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ジジイ最後のバク宙

作者: ヒロモト

息子。直行の結婚式。俺はネクタイを外しステージに上がった。やれるか?


「見てろよ!母さん!」


「はいっ!」


55才。これが俺の最後のバク宙になるだろう。


「頑張れ父さん!」


直行。結婚おめでとう。


「はあっ!」


飛ぶ。だが足腰が弱っているからか踏み込みが甘い。


《将来は俺の奥さんになってくれ!》


切っ掛けは幼なじみである母さんだった。


『運動が出来る子が好き』。そんな言葉を真に受けた小学生の俺はバク宙で愛を伝えた。

もやしっ子だったクセによく挫けず練習したもんだ。


中学、高校、大学の入学式、就職が決まった日。俺はバク宙をした。

バク宙は俺に取って最大級の喜びの表現だった。


「おっおっおっ?」


腹の贅肉が重力に逆らい滞空時間が短い。体を思い切り曲げて何とか誤魔化す。着地出来るか?


《せーのっ!》


《《おおっ!》》


俺たちの結婚式でのバク宙は楽しかったなぁ。あの日はアンコールが多く、6回も飛んだ。


「どりゃああっ!」


「あなたっ!」


「父さん!」


着地の際に膝回りの毛細血管がブチブチと切れる音がしたが何とかやりきれた。


《おみごとー!新郎のお父様によるバク宙でしたー!!》


俺は泣いた。嬉しさと寂しさで。

ハッキリと衰えを感じた。今日でバク宙とはお別れだ。大ケガする前に引退しなくてはならい。

寂しい。《俺の人生でバク宙をする》事はもう無いのだ。年を取るってのは悲しいな。出来る事が出来づらくなって出来なくなる。

おめでとう直行。さようならバク宙。


「あなた。お疲れ様でした」


「……うん」








《続きましては新婦のお父様によるバク宙です!》


直行が飛んだ。おお。高く綺麗だ。親父のクセにやるじゃないか。

直行が喜びのバク宙を受け継いでくれたのは嬉しい。

全盛期の俺には及ばないが中々じゃないか。

娘の前で格好つけられて良かったな。


《運動が出来る男の子が好き》。


娘のそんな言葉を真に受けた直行は迷わず俺にバク宙を教わりに来た。俺に似てるなぁこいつ。バカだけど男前だぞ。

息子に抜かれちまったなぁ。……だけど。


「俺もまだまだ男前だぞ?」


《さあさあ!ご注目!最後は新婦のお祖父様によるバク宙ですっ!》


俺はバク宙を諦められなかった。

直行。お前が娘に好かれたい様に俺だって孫に好かれたい。

鍛えに鍛えたが齢77。どこまで飛べるか。


「ぬんっ!」


『翔んだ』。


55の時よりも遥かに高く。












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― 新着の感想 ―
[良い点] タイトル [一言] せやな、ハッピーエンドやな ( ;∀;)
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