9話 任務:護衛
敵は7人、護衛対象は1人。
敵は能力者の様子はない。
私1人でいけますね。
「どこから出やがった!?」
敵は混乱している。
私は民家の屋根から飛び降りたのだが、この人たちにはわからなかったらしい。
「やめといたほうが良いですよ。能力者は常人よりも身体能力が高い傾向があります。7人程度では私には勝てません。投降しなさい、それが最善の手です」
私は鉄製の折りたたみトンファーを展開し、相手に向ける。
「嬢ちゃん、アンタに用はない。痛い目見たくなきゃおとなしく消えるんだな」
前の男がスーツの中から拳銃を取り出し構える。そして、周りの男たちも流されるかのように銃を構えた。
「流石に銃には勝てませんね」
「わかったならトンファーをゆっくり置いて回れ右しな」
私はトンファーをゆっくり、ゆっくりと地面に置く。
「では、勝った記念に私のトンファーを差し上げます」
そう言うのと同時にトンファーを勢いよく蹴り上げ、前の男の顔面に当てる。
男はそのまま地面に倒れ込み、鼻血を出しながら気を失う。
私は神里司様が射線に入らないように細心の注意を払いつつ、銃口の向き、指の動きを見て弾丸を躱す。
そのまま、スカートのポケットからもう1つのトンファーを取り出し展開して男を殴って気絶させる。
その流れで投げたトンファーを回収して、そのまま1人ひとり片付けていく。
最後の1人を気絶させ、ポカーンとしている彼に近づく。
「申し遅れました。私はA組の鶴山 真白と申します」
私はトンファーをしまい、尻餅をついている彼に手を伸ばす。彼は手を掴み、そのまま引き上げて立たせる。
「俺は神里司って言います」
何も理解してない顔。
本当に彼が………
「鶴山真白さん、聞いていた以上に厄介な相手ですね」
後ろから男の声が聞こえた。
すぐに戦闘態勢に戻し、振り返る。
いるのは男性と少女が立っていた。
男性の方は中肉中背で体型では目立った特徴はない人。服装もTシャツにジャージのズボンを履いて、特に目立ったものはない。ただ、仮面を被っていて、その上、深くハットを被っていて、首の上からは異様であった。
一方で少女は白銀髪を腰まで垂らし、暗い紫色の瞳は私を射貫いている。小学生中学年の容姿だが、異様なのは表情。無表情よりまるで死人の顔だった。白いワンピースも合わさって本当に亡霊のようだった。
現れたのはたった2人だった。
しかし、この状況は好ましくない。
この2人、雰囲気からして……
「鶴山さん、今のアンタに勝ち目はありません。規則上、アンタは2人以上能力者と対峙した場合、応援を呼ばなければならないんでしょう?」
男はゆっくりと屈み、落ちている拳銃を手にする。
男だけなら、隙だらけだが、隣の少女が私から視線を外さない。
2人からは自分たちが死ぬはずがない、という自信と余裕を感じる。
加えて、私の立場をわかっているような発言をした。どこまで知られているのかわからない以上、下手には動けない。
私は確実に追い込まれていた。
男性は拳銃の薬室と弾倉内の銃弾を確認して、発砲した。
狙った先は私ではなく、神里司様。
私は咄嗟に神里司様の前に出て身代わりになる。
膝に1発、腹部に1発。
私は跪いて撃たれた部分を手で抑える。
男性は拳銃を投げ捨て、歩み寄って屈んで目線を同じ高さへと持って行く。
「今すぐ応援を呼びなさい。あなたにはもう時間が残されていませから」
私にはもう選択肢など無かった。
私はブレザーの内ポケットからスマホを取り出して、緊急用のボタンを押す。
「ぁ、あ、あんたの標的は俺だろ!?なんで、鶴山さんを撃つ──」
男性は神里司様の顔面を殴り、
「わたくしには確かめたいことがある。今のお前に用はない」
男性は私に視線を戻して、私にしか聞こえない声量で
「すみませんね」
私はみぞおちに強い衝撃を感じ、気を失った。
右目に大きな布の眼帯を巻いた男がある日当たり最悪な1室にいた。紅い液体が入った試験管が机の上にずらりと並び、隣のケースには死んだネズミから、体の一部を失って死にかけているネズミが入っていた。
スマホが振動して、画面を確認する。
「……はぁ……」
映し出されたのは緊急要請の画面。
まさか緊急とは。
よほど強い能力者と出会ったか、単純に敵が多すぎて追い込まれているのか。
取り敢えず、急いで向かうか。
ショルダーバッグは忘れずに。
車に乗り、現地に向かう。
赤信号だろうと突き進み、3分が経過し、車を停める。
ここからは徒歩で行こう。車が破壊されたら溜まったもんじゃないからな。
路地に入るとすぐに見つけた。
血溜まりの上に寝転ぶ女とその横で寝転ぶ男、そしてその2人を挟んで対峙している大勢と1人。
大勢の方は仮面の男を中心している雰囲気だ。その横にいる少女はそいつの助手のようなものか。その他は烏合の衆みたいな感じだな。
前の2人は能力者だが、まあ、対峙している彼女からすれば負ける相手ではないか。
あの少女……もしかして………………いや、まさかな
僕は対峙している1人の方に背後から話しかける。
「八潮さん、お久しぶりです」
彼らと対峙していたのは八潮美幸さんだった。
「八潮さんがいるなら僕はここに来る必要ありませんでしたね」
僕は八潮さんの横に立ち、敵を見る。
仮面の男はポケットから血のついたアナログ腕時計を取り出して、
「感動の再会ですね。ミヤクロさん」
あの時計には見覚えがある。忘れるはずがないほど、焼き付けた記憶の時間を巻き戻す。
血なまぐさい空間。先生の前には胸を切開された死体が横たわっている。俺は座っていて、死体が今どうなっているかわからない。左腕の腕時計の秒針は回っている。先生は作業をしながら、俺に話しかける。
『君たち怪物は人間じゃない……だから、人間らしく生きるな。その道は……』
「八潮さん、僕があの2人を……」
八潮さんは僕が言い終わる前に首を横に振り、1枚の紙を出した。
『あなたの戦い方は心が痛みます。たがら、彼女らを治療を優先してください。彼らは私がすべて引き受けますから』
「………わかりました」
僕は仮面の男の止まった腕時計を見ながら、
「お前が誰かは知らないが、どこの組織かはわかったよ」
僕は続けて言う。
「僕は2人の治療をします。八潮さんは足止めをしてくれませんか」
八潮さんはコクリと頷く。
僕は感謝を伝え、二人のもとへ駆け寄る。
途中、弾丸が飛んできたが、八潮さんの援護により無傷である。
鶴山の方は出血が酷いな。すぐに止血しないと死んでしまう。それに、首元の針の跡を見るに毒か何かに冒されている。ここだと気休め程度の止血しかできないし、解毒はできない。やはり、設備の整ったあそこに連れて行くしかない。
神里の力を使えば、ここでも止血も解毒、加えて傷穴も治せるが敵の前で使うのはこちらの手を明かしているようなもの。
使うのは躊躇われる。
僕はショルダーバッグから、電池式のハンダゴテを取り出して、電源を入れて傷口に当てる。
肉の焼ける匂いが鼻につく。
「あ”あ”う”っあ”あ”あ”!」
あまりの痛さに目覚めたのか、鶴山の叫び声が耳に届く。
2つの傷口を焼き、僕は両脇に2人を抱えて後ろに退く。
退くのは簡単だった。敵の前を通っても、攻撃を仕掛ける様子はなく、八潮さんと交戦を続けている。まるで、仮面の男が他の奴らに手を出すなと命令したかのようだった。
僕は2人を車に乗せて、エンジンを掛けた。
化け物なんているわけ無いと思っていた。いたとしても、俺たちなら蹴散らせると思っていた。
約10年前に突如に現れたこの組織は飛ぶ鳥を落とす勢いで権力を大きくして、東京では元いた極道を抜いて1番大きい組織になったのだ。
そんな組織なら、俺たちならたとえ化け物でも勝てる。うん10メートルの化け物だろうが、怪力の化け物だろうが、俺たちの敵ではない
しけし、現実の化け物は美しく、小さく、女だった。
その女は今、目の前にいる。
蜂の巣にしようと、どこからか現れたかわからない鉄の壁によって塞がれる。
そして、いつの間にか鉄の壁は消え、仲間が倒れてい─────




