第9章 「壮絶!合体するカットマネキン」
襲い掛かってきたマネキンヘッドの群れは、難なく返り討ち。
私達四人の連携攻撃も素晴らしい物だね。
現時点で残っている敵対勢力は、長い黒髪をツインテールを結い上げた生首が一つあるだけだよ。
それも遠からず、詩乃ちゃんの太刀で戦場の露と消えそうだね。
「よぉしっ!コイツさえやっつけちゃえば!」
黒い三つ編みを夜風に靡かせた年若い戦巫女は、自信満々に振りかざした愛刀を今まさに振り下ろそうとしていたの。
だけど今回の敵は、低級霊とはいえオカルト絡みの輩だもの。
こういう手合いは往々にして、往生際が悪いんだよ。
そして案の定、此度の敵も一筋縄じゃいかなかったね!
マネキンヘッド軍団の往生際の悪さは、京洛牙城衆の若き戦巫女が身を以て証明してくれたんだ。
「よし!大将首は唐竹割りでバッサリと…って、ありゃりゃっ!?」
自信満々に振り下ろした太刀を回避されて、詩乃ちゃんが素っ頓狂な声を上げている。
空飛ぶ生首軍団最後の生き残りとなったツインテールのマネキンヘッドは、頭突きの勢いそのまま急ターンしちゃったんだ。
「おっとと…何なんだろうなぁ、全くもう!」
刀を空振りさせて蹈鞴を踏む羽目になって、詩乃ちゃんったらむくれてるね。
見せ場を台無しにされて御機嫌斜めな気持ちは、私にもよく分かるよ。
だけど君は、もうちょっと落ち着いた方が良いんじゃないかな。
「チェッ!現世を彷徨う亡霊の癖に意気地なしだなぁ!敵に後ろを見せるなんて、カッコ悪いと思わないの?」
「詩乃ちゃん!あれは多分、逃げたんじゃないと思うよ…」
黒い三つ編みがチャームポイントの巫女少女に軽く突っ込みながら、私は個人兵装のレーザーライフルを構え直したの。
空飛ぶ生首軍団最後の残党となったマネキンヘッドは、空中のある一点でピタッと静止してしまったんだ。
その高さはちょうど、平均的な身長の日本人女性が直立した時に首が来る位置だったんだ。
黒いツインテールを触手みたいに蠢かしながら空中に静止しているのは薄気味悪いけど、ケリを付けるなら今がチャンスだね。
「よぉ〜し、撃ち方…」
「御待ち下さい、吹田千里准佐。」
だけど私の必殺スナイプは、京都市嵐山からやって来た華族令嬢の片割れによって阻まれてしまったんだ。
「御気付きですか、吹田千里准佐?私達が撃破したカットマネキンに生じた異変を。」
「えっ…?!」
美里亜ちゃんの声に促されて周囲の状況を見渡してみれば、その異変やらは一目瞭然だったよ。
夜の帳が下りた住宅街の路面に散らばる、破壊されたカットマネキンの残骸達。
或る者はレーザーライフルで額に風穴を穿たれ、また或る者はレーザーランスで貫かれ。
そしてまた或る者は、薙刀や日本刀でバッサリと切り捨てられ。
大地に散らばるカットマネキンの中で、無傷な物は一つも存在しなかったよ。
そんな無惨な姿を晒すカットマネキン達の銃創や切断面から、青白い煙みたいな物がモワモワと立ち上っている。
そしてそれは、空中にピタッと静止したツインテールのカットマネキンを目指していたんだ。
「こっ…これは一体、何が起きているっていうの!?」
「依代を破壊されて危機感を募らせた低級霊達が、防衛本能から集合しようとしているのです…」
美里亜ちゃんの返答を実証するかのように、唯一残ったカットマネキンの真下に集まった青白い低級霊達は、先を争うように融合していったの。
いや、霊体だけじゃなかったね。
バラバラに破壊されたカットマネキンの残骸までもが、空中の一点へと集中していったんだ。
まるで掃除機に吸い込まれるゴミみたいにね。
グニョグニョと蠢くアメーバ状の霊体を芯にして、シリコンと人工毛髪で出来たカットマネキンの残骸が次々と貼り付いていく。
それは何ともグロテスクで冒涜的な光景だったよ。
「うわぁ、気持ち悪い…何なの、あれ…」
そうして出来上がったのは、至る所に目や口を備え、色とりどりの人工毛髪を筋繊維の代わりにした、何ともおぞましい人型の身体だったんだ。
壊れたカットマネキンの残骸をコラージュして手足や胴体を作るだなんて、幾ら低級霊とはいえ悪趣味極まりないよね。
せめてもの救いは、それが本物の人体パーツじゃないって事かな。
バラバラ死体の継ぎ接ぎなんて、メアリー・シェリー女史の「フランケンシュタインの怪物」の中だけで沢山だよ。
この異常極まりない五体の中で正常な部分を強いて挙げるなら、頭部のポジションに収まった無傷のカットマネキン位かな。
それだって、長い黒髪をツインテールに結い上げたヘアスタイルが私と被っているから、正直言ってサッサと御退場願いたいんだけど。