第11章 「郷里の大地に破邪の念を捧げよ」
人類防衛機構極東支部近畿ブロックの幹部将校達と牙城大社上層部との間で緊急の会談が執り行われたのは、私達がマネキン怪人を撃破した数日後の事だったの。
後になって分かった事なんだけど、美里亜ちゃんは阪堺エリアにおける霊的エネルギーのバランスについて気になる事があり、独自で調査をしていたんだって。
ここ最近は確かに、堺県内ではオカルト系の怪奇現象が多発していたけど、どうやらこれは単なる偶然じゃないらしいんだ。
今年の上半期に、豊臣秀吉の後継者を自称するテロリストが、悪しき霊能力で蘇生させた豊臣方の武将や足軽達を従えてクーデターを企てた事件があったじゃない。
あの事件で現代に復活した西軍の武士達は異常な再生能力を持っていて、たとえ倒しても時間が経てば復活しちゃうんだよ。
この再生能力は浄化の霊能力を伴った攻撃を加えれば無力化出来ると判明したんだけど、その時には状況が随分と悪化しちゃってて、亡者として復活した西軍の武士達が市街地の彼方此方に溢れていたんだ。
そこで事態を早々に沈静化させるために、我々人類防衛機構は「怨霊武者掃討作戦」という大規模反攻作戦を実行に移したの。
県内の百舌鳥・古市古墳群を繋ぐ霊的地脈で増幅させた霊能力者達の祝詞は、再生能力を始めとする怨霊武者の戦力を著しく削ぎ落とす事に成功し、激戦となった「怨霊武者掃討作戦」は私達生者の勝利で幕を閉じたんだ。
だけど霊能力者の祝詞が持つ破邪の力を増幅するために霊的地脈を刺激する事は、それだけ南近畿地方という土地の持つ霊的エネルギーの著しい消費にも繋がったみたいでね。
そのせいで陰陽のバランスに乱れが生じ、色んなオカルト絡みの怪事件が相次ぐようになっちゃったらしいんだ。
要するに今現在の堺県を始めとする南近畿地方は、怪奇現象の多発するアンバランスゾーンになっちゃったって事だね。
京洛牙城衆の人達やオカルティズムに造詣の深い研究者達の話では、消費した分の霊的エネルギーは時間が経てば自然と回復するんだって。
だけど多発する怪奇現象で被害者が発生するのを黙って見ている訳にはいかないし、心霊事件が起きてから行動するなんて泥縄対応は、都市防衛を担う公安職の公務員が取る行動じゃないよね。
そこで人類防衛機構極東支部近畿ブロックとしては、怨霊武者掃討作戦で消費した南近畿地方の霊的エネルギーの回復を早めるための対策を、官民連携で展開する事になったんだ。
南近畿地方の霊的エネルギーを過剰に消費してしまったならば、消費した分の霊的エネルギーを外的に補充してあげれば良い。
会議で決定された官民連携対策の方針は、至って単純明快で分かり易い物だったの。
地方人の日常生活で例えるなら、スマホのバッテリーが切れそうになったら充電器やモバイルバッテリーを接続するし、自動車のガソリンが乏しくなればスタンドで給油するよね。
そして霊的エネルギーの補充手段には、神事としての芸能や祭礼が採用されたんだ。
地域社会に根差した神仏や祖霊への畏敬の念に、郷土愛。
そうした想いを歌や踊り等で奉納する事で、土地の霊的エネルギーの回復が早まるんだって。
そういう訳で、堺県を始めとする南近畿地方における今年の秋祭りは、居合の演舞や奉納相撲、それに巫女舞や里神楽といった奉納目的の催しが例年以上に盛大に開催されるようになったんだ。
実は堺まつりの大パレードで私達が披露した観閲行進も、堺県における霊的エネルギーの回復促進の一環だったんだよ。
護国の大義に命を賭した御先祖様や先人達を崇敬するための観閲行進は、奉納としてキチンと機能するんだって。
そこで堺県第二支局の支局長である明王院ユリカ大佐の計らいで、当初は特命儀仗隊だけで執り行う予定だった観閲行進に、大日本帝国陸軍女子特務戦隊と関わりの深い特命遊撃士や特命機動隊員が追加で参加する運びとなったんだ。
珪素戦争やアムール戦争で武勲を挙げた園里香上級大佐を曾祖母に持つ京花ちゃんは勿論、現代にタイムスリップしてきた里香ちゃんと親交を育んだ私達三人も、特例で観閲行進への参加が認められたんだよ。
とはいえ京花ちゃんと里香ちゃんのタイムスリップはトップシークレット扱いだから、表向きの参加経緯をキチンと用意する必要に迫られたんだけどね。
父方の御先祖様に第一次大戦に陸軍将校として従軍された方がいらっしゃる英里奈ちゃんや、御先祖様が日露戦争の戦死者であるマリナちゃんに関しては、京花ちゃんと同じように「軍務に携わられた御先祖様に崇敬の想いを捧げる」という参加動機を用意する事が出来たね。
そして私の場合は、「人類防衛機構のOGである祖母と母から受け継いだ志を再確認するため」って理由で参加させて頂いたんだ。
大小路の歩道に集まった見物客の中には、御祖母ちゃんや御母さんを始めとする見知った顔を沢山確認する事が出来たから、何とも晴れがましくて落ち着かなかったなぁ。
だけど大正五十年式女子軍衣に身を包み、修壱式歩兵銃を肩へ担った以上、照れ臭がったり浮かれたりするのは厳禁だよ。
真っ直ぐに前を見据えて背筋を伸ばし、ビシッとカッコいい観閲行進を披露しなくちゃね。
そう言えば、珪素戦争やアムール戦争に出兵した大日本帝国陸軍女子特務戦隊の皆様方は、どのような心持ちで壮行会での観閲行進に臨まれたんだろう。
敬愛する両親や懐かしき郷里と離れる寂しさを感じていらっしゃったのか、それとも私みたいに晴れがましさや面映ゆさを堪えていらっしゃったのか。
或いは死と隣り合わせの戦場へ赴く緊張感で、それどころでは無かったのか。
こればかりは、御本人に聞いてみないとね。
だけど一つだけ、ハッキリとしている事があるよ。
それは要するに、里香ちゃんを始めとする女子特務戦隊の皆様方は、家族や友達や故郷といった守るべき物を背負っていて、そうした掛け替えの無い物を守るためなら命を賭して戦う覚悟を持っていたって事だね。
ちょうど人類防衛機構に所属する私達が、都市防衛の大義を背負って戦うのと同じようにね。
それを再確認出来ただけでも、この観閲行進に参加出来て良かったよ。
勿論、霊的エネルギーの回復促進って主目的だって忘れてないけどね!