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異世界人生  作者: 狸蟹
2/2

ー困ったときは、お互い様ー

男の後を追ってしばらく歩くと、ひと際立派な建物に着いた。


外観だけで言うなら、深夜番組でよく見る宮殿のような感じだ。


男は門番のような人に挨拶をし、当たり前のように中に入っていく。


もしかしたら、男は凄い人物なのかもしれない。なんて思ったのもつかの間、宮殿の中にはたくさんの人がいた。


その外見も様々で、みすぼらしいと表現できるような人から明らかに上流階級に見える人まで様々だ。


男は、受付のようなところに歩いていき俺を手招きしている。


俺が近づくと、男は俺を手で示しながら受付にいる眼鏡をかけた人物と会話を始めた。


「こんにちは、聞こえますか?」


どうせ、わからないしな、と思いながら周囲を見ているとどこかから日本語が聞こえたような気がした。


突然のことに必死に周囲を見渡すが、俺に話しかけている人物は見当たらない。


そんな俺を見て、男は受付の人物を指さした。


「良かった、どうやら通じているみたいですね」


受付にいる人物はいつの間にか変わっていて、金髪の耳のとんがった女性が、笑顔を俺に向けている。


エルフで間違いないだろう。仮にも異世界転生本を読み漁った俺だから間違いない。


「貴方の分かる言語でよいので、私に向けて強く念じてみてください。それで会話が出来るはずです」


俺は言われるがままに、強く念じようと思ったが、なにを伝えればいいのだろうか。


とりあえず、一番最初はこれだろう。


「わかりました、伝えますね」


俺の念を受け取った女性は、再度男と話し始める。


俺が彼女に頼んだのは、男にお礼を伝えて欲しいという内容だ。


男は俺の顔を見て困ったように頬を掻くと、エルフの女性になにかを伝えた。


「彼から、困ったときはお互い様だよ、気にしないでおくれ。と伝えて欲しいとのことです」


俺はそれを聞いて、また目頭が熱くなった。


思えば、誰かに親切にされるなんていつぶりだろうか。頭の中で感謝の気持ちが爆発しそうだった。


「それも伝えたほうがよろしいですか?」


目の前のエルフの女性がちょっと悪戯っぽく笑っているのを見て、俺は必死に首を振った。


とりあえず、貴重な会話が出来る相手なのだから。今後のことについて相談させてもらおう。


(あなたは日本語がわかるんですか?)


「いえ、貴方の言うにほんごというのはわかりませんが、私たちエルフは思いや意思を直接脳に送れるので、そちらがわかる言語に脳内で変換してもらっている形になります」


説明を聞きながら、彼女の方を見ると確かに口は一切動いていなかった。


(信じてもらえるかはわかりませんが、私は異世界から来たんです。それで言葉も通じず困っていて)


俺の言い分に、エルフの女性は少し驚いたようにしたが、すぐに返答をくれた。


「信じますよ、貴方が本当に困っているのは伝わっていますし、今までそういった人の話も聞いたことがありますので」


(俺以外にも異世界から来た人がいるんですか?)


「えぇ、その人は五十年前くらいにここに来ました。ですから、彼を頼ればどうにかなると思いますよ」


(五十年前というと、今目の前にいる彼女は一体いくつなのだろうか。どう見ても俺と同じくらいにしか見えないが……)


「レディーに歳の話をするのはご法度ですよ?話していないのでセーフということにしてあげますが」


(すみません……)


「とりあえず、横の彼に事情を説明して同郷の方と思われるサトウさんのお住まいへの地図をお渡ししますね」


(なにからなにまで、ありがとうございます。いつか恩返しします)


「彼の言葉を借りますが、困った時はお互い様ですよ。もし何かあればまたここに来てください」


俺は彼女に深々と頭を下げた。


彼女はそんな俺に、優しい笑顔を返してくれた。


「あ、そうだ!伝え忘れてました。サハルさんから俺はここでまだ用があるからお別れだ。だそうです」


その言葉、いや、思念というのが正しいだろうか?を聞き、俺は横の男を見る。


男は安心したように俺に手を振ってくれた。


俺は彼にも深々と頭を下げ、宮殿を後にした。






地図はとても正確で、分かりやすいものだった。


恐らくさっきの宮殿は、元の世界で言うとこの区役所みたいなものなのだろう。


しかし、思考を読まれるというのは中々恐ろしいものだな。何て考え歩いていると地図の×印の地点に着いた。


そこは少し町から離れた平原の丘の上で、小さな家とその裏には畑が広がっている。


つい手癖でインターホンを探すが、そんなものは無いので扉をノックする。


「おー」


中から男性の声が聞こえ、しばらくしてその声の主が扉を開けて出てきた。


男は初老の男性で、白髪の似合うイケおじだった。


「になば、のれあこ?」


当たり前のように、知らない言語で声をかけられ気づく。


エルフの女性は、異世界転生者としか言っておらず日本どころか地球から来たかも定かではないのだ。


「って、もしかして……日本人か?」


しかし、そんな不安は男性のその一言で杞憂に終わった。


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