君はナチョスを食った事があるか?【極メシ!! 番外編】
世の中には多種多様の料理がある。国や地域、又は各家庭によって実に様々な料理が存在し、日々食されている。
……と、堅苦しい前置きはさておき、我が家は現在、週末に三連続でナチョスを食っている。しかも筆者の稲村某はちゃんこ番ならぬナチョス番だと嫁に言われ、毎回毎回作ってるのだ……どうしてこうなった?
事の始まりは、稲村某がYouTubeを観ていた時、とある動画配信者が「アメリカで発展したメキシコ料理」として、このナチョスを紹介していたのだ。稲村某、この時までナチョスが何なのか全く知らなかった。変な名前だが、メキシコでは日常的に食される大衆料理だとか。
ナチョスとは一体何かというと……
【メキシコ料理のトルティーヤチップに載せたサラダと牛挽き肉炒めをアメリカ内でテックスメックス(テキサス風アレンジのメキシコ料理?)した物】だそうだ。日本国内ではメキシコ料理店なら何とか見つかるかな?
その動画内では、様々な食材を加熱したり調味したりと手のこんだ調理をしていくのだが、肝心のナチョスに関しては幾つかのお約束があるそうだ。
①トルティーヤに似たチップスを皿の上に載せ、その上に野菜を載せる。チップスにはチーズを直に載せてベイクドさせる。
②チーズを使う。とにかく使う。
③手で掬い取るようにチップスと野菜、そしてチーズと肉(味付けした挽き肉)をガッと取り、食う。
まあ、ざっくりとした説明だが、こんな感じである。香ばしいチップスにエスニカンな味付けの挽き肉、そして山盛りの野菜とチーズ。各々が渾然一体となり、お酒も進むスパイシーな味わいが実に堪らんとか……だがしかし、ちょっと待て。
……俺、和食っつーか、サラリーマンの寿司職人なんだが? メキシコ料理とか全く専門外だし、更にいうとナチョスなんて動画観るまで作ろうとか一度も考えた事は無い。しかし、名前も変わってるし何となく旨そうだったんで、一ヶ月程前の休みの夕方、買い物中の嫁に聞いてみた。
「なー、ナチョスってメキシコ料理知ってる?」
「知らなーい。あんた作るの? どんな料理なの?」
「……判らん。ただ、タコスに載せるチリコンカンみたいなのをサラダに盛るみたい」
「じゃー今夜作ってみて」
はい、了解です。そんな軽いノリでしたが、我が家のナチョス製作がスタートしました。
材料。サラダ用のレタス、鶏挽き肉&胸肉、タコス用シーズニング(普通の国産メーカー品)、ピザ用チーズ、某お菓子会社の三角形チップス、トマト、黒オリーブ、サルサディップ用のピーマンとタマネギとレモン果汁。あとスパイス多種多様。
因みに材料と言ったものの、正直言ってそこまで厳密なモノじゃない。そもそも、料理ってのは作る側と食べる側が納得すりゃあ、ペンペン草を入れてカレー作っても成立するんだな。食って不味くなきゃ正義だし、レシピ通りじゃなくても構わないのよ。だから「おいこら稲村某! お前和食関係なんだしキチンとレシピに従えよ!」とか言われても「はぁあ~!? レシピ至上主義者かよバッカじゃねぇ~?」としか思わないし、従う気も無い。理由は簡単だ、食中毒にならないよう気を遣ってさえいれば、金貰って喫食を提供する立場じゃない限り、料理を作るなんて自由であるべきなんだ。
昨今、グルメの概念は過去より若干緩くなり、自分の好みをじわりと主張しながらより良い店を探す人が増えている。実に良いと思うよ、ホント。他人の評価をどーのこーのと気にするより、食べたいモノを食べたい時に食べる方が旨いんだからね。
それはさておき、我が家のナチョス一回目は動画を見ながら見様見真似でよちよちと作った。野菜はレタスメインながらザル二杯分(通常の二倍以上)、トマトはミニ八つとレギュラー一つを種抜きして投入し、チーズは下に敷いたスナック菓子に振り撒いてバーナーで焦がす分と牛乳で似て柔らかくしてかける分と、タコス用シーズニングで味付けした挽き肉と胸肉を載せて出来上がり……と、全部がドッサドサなカロリー爆上がり仕様になった。無論これ食っても痩せる気はしない。因みにアメリカではヘルシーなサラダとして区分されてるらしいが、流石はお米がサラダな国、実に潔くファットな感じである。
嫁「これどーやって食うん?」
稲「下に敷かれたチップスで野菜と挽き肉炒め持ち上げて食うらしい」
嫁「うー、取れなーい!」
稲「そう言うと思ってサラダ取り分けスプーンとトングあるぞ」
嫁「(食する)……うっま! これうっま!!」
稲「ほれもっと食え食え」
嫁「うっま!!」
正直言って、やれカツオ切れだのマグロが無いだのといつでも和食偏愛系な嫁が、ここまでハマるとは思わなかった。そのお陰で普段は少食な娘まで結構食ってたが、トマトは抜けとかいちいち小うるさい。ついでにトッピングの黒オリーブも要らんと言われ、二回目からオリーブ先輩は退場になったが。
はてさて、稲村某も初ナチョスってみるか。まあ、有り体に言って生野菜と挽き肉のトマト煮にチーズである。香辛料をふんだんに使ったせいで臭みはないだろうし、作った本人である。意外なモノは何も無い事は、自分が良く判っているんだがね。そんな訳でガザッとスプーンで掬い、皿に盛る。もっさりとね。
ではでは、早速食してみようか。
一口、うん……これでもかと挽き肉にクミンを入れたお陰で、ぽかりとクミンの香りがする。ああ、クミンってのはカレーに必ず入ってる香辛料だ。だがしかし、只それだけじゃない。挽き肉にはタコス用シーズニングだけじゃなく、コリアンダーにナツメグ、とにかく我が家にあった香辛料を全部入れたんだからな。甘いナツメグの香りに、鼻の奥をくすぐるようなクミンの匂い、そして夏の木陰のようなコリアンダーの涼しげな薫り。うん、複雑怪奇そのものだな。
と、そこに豚挽き肉の絶妙な滋味が加わり、トマトの酸味とチーズのコク、そして香ばしくなるまで炒めたタマネギの甘さが加勢するんだ。ああ、成る程成る程。メキシコ料理とは、スパイスと肉とトマトのお祭りな訳だ。こりゃあ堪らん、肉とトマトと野菜が実に頼もしい旨さになっていくぞ。因みに野菜はレタスだけだが、シャクシャクとした歯触りが無敵状態だ。そこにスナック菓子のぱりりとした噛み応えが加わるが、炙った香ばしさとしんなりとした箇所の食感の違いがまた楽しいのよね。あ、そうそう……本来のナチョスは牛を使うんだが、うちの嫁は牛脂と相性が悪いらしく食うと大抵腹を下すそうだから、我が家では豚肉か鶏肉しか使わないのだ。
嫁「うっま!! ……でもちょっと物足りないかも」
稲「俺を誰だと思ってんだ? ホレこれ掛けてみ」
嫁「……ナニコレ?」
稲「特製サルサソース。辛いと娘が食えんから、我々はこれで辛さ補完計画すべし」
嫁「……うっまっ!! もっと寄越せ!!」
稲「判り易い奴だなぁ」
このサルサソース、タマネギとトマトとピーマンの他は適当である。ピクルス無いかららっきょう漬け刻んで入れたし、辛さはタバスコ(スコーピオンソースだから入れ過ぎると死ねる)だけとホント適当。だがしかしそれで良いのだ。
嫁「……無いなった。全部無いなった!」
稲「あー、ご馳走さまだな」
嫁「じゃ、また来週もよろ」
稲「……ファッ!?」
こうして我が家のナチョスフィーバーは三回続き、二回目と三回目まで共通しているのはタコス用シーズニングとチーズとトマトだけ。二回目に入った水菜は三回目には無かったし、一回目のサルサに入れたらっきょう漬けも二度連続で入れなかったら「らっきょう抜きだったから物足りなく感じた」と言われる始末。次は入れよう。
総じて言える事は、旨きゃ勝ちである。メキシカンだろーがヒスパニックだろーが構わないし、我が家はそもそもヴィーガンでもモルモン教信者でもない。メッカの方角に顔を向けながら魚捌かなくても問題無いし、羊の頭を神様に捧げなくても毎日が平和なのだ。拘りなんて一切合切捨てた方が、幸せに暮らせると思う。
さて、今週もまたナチョス作るか……
嫁「飽きちゃうと勿体無いから、今週はナチョスはお休みにするべ!」
稲「んなああぁーーっ!?」
おい、やる気になった俺のナチョス魂はどーすんだよ!?
※ナチョスを出しているメキシコ料理店は少ない上、稲村某が作ったような激ボリューミーな物は間違いなく出てこないと思います。自分で作るしかないでしょーねー。