3 入学式の朝
小鳥が囀り桜が春風に舞う。
春の陽気は地球の新学期と似通っていて、清々しい気分に満ちて来る。
今日はテレスティア王立学園の入学式。
私はいつもと違い馬車でテルルを迎えに行く。
思えば私が彼女を迎えに行くのは始めてでしょう。
先日、両家の家長から学園入学にあたり、私が彼女の護衛となる事を仰せつかりました。
要するにアルバイトの様なものです。
テレスティア王立学園は3年間全寮制となっており、大きな荷物は先に寮へ届けてある。
なのでこの身一つで彼女の護衛に付く事が出来ます。流通は偉大ですね。
御者が馬車をハイネケン公爵家の門の前に付ける。馬車から降りると戸を開け彼女が来るのを待った。
すると数分も経たず彼女が春風と共に現れる。
「それではお嬢様行ってらっしゃいませ」
「ありがとうレフティ。それじゃ行ってきます」
テルルはそうメイドさんに告げると一瞬俺に視線を合わせ……ずに馬車へと乗り込む。
彼女の後ろに控えたメイドさんが俺に鞄を預け。
「アレク様、私も後ほど向かいますがお嬢様を宜しくお願い致します」
「あ、はい。お任せ下さい」
乗り込むのを見計らい馬車は学園へ向け出発した。
そして馬車の中――。
「おはようテルル様」
「あぁ」
「……」
……会話が続かない。今日は格別に機嫌がよろしくない様だ。
「お小遣い足りてる?俺の財布持っとく?」
「あんたより持ってるわよ!それにテルル様って言いながらなんで子ども扱いすんのよ!全くどうしてお前はいつもそう……まぁいいわ。それよりアレクっていつから一人称が俺になったわけ?」
「あれ?2年前にテルル様がボクって言うのはなよなよしてるって言ったから変えたんだけど……気付いてなかった?」
「き、気付いてたつーの。べ、別に私の前だったらボクでも私でもいいわよって話だろ。気付けよ」
「そう?僕もまだ自分の事俺って言うの慣れてなくて助かるよ」
「み、みんなの前では俺ってちゃんと言うんだぞ」
「わかりましたテルル様」
「お、おう。これまでと違い家庭教師と三人だけでって訳にはいかねぇんだからよ」
「そうですね、テレスティア王立学園にはこの国の貴族の子息及び豪商の子供しか来ませんし、今後の事も考えれば立場は明確にしといた方が良いでしょう」
「そうね……。ほんと貴族って嫌いだわ」
「なにか言いました?」
「何も言ってねぇ」
「そうですか。あ!」
「な、なに!?」
「あ、いえ。そう言えば今年から特に認められた平民も入学するそうですよ」
「あぁ~今年は聖魔法が使える平民が入学するとかお父様が言ってたなぁ」
「そう、それです。聖魔法って傷を癒すらしいですね、僕としては怪我が絶えないので是非友達になりたいです」
「アレクはおじ様との訓練が激し過ぎなだけじゃん。まぁそいつが使えそうなら友達にでもなって色々治してもらえよ」
「そうですね。そうします」
「あぁ」
彼女の機嫌が少し良くなったみたいで良かったです。
言葉遣いはアレですが、この言葉遣いは私だけに対してだけみたいですし学園では大丈夫でしょう。
大人の女性になればこういった言葉遣いが恥ずかしくなる時も来ます。
あ、これって女性版の中二病と言うやつですね。わかりますよ。
前世の息子が「俺の右目の魔力がぁ~」と言って部屋で騒いで少し心配した事を思い出します。
それに長女もグレた時期がありますので慣れっこです。
――窓を開けた彼女の銀髪を風が少し持ち上げる。
それをかき上げる彼女の姿は絶世の美女と言っていいでしょう。ご褒美ですね。
「テルマイル様、アレキサンドロス様、そろそろ到着に御座います」
御者さんの声に持っていた剣を腰に付け替える。
「……」
「テルル様、どうしました?」
「いやアレクが昔、木剣を庭で振り回してた頃があったなぁと思っただけだ」
「あははは、技術は昔と大差ないですけど。大丈夫、ちゃんと貴方は俺が守りますから」
「/////」
「どうしました?」
「な、なんでもねーよ!さっさと降りろてーの!」
そして私達の学園生活がスタートしたのだった。
本作品はアルファポリにて先行掲載させて頂いており、2022.4.22.0:00現在
ファンタジー部門6位、HOTランイング2位のものとなります。
『乙女ゲームは知りませんが悪役公爵令嬢が美人過ぎて辛い』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/479149318/521616813
お越し頂ければ幸です。