コレクター
「それいらないならもらっても良いですか?」
夜中のビルの屋上に立って風を受けていた青年は、後ろから声をかけられて振り向いた。
転落防止用に設置された金網越しに見る景色の中には、中年の男性が一人、立っていた。
なんだか変な感じがすると思ってよく見てみると、なんと足がない。
「……幽霊?」
その言葉に男性はハイと頷き、だからと言って驚かないでくださいねと慌てて言葉を付け足した。
ここから飛び降りようとしている青年としては、幽霊なんてものをいまさら怖がりようがなかった。
「なにか用ですか? いらないならとかなんとか言ってましたけど」
「ええ、ですからソレ、いらないのなら貰ってもいいですか?」
幽霊はそう言いながら青年を指差した。
「ソレ?」
青年は首を傾げる。幽霊ははいと頷き、その体ですと答える。
困ったような顔をすると、青年は自分の現状を語り始めた。
「あげても良いですけど、職も友達もギャンブルで無くした上に色んなところから借りた借金で山のような催促状がきている状態ですよ。ヤミ金からも借りたので山が良いか海が良いか、なんてベタなことも言われました」
「ええ、ええ、それでも結構です」
幽霊はニコニコと笑ってそう言った。
クーリングオフは受け付けませんよ、青年はそう言ってから金網をよじ登ると幽霊の目の前に立った。
するとその瞬間に幽霊が青年の体に入り込み、逆に青年の魂が体から押し出された。
青年は自分の体を外側から見ながら尋ねる。
「痛い思いをしないで死ねて僕は満足ですけど、あなたはその体でなにをするんですか?」
「ええ、実は私、生前から収集癖がありまして。せっかく幽霊になったのだからあらゆる死に方を集めてみようかなと思ったんですよ」
ヤミ金の人たちがどんな殺し方をしてくれるのか、楽しみですね。青年の顔をして幽霊は楽しそうに笑った。