならないと奪われ続けるだけだぞ」


 そのとき、鶴山さんの目が開いた。

「……鶴山さん」

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