ずっと男だと思っていた年下幼馴染と再会したら実は女の子で天才美少女ヴァイオリニストになっていた。〜スランプから救った結果生放送のインタービュー中に告白されました〜
俺の名前は岸谷友樹 一人ぐらしをしているごく普通の大学生だ。
8月14日
ミンミン!!とセミが泣いている中、俺は自室を必死で掃除していた。
それは久しぶりに俺の幼馴染……一之瀬立夏が急に家に来ると連絡を寄越しやがったからだ。
『久しぶり友にいちゃん!! お盆そっちに遊びに行くから!』
『8月14日の午後1時に黒川駅まで迎えよろしく!』
『PSバイクできてね』
とまぁこんな感じで昨日いきなり連絡が来たのである。
「ふぅ……こんなもんか」
『――ゆうきさんが連覇をかけ――」
ピっとテレビの電源を切り、部屋の片付けを終え、服を着替えてスクーターに乗って待ち合わせの駅に向かう。
立夏の事は小さい時から知っていて家が近く、引きこもって寂しそうにヴァイオリンばかり弾いていたあいつをよく外に連れ出し、一緒に夜まで遊んで二人して大人たちに怒られていた。
いつしか、僕も一緒に連れて行ってと俺がどこかに行くたびに俺の後ろをついていた。
虫かごを持って山で走り回ったり、大声を上げながらゲームをしたりでまるで野猿の様なやつだった。
俺もそんな立夏を弟のように思うようになり、可愛がっていた。
だけど、俺が中学校を卒業するのと同時に親の都合で引っ越して会わなくなった。
俺が引っ越してからもちょくちょく連絡を取り合っていたがいつしか立夏から返事が来なくなった。
少し寂しさもあったが、こんなものかと納得していた。
のだが、昨日いきなり連絡がきて驚いた。
まぁ、どうせ昔と変わらず、ガサツでクソガキみたいなやつなんだろうなと思いながら駅に着いた。
……まだ。10分前か。
う、同じ男とはいえ、久しぶりに会おうのは緊張するな。
そういえばあいつ年今いくつだ?
あれから4年たったから……16歳か? だとしたら高校2年くらいか……
そわそわしながら当たりを見渡していると
「あの……やめてください」
「いいじゃん! 俺たちと一緒に遊ぼうよ!」
「さっきちらっと素顔見たけど君、めっちゃ可愛いし、絶対楽しませてあげるからさぁ」
帽子にグラサン、マスクを身につけた女の子が不良二人に絡まれている。
不良二人はかなり柄が悪い為、通行人はみんな見て見ぬ振りをしていた。
まるで漫画みたいな展開に苦笑いしながら3人に向かって駆け出した。
「……おい。やめろよ。その子嫌がってるだろ」
「!!」
「はぁ? なんだお前?」
「ヒーロー気取りか? あ?」
不良の視線が一気にこちらに向く。
懐かしいなこの感じ。と思いながら不良どもに言ってやった。
「その子と遊ぶ前に俺と遊んでみるか?」
30分後
「い、痛い……」
ボコられた……
めっちゃボコられた……俺喧嘩クソ弱いからこの結果は当たり前なんだけど。
結局、いくら蹴ったり殴ったりしても立ち上がる俺に不良ども二人はなんだか白けた表情をして帰って行った。
まぁ、ボコられたけれど……追い返すという目的は果たせたしそれでいいや。
……約束の時間過ぎちゃったな。
とりあえず、立夏を探さないと。
「……では、失礼します」
流石に初対面の女の子にダサい姿を見せ続けられるほどの心の強さは持っていないので、さっさとこの場を離れることにした。
……ぼろぼろのこの格好、立夏が見たら指さして笑いそうだな。
まぁ、笑い話が出来たかなと思って歩き出した瞬間
くいっと服の袖を掴まれた。
「……?」
不思議に思い、振り向く。
女の子はマスクとグラサンと帽子を外し、俺をじーと見つめる。
……うわ、めっちゃ可愛い子だ。
チョコレート色の長髪。
白く、綺麗な肌。
スタイルもシュッとしており、出るとこは出てる……つまり巨乳。
くりっとした目と身長が低いせいで少し幼くは見えるが全体的に清楚さと儚げさを漂わせている。
10人中10人が可愛いと答えるだろう。
……絡んでいた不良たちの気持ちがわかった気がする。
あれ……? この子どこかで見たことがあるような……
「助けてくれてありがと。相変わらずだね。友にいちゃんは」
女の子はそう言って嬉しそうにはにかんだ。
……? なんで俺の名前……っていうか、その呼び名は
俺の反応をみて女の子はむ、と拗ねたように頬を膨らませた。
「分からない? 一之瀬立夏。ピチピチの女子高生です☆」
……は?
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
は? 一之瀬立夏!? こいつが!? 嘘だろ!? だって!! え!? 野猿みたいな立夏は!?
ていうか男じゃないの!? 女の子だったのか!?
????????????
「うーむこの反応……やっぱり私の事男だと思ってたかーまぁ、あの時は髪も短かったし胸もこんなに大きくなかったしねー」
うむうむと頷く。
……マジか。
「えー!! 何これ!? スクーターじゃん!!」
止めていたスクーターのもとへ着いた瞬間、立夏の不満そうな声が炸裂した。
「そうだよ」
「あれは!? バブバブって音出すやつは!?」
「あーバブか? 最近乗ってなかったから怖くって……」
「何ひよってんの!? あれに乗りたかったのにー!!」
「はいはい……また、今度な」
今度っていつ……? と下を向き小さくつぶやいた。
その様子はなんだか……
「まぁ、いいや。早く行こ?」
立夏はパッと顔を上げ、後ろ座席に乗り込み、運転席をぽんぽんと叩く。
早く乗れということだ。
「……あ、やっぱ二人乗りするんだな」
「当たり前じゃん」
何言ってんの? と言いたげな顔をされてしまった。
まぁそうなんだけど、そうなんだけどさ!!
「ぷ、なんでそんなカチカチした動きなの? ロボットみたい」
「う、うるせっ」
スクーターに乗り、出発準備をするとそれを理解した立夏が後ろから抱きついてきた。
二人乗りをするのにごく普通の動作……なんだが。
胸が!!胸が背中にめっちゃ当たってる!!
たわわな胸がっ!!
この状況……意識しない方がおかしいと思う。
「しゅ、出発するぞ!」
「!! ふーん」
立夏は俺の反応を見て察してしまったのか、小悪魔な表情を浮かべた。
「……えへへ……えい!!」
立夏はさらに力を込め、抱きつく。それにより密着度が上がった。
「お、お前……そんなに抱きつかなくても」
「えーだってーちゃんとくっつとかないと危ないしね〜」
うりうり〜と言いながら押し付けてくる。
こいつ……この表情……わかっててやってやがる。
まじで……こんなん、何も思わなければそいつはホモだ……
できるだけ無心でエンジンをかけ、出発する。
夏だからか風が生ぬるい。
「ともにいちゃん緊張してるでしょ。まぁ? 私ってスーパーハイパー美少女になっちゃったから仕方もない気がするけど? メイクもばっちし決めてきたし!」
「いや……それは……否定しないけど。それにしたって変わりすぎだろ」
「4年経てば変わるよ……色々とさ」
きゅっと掴む手の力が強まり、その声はなんだか寂しそうだった。
沈黙が生まれる。
「……外見に関しては友にいちゃんこそめっちゃ変わったじゃん。昔みたいにリーゼント――」
「おいやめろ!! 俺の中学の時の髪型の話はするな!!」
「みんなからだっさいって言われてたもんね〜?」
顔を見なくてもわかる。こいつ今絶対ニヤ〜とした顔してる。
「でも……たとえ外見は変わっても中身は変わってなかったね」
「そうか?」
「……うん。さっきもさ。負けるって分かっても助けに来てくれたでしょ?」
「………………」
「自分より強い相手に平気で立ち向かっちゃう無鉄砲さとか変わってないなぁ〜て……なんかさ、ほっとした」
また、きゅっと掴む手の力が強まる。だけれどもその声はなんだか嬉しそうだった。
「よっと……ふぅー!!」
バイクを降りた立夏はのび〜と背筋を伸ばした。
「ほうほう……ここが友にいちゃんのマンションか」
ふむふむと腕を組み見ながら頷いている。
「……今気づいたけど、お前荷物とか何も持ってないな。ここに来たのもほんといきなりだったし……何かあったのか?」
立夏は振り向き
「…………別に。ただなんとなくともにいちゃん寂しがってるだろうし……この立夏ちゃんが会いに来てあげるか〜って思っただけだよっ」
そう言いながら笑った。
その笑顔は………………
「……それは――」
「それにしてもこんな可愛い女の子を部屋にあげるなんて初めてなんじゃないの〜」
俺の言葉は立夏の言葉によって遮られてしまった。
「友にいちゃん彼女なんていたことなさそうだし〜」
「……いや、彼女くらい出来たことあるしっ」
「……ふぅん? まぁ、そういうことにしといてあげますか」
やれやれのポーズを取りながら言われてしまった。
うわ、絶対信じてないよ。こいつ……
「……友にいちゃん、嘘つく時目線を少し下に向ける癖変わってないね〜」
「えっ!?」
俺の反応を見てやっぱりね〜と嬉しそうに笑いながらマンションの入り口へと向かって行った。
「それは……お前もだろうが……」
立夏に聞こえないよう吐き捨てるように呟き、追いかけた。
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「な、なんでそんなことするの!? ぼけなすー!」
「ははっ!! 聞こえないなぁ〜?」
俺と立夏はクーラーをガンガンに効かせた部屋で配達で頼んだピザと家にあったコーラを食べ飲みながら対戦ゲームをしていた。
昔よくやっていたゲームの最新作で腕前は同じくらいだったのだが、今は俺の方が圧倒的に強いようだ。
いや、俺が強くなったというより、立夏が弱くなったと言った方が正しいかもしれない。
「くぅ〜!! 圧倒的弱者を一方的に叩き付けるの楽し過ぎる!!」
「性格わるっ!! あ、ちょっと!! やめて!! どひゃー!!」
やられた時に奇声を放つところも変わらないな。
「もうやめた!! クソゲーじゃん!」
立夏はコントローラを投げ捨て、不貞腐れたようにベッドに倒れ込む。
「……立夏弱くなったなぁ。あと、あの……そこ俺のベッドなんですけど」
「うるさいなぁ……だって……全然やってなかったんだもん」
立夏はむすっとした様子で枕に顔を埋めた。
「友にいちゃんの匂いがする……」
「っ!!」
甘ったるい声でいうものだから、思わず顔が熱くなった。
いやいや、意識するな……相手は立夏だ。
うん、うん。大丈夫、大丈夫……いや、無理だわこれ。
「おい立夏――」
「すぅ……すぅ……」
振り返ると立夏は寝息を立てて気持ちよさそうに寝ていた。
余りにも気持ちよさそうだったから起こすのを躊躇ってしまった。
……これじゃあなんにも言えないな。
仕方ないやつだとタオルケットをかける。
……結局ここに来た理由も聞けずじまいか。
急に連絡をよこして、スマホも持たず、財布もちゃんとしたやつじゃなく、ポケットに入れられるような小銭入れだったし。
正直、何かあったとしか思えない。
まぁ、この様子だとしばらくは話さないだろう。
……どうしたものか。
そう思った瞬間、スマホが振動した。
ん。誰だ? 机に置かれたスマホを確認すると
一之瀬立夏
と表記されていた。
これって……スマホ通話の着信。
つまり、誰かが立夏のスマホを使って俺にかけているということだ。
「……はい。岸谷です」
『……あ、よかったぁ……繋がって……友樹くんかい?』
この声……立夏の親父さんだ!
「あ、おじさん!! お久しぶりです」
思わず誰もいないのについ頭を下げてしまった。
『ああ、久しぶりだね。驚かせてしまって申し訳ない……今ね。立夏のスマホから通話しているんだけど、そこの近くに立夏はいるのかな?』
「え、あぁ。はい。今俺のマンションの部屋に居て……ベッドで寝てますよ」
『そうか……やっぱり友樹くんのところにいたか……』
スマホの向こう側から安堵のため息が聞こえた。
「あの……何かあったんですか?」
『ああ、立夏は何も話していないんだね。分かった。話すよ。友樹くんは黒田ゆうき……という名前を知っているかい?』
「あー名前だけは……コンクールを制覇した天才ヴァイオリ二ストですよね?」
確か一度テレビか何かで見たことが……そう自分で言いきった瞬間はっとした。
不良に絡まれていた時、立夏はなぜ帽子やマスク、グラサンをしていたのか。
初めて立夏を見た時、なぜどこかで見たことがあると思ったのか。
繋がった。
「天才ヴァイオリ二スト黒田ゆうきは立夏の偽名なんだ」
そこから、立夏の親父さんから色々と聞いた。
中学校の頃から出場したコンクール全て金賞をとっていた事。
立夏は去年黒田ゆうきとして全日本ジュニアコンクールで金賞を受賞し日本一になった事。
今年は連覇をかけてコンクールに出場する事。
そして最近スランプ気味だという事。
『コンクールは明後日でね……立夏はいまだスランプから抜けだせていないんだ。多分、全日本ジュニアコンクール連覇というプレッシャーが原因なんじゃないかと思う』
『立夏は……助けを求めに君のもとへ行ったんじゃないのかな。立夏は小さい頃から君の事が大好きだったから』
『友樹くん、巻き込んでしまって申し訳ない。でもどうか、立夏のことを頼む』
そう言って親父さんは通話を切った。
「……まじか」
すやすやと眠っている立夏を見て思わず大きなため息をついてしまった。
「……すぐ眠ってしまったのも、ストレスやプレッシャーで寝不足だったのか?」
そっと眠っている立夏の頭を撫でる。
とりあえず、このまま寝かせておこう。
その間にこれからどうするのか考えなくては……
数時間後
「……ん? あれ? 私……寝てた?」
立夏は目を擦り、あくびをしながら体を起こした。
あぅと言いながらぼーとベッドの上を座っている。
まだ寝ぼけてるなこれは。
「立夏、ちょっと一走りしようか」
バブのエンジンキーを見せながら言ったら立夏は目を輝かせ、うん!と頷いた。
「うわー!! すごい!! 風を感じるよ!! 友にいちゃん!!」
「しっかり捕まってろよ!! こっからさらに加速するぞ!」
「きゃー!! 私達風になってるー!! いえーい!!」
あの頃のようにはしゃぎながら抱きつく立夏を乗せてバーブー!!と排気音を鳴らしながら夜の道を駆けて行った。
「よし……到着」
バブを停めエンジンを切り、二人とも降りる。
「ここ……海だ!」
満天の星の下立夏は興奮した様子であはは!! と砂浜に向かって駆けて行った。
その後を少し駆け足で追いかけた。
満天の星が海に反射しておりその光景はとても幻想的で美しかった。
「ねね。ちょっと入ろうよ」
立夏はそう言いながらいそいそと靴と靴下を剥いでいる。
入る気満々じゃねぇか。
「あ、冷たっ!!」
立夏はあははっと笑いながら子供のように両足をバシャバシャさせた。
そんな立夏を俺は海面には入らず、靴と靴下だけ脱いで砂浜で見ていた。
そして、海の向こうを見つめながら話始めた。
「ねぇ……覚えてる? 初めてあのバイクに乗せてくれた時のこと」
「……ああ」
立夏の言葉に頷く。
「家で引きこもってた私の前にいきなり現れて……風、感じさせてやるよってドヤ顔で言ってきた」
「そ、そうだっけ?」
やべぇ、そんな痛々しいこと言ったかな?
……言った覚えがあるなこれ。
「あの時は病気が治ったばっかりで……人と関わるのが嫌で、ヴァイオリンばっか弾いていた私を外の世界に連れ出してくれた」
「あの時のことは今でも覚えてるよ。ともにいちゃんの後ろに乗せてもらって本当に風になっているみたいだったあの時からともにいちゃんは私のヒーローだよ」
立夏はにこと笑いながら振り向く。
「……喧嘩ばっかして、負けてばっかで、怪我ばっかしてるくせにともにいちゃんの周りにはいつも沢山の人たちがいた」
「……そうだったっけ」
「うん……子供の頃から思ってたよ。ともにいちゃんは女にはモテないけど男にはモテモテだって」
「おい!! 変な言い方やめろ!!」
「あはは。ともにいちゃんは不思議と人を惹きつける人でひたすらに優しかった」
「だからかな……なんか、他人にはあまり言いたくない事とかも……言えちゃうんだ」
………………立夏の言葉を待つ。
「知ってるかもしれないけど私ね。実は天才ヴァイオリ二ストなんだよ?」
「――うん。知ってるよ」
なーんだとつまらなさそうに口を尖れせる。
どうせこいつのことだまた俺があっと驚くと思ったんだろう。
「最初は趣味で始めたヴァイオリンだったけど。それが先生に褒められて……それが嬉しくて、中学生になって初めてコンクールに出て、金賞とってみんなからすごいって褒められて」
「出場したコンクール全部金賞を取った……ねぇ、これってめっちゃすごくない?」
「やるな……ご褒美に飴ちゃんでもあげようか」
「要らんわ」
差し出した右手をペシっと払われてしまった。
「……それで、高校生になって。全日本ジュニアコンクールで金賞を取って日本一になった」
立夏は夜空を見上げながら手を伸ばした。
「パパもママも先生も学校の人たちもメディアの人達もみんな私の連覇を期待してる」
「……だからかな?最近スランプ気味でさ。コンクールは明後日なのに。どうにかしなきゃって、心配させないようにしなきゃって……そう思った時ともにいちゃんの顔が浮かんだの」
「…………ねぇ、ともにいちゃん。言って……私なら大丈夫だよって。金賞取れるよって。ともにいちゃんに言って欲しいのっ」
まるで藁にもすがるかのように言いながら黒田ゆうきは笑った。
その笑顔を見て確信した。
『立夏のことを頼む』
一瞬、立夏の親父さんの言葉が頭によぎった。
……覚悟、決めなきゃな。
ぐっと両手を握りしめ、立夏の目を見て言った。
「お前、ヴァイオリンやめた方が良いんじゃないか」
「…………………………え?」
立夏は呆気に取られた様子でこちらを見ている。
大丈夫だって言って欲しい? 嘘言うな。
お前は嘘をつく時、元気そうに振る舞うんだよ。今みたいに。作った笑顔で。
昔っから変わらない。
頑張れ、出来るよって言うのは簡単だ。
だけど、このままではいつか、近いうちに立夏は自分自身に押しつぶされ、壊れてしまうだろう。
……そんな事絶対にさせねぇ。
たとえ嫌われようとも恨まれようとも。
砂浜から海面へ踏み込む。
一歩近づく度に、立夏は一歩後ろに下がって行く。
まるで追い詰められるかのように。
「本当にスランプのせいか?」
「やめて……」
「メイクしなきゃ隠せないような隈作ってまでやることか?」
「やめて」
「お前、今ヴァイオリン楽しんでるか?」
「やめて!!」
悲痛な叫びをともに立夏が俺に向かってタックルしてきた。
「ぐっ!」
思わず、バシャっと言う音とともに水飛沫を飛ばしながら海面へ倒れ込んだ。
「どうしてそんな非道い事言うの!? こんなに頑張ってるのにどうして!? 何も知らない癖に!! 何にも見てなかった癖に!!」
泣きながら癇癪を起こす立夏の言葉を、ただだまって受け止めた。
「どうして……僕が一番言って欲しい言葉……わかるの……」
ぽたぽたと立夏の涙が俺の頬に溢れ落ちる。
「先生から貴方は才能があるからってやりたくなくても毎日毎日ヴァイオリンと向き合って……本当は普通に……学校の皆んなみたいに遊びたかった! ショッピングとか、スイーツ巡りとか、色んな事したかった!!」
「コンクールで金賞を取る度にみんな私の事『天才』って言うの……段々と周りの期待熱も大きくなって」
「応えてもそれは大きくなるだけで……何度も何度も……そんなの僕は……怖い……」
一之瀬立夏は泣きながらそう言った。
感情を吐き出したい時に吐き出せる相手がいないのは辛い事だ。
「なんで、そう思ってるのにやめないんだよ」
波打ち際に座りこみ泣いている立夏に言った。
「だって……僕には……ヴァイオリンしかないから……ヴァイオリンをやめたらきっと誰も僕の傍にきてくれない。それが一番……怖い」
立夏は下を向き身を縮こませながら震えていた。
だから
「俺がいるだろ」
俺は立ち上がりながらそう言った。
「……え?」
「俺が立夏の傍に居る。それなら寂しくないだろ? ショッピングとかスイーツ巡りもこれから一緒にしていけばいい。海や山でもなんでもこい。どこであろうとも俺が連れて行ってやる。前みたいにさ」
笑いながら座り込んでいる立夏に手を差し伸べた。
「………………」
「絶対に一人になんかさせやしない」
「……はは。何それ、告白?」
立夏は泣きながら笑って手を伸ばした。
「プロポーズ……なんてな」
笑いながら立夏の冗談を冗談で返した。
2日後
立夏は全日本ジュニアコンクールで過去最高の演奏をしてコンクール初の満場一致の金賞を勝ち取った。
パシャパシャと記者やテレビの人達に囲まれ、インタビューを受けている立夏を少し遠くでご両親と一緒に見守っている。
「全日本ジュニアコンクール連覇おめでとうございます!! しかも初の満場一致で金賞との事ですが、今のお気持ちは」
「とても嬉しく思います。それと同時に支えてくださった人たちに感謝しています。一番は皆さんの期待に答えられてよかった……ですけどね」
「期待以上ですよ!! やはり次は3連覇ですか? それとも世界で」
「いえ、私は今回で最後のコンクールにしようと決めていました。なのでもうコンクールには出ません」
一気に記者会場がどよめいた。
隣で立夏のご両親が驚いている。
次々と押し寄せてくる質問の中立夏は清々しい顔で言った。
「ヴァイオリンはあくまで趣味という形で続けていくと思います。これからは今まで出来なかった事をやっていこうかなって思ってます。好きな人と一緒に」
ぶー!!
再び、記者会場が一気にどよめいた。
「それは……恋人とという意味でしょうか!?」
「あ、えと……恋人ではないんですけど……今は」
「「「今は!?」」」
いや!! 何を言ってるんだ!? なんで頬赤らめさせながら言ってるんだ!? 匂わせはやめろ!!
「小さい時からずっと……好きだった人で……」
「そ、それは初恋ということでしょうか!?」
いや、めちゃくちゃ食い気味に聞きますね。記者さん。
「はい……ずっとそばに居るよって言ってくれて本当に嬉しくって……だから」
立夏がこちらを見た。
「好きです。ずっと好きでした」
そう言った。
記者やテレビの人たちは生放送で見ている誰かに言ったと思っている。
だけど、俺は知っている。これは……この言葉は俺に向けての事だった。
それは俺と立夏の……二人だけしか分からない告白。
「あ、ちなみにあそこで私を見守ってくれている人です!!」
どひゃー!?どうしてそんな非道い事するの!?
カメラが一気にこちらを向いて記者さんたちがこちらに向かって走ってきた。
これは……逃げなくては!!
「友樹くん!! うちの娘をぉぉ!!よろしく頼むよぉぉぉ」
あああ!! おじさん!! 泣きながら抱きつかないでくれ!! 逃げられない!!
質問攻めされている俺を見ながら愉快そうに立夏は笑った。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
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面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
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ご好評につきヒロイン視点を投稿しました!
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