7 特待生の秘密①
私の名前は遠藤波瑠、それは15年も前の話だけども。
そうね、今はハル。ただのハル。
平民に名字が無いからただのハル。
でも7歳の頃に前世の記憶が蘇ったの。
生前はとりあえず30歳頃までは生きていたかな。
在宅の仕事だったし、出会いもなく婚期を逃していたのは仕方がないでしょう。
でも乙女ゲームで夢を見る事は誰にも文句言われないし、幸せだった。
あのゲームを手にするまでは……。
忘れもしない『デーモンフラワー、乙女の園に花束を』と言う鬼畜乙女ゲーム。
プロローグは長かったけど大して他の乙女ゲームと大差はなく、聖女となる平民の少女が悪役公爵令嬢のイジメに耐え抜き晴れて王子と結ばれると言うもの。
だけど結ばれるまでがプロローグだった。プロローグだけで30時間越えは製作スタッフ一同馬鹿だと思う。
結ばれた後に本編が始まると言う変な作品に、興味を惹かれたのは仕方がないと思わない?
30時間も費やして自己投影したキャラの生活が、これから始まるんだと思ったらワクワクするし。王子との幸せな日々を小さな事件を交えながら進めていくなんていいじゃない。
でもね、そんな予想は見事に打ち砕かれたわ。
そう、あの世界でこの国は……隣国と戦争状態に陥るわ。
そして物語は王都まで侵攻した隣国の兵士から逃げる所から始まるの。
これはこれで面白そうだったので続けてみた。
物語を進めるにつれて分かった事は、国外退去とされたあの公爵令嬢が裏で手を回し戦争を起こした事。
王子や取り巻きのイケメン達は、それぞれ戦場へ向かい消息不明と言う事。
セーブポイントが無い為選択肢さえ間違えなければクリアー出来たのでしょうけど、選択肢までやり直すにはプロローグから始めいないと駄目な事がわかった。
しかも私が辿ったルートはほんの一握りで、知人に聞けば探せばセーブアイテムもあるそうだ。
一気にクソゲーの仲間入りを果たした瞬間だった。
在宅と言えど社会人の時間の無さを分かっていない、そんな制作陣に怒りが込み上げて来る。
――そして私がこの世界が『デーモンフラワー、乙女の園に花束を』と言う鬼畜乙女ゲームだと知ったのは入学式の日だった。
気付くのが遅すぎたと言っても過言ではない。
自分が聖魔法が使えて特待生として生まれ変わった事に「(もしかして何かの乙女ゲームだったりして)」と思った事は何度もあった。
でもまさかやり直しの利かないあの鬼畜ゲームだったなんて……。
いいえ、立ち止まる訳にはいないの!私は今世で必ずイイ男を見つけて絶対幸せになる!
そう心に誓い『デーモンフラワー、乙女の園に花束を』の舞台に足を踏み入れた。
先ずは王子様の入学生代表挨拶からだ。
挨拶が終われば彼は何故か一人で中庭の花壇に行くはず――そこで私と出会い、彼は私に目を奪われる。
そこから好感度を上げるイベントがあるけど……うん、大丈夫たぶん覚えてる。
先ずは王子と取り巻きを虜にし、悪役令嬢のイジメを華麗にスルーパス。
――見てなさいデモ園。私が必ずクリアーしてみせるんだから!
――――
――
「それでは新入生挨拶。入学試験主席のサイフォン・アレキサンドロス君前へ」
あの眼鏡は……誰?
本作品はアルファポリにて先行掲載させて頂いており、2022.4.22.0:00現在
ファンタジー部門6位、HOTランイング2位のものとなります。
『乙女ゲームは知りませんが悪役公爵令嬢が美人過ぎて辛い』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/479149318/521616813
お越し頂ければ幸です。