↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百合ゲー世界に、百合の間に挟まる男として転生してしまいました(書籍版:男子禁制ゲーム世界で俺がやるべき唯一のこと)  作者: 端桜了/とまとすぱげてぃ
第五章 百合富論

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/400

めいどかふぇ(本物)

 電脳街アキハバラ――トーキョー、首脳区チヨダに存在する地下街《アンダーグラウンド》である。


 エスコ世界のトーキョーは、現実世界の東京都をモデルにしている。


 ただ、なにもかもそのままではなく、場所によっては大きな差分が在《あ》る。


 例えば、秋葉原は電脳街《アキハバラ》と呼ばれていて。


 敷設型魔導触媒器《コンストラクタ・マジックデバイス》を用いた映像機器によって、最先端技術の三次元像《ホログラフィー》が活動しており、高度技術集積都市《テクノポリス》・トーキョーの一端が垣間見える造りになっていたりする。


 アニメキャラや舞妓さん、前衛芸術が三次元像《ホログラフィー》となって、上下左右から売り込みをかけてくるカオスさ加減。


 人によっては、三分でリタイアする粗雑《そざつ》さがある。


 ゲーム内では、計画《スケジュール》に組み込み、電車賃さえ払えば、アキハバラに何時《いつ》でも足を運ぶことが可能だ。


 基本的にアキハバラへは、金稼ぎか買い物、ダンジョン探索、イベントのために訪れることになる。


 特に、アキハバラで重要視されているのは金稼ぎと買い物だ。


 アキハバラでは、魔力を電気に変換する『人間発電機』と呼ばれるバイトが存在しており、魔力量に応じたお金がもらえたりする。


 この世界では、魔力と言うエネルギー源があり、変換器《コンバーター》さえ導入出来れば、ソレを電気代わりにして電子機器を動かしたりも出来るのだ。


 ハードウェア/ソフトウェア、ニッチな魔導触媒器《マジックデバイス》と導体《コンソール》を取り扱う店も多いため、特殊なプレイを行うプレイヤー(エスコ学会員など)は、アキハバラを御用達にしている。


 例えば、効率厨のプレイヤーは、大量の電子機器を購入して自分に繋ぎ、クラッキングを仕掛け、魔神教のネットバンクから金を引き出し続けたりする(ゲーム内最高効率の金策方法)。


 ただ、魔力には個人に属する特質があるので、そう簡単に魔力⇔電気変換を行うことは出来ない。


 万人《ばんにん》が使えるように造られている魔導触媒器《マジックデバイス》とは異なり、電子機器の場合、専門知識の下で導線を引いて、個人の魔力を電気に上手く変換してやる必要があるのだ。


 神聖百合帝国で、ルビィがPCと敷設型魔導触媒器《コンストラクタ・マジックデバイス》を動かしていたのも、国の拠点魔力(占拠地から吸い上げられる大量の魔力)を用いたものである。


 正直、あの魔力⇔電気変換は、個人でやれるものではなく……ゲーム内でも、アキハバラの専門家に金を払ってやってもらっていた。


 原作ゲームの観点から視ても、ルビィの異常さがよくわかる。


 で、今回、俺たちの目的は金稼ぎでも買い物でもない。


 メイドカフェである。


「なんで?」

「着けばわかる!」


 ふんぞり返って歩く寮長は、何度聞いても『着けばわかる』としか答えてくれなかった。


 透けている青い身体を持つメイドが、宣伝用の立て札を持って、通りを行き交っている。


 三次元像《ホログラフィー》だ。


 魔術演算子を集めて、構築されている画面《ウィンドウ》は二次元、それに対して三次元の像として出力したものが三次元像《ホログラフィー》である。


 映像を出力している敷設型魔導触媒器《コンストラクタ・マジックデバイス》が、店内に鎮座しており、当の店主は働きもせずに、タバコを吸いながら情報誌を眺めている。


 その隣の店では、床から天井まで中古PCが積み上げられ、地下に存在するシャッター通りには普段通りのカオスが存在していた。


「着いた着いた」


 地下から更に地下へ。


 寮長は、ズンズンと狭い階段を下りていく。


 俺は胡散臭さを覚えながらも、彼女の後ろを付いていった。


 看板。


 その道中には看板があって、そこにはこう書いてあった。


 『めいどかふぇ(本物)』。


 本物は、普通、本物なんて書かない。なぜなら、本物だから(名推理)。


 正直、胡散臭さしか感じない。


 俺は、扉を開けて入店し――何時《いつ》ものメイド服を着たスノウが、くるりと振り向いてこちらを見つめる。


「本物じゃんッ!!」

「いや、だから、本物って書いてありましたよね?」

「と言うか、なんで、お前ココにいるんだよ!? 急に出てくるな!! 心臓に悪いだろ!!」

「なーに言ってくれてるんですかね、このクソ主人様……美少女の登場に歓喜の声を上げるのは構いませんが、もう少しお静かに願います。

 なにせ、ココは、めいどかふぇ(本物)ですからね」


 店内を眺めてみれば、所作《しょさ》振る舞いが洗練されているメイドたちが優雅に働いていた。


 テレビかなにかで、高級品として紹介されていた食器が使用されており、店内の調度品はどれも一流の品だとわかる。


 キャバクラ紛いのコスプレ喫茶とは違って、“本物”の圧を感じ、そのコンセプトが五感を通して伝わってくる。


「……もしかして、コレ、寮長の指図《さしず》?」

「いえ、申し訳ありません。スノウさんは私から誘いました」


 申し訳無さそうに、リリィさんは頭を下げる。


「おい、なんで、まずわたしを疑うんだ」

「あぁ、リリィさんの誘いでしたか。なら、良いんですよ」

「な・ん・で、わたしをうたがったー! こたえろー! こらーっ!!」


 ポカポカと、ミュールに腰の辺りを殴られる。


 俺は、銀盆をくるくると回しているスノウを見つめ、彼女は苦笑交じりに応《こた》えた。


「私が言わないようにと頼んだんですよ。

 この主人、私から卒業出来ないのは目に見えてるので、働くなんて言ったらウダウダウダウダ言い始めるかと思いまして。やれやれ、なにかと、束縛の強い婚約者《ダーリン》を持つのは困りますよ」

「婚約者の三条様に、勝手に話を進めてしまって申し訳ありません。

 さすがに、ずっと秘密というわけにもいきませんので……このタイミングで打ち明けようと話し合っていたんです」

「なら、新入生歓迎会の準備にメイドカフェを使うって言うのは?」

「それは本当だ。わたしは嘘は吐《つ》かん。

 寮をまとめる人間として、虚偽を口にすることは許されんからな。こういった細かい正しさが名声を高めるんだ。

 いずれ、誰も彼もが、わたしに付き従うようになる」


 胸を張って、寮長はふんっと鼻を鳴らす。


「立ち話はそこらへんにして、とっとと座ったらどうですか?

 御主人様は特別サービス、お水はセルフでどうぞ」

「おいおい、俺だけ特別扱いしたら、周りに俺たちのラブラブカップルぶりがバレるだろ。

 とっとと、恭《うやうや》しく、神に献上《けんじょう》するかの如《ごと》く水を運んでこい。俺の前で頭を上げることは許さん」

「喰らえ(水ぶっかけ)」

「責任者ァ!!(被弾)」


 ずぶ濡れになった俺は、リリィさんにハンカチで頭を拭かれる。


 その様子を視ていたスノウは、舌打ちをして俺にメニューを投げてよこし、機嫌悪そうに奥へと引っ込んでいった。


「で、リリィさん、なんでスノウがココで? そもそも、ココはなに?」


 どことなく、言いづらそうに。


 リリィさんは、ゆっくりと口を開いた。


「ココは、アイズベルト家に解雇されたメイドたちが勤《つと》めるカフェです。

 スノウさんには、その取りまとめをしてもらってます」


 よくよく視てみれば。


 健気に働き続けるメイドたちは、恐れが入り混じった眼差《まなざ》しで、ミュールのことを見つめていた。


 当本人の寮長は、さっきから、メニューのパンケーキに夢中で気がついてはいなかったが。


「……なるほどな」


 アイズベルト家。


 末娘の寮長《ミュール》を黄の寮(フラーウム)に閉じ込めて、世間から隔離し、家ぐるみで彼女を弾圧しているご立派な御家。


 奴らは、人間を上位、中位、下位に区別して中位以下を“廃棄”している。


 この廃棄こそが、アイズベルト家をアイズベルト家たらしめている理由のひとつだ。


 苛烈《かれつ》な取捨選別によって、一流のみを残したからこそ、アイズベルト家はエリート華族《かぞく》として後世に名を残しつつある。


 現在《いま》に至るまで、何人が闇に葬られてきたのか……ゲーム内では視えなかった暗部が、徐々に、視えてくるようになる。


 その被害者は、現在《いま》まさに、ココで働いている侍女《メイド》たちのように星の数ほど存在するに違いない。


「契約の観点から視ても、解雇自体は違法行為ではありません。

 でも、彼女たちの解雇理由は難癖《なんくせ》に近い。なにか、大きなミスをしたわけでもありません。

 基本的に、解雇者には他の仕事を斡旋《あっせん》していたのですが、侍女《メイド》としての仕事を続けていきたいと思う子もいるので……元々、アイズベルト家で働いていたという事は、高度な技術を身に着けた証左《しょうさ》に違いありませんから。そう簡単に、諦めがつくわけもありません」

「寮長《ミュール》には監視の目があるから、おおっぴらに雇うことも出来ず、こうしてメイドカフェを立ち上げてそこで働かせてるってことか」

「御明察です」


 俺は、なにやら、メイドたちに指示を出しているスノウを見つめる。


「でも、なんで、スノウなんですか? あの子たちのトップに立つのには、さすがに心もとないですよね?」


 ぽかんと、リリィさんは俺を見つめる。


「スノウさんは、一時期、三条家でメイド長を勤めていた御方ですよ?」

「…………は?」


 思わず、俺は声を漏らす。


「スノウが、三条家のメイド長? アイツ、モブじゃないの?」

「モブ……意味はよくわかりませんが、スノウさんの侍女《メイド》としての素質はずば抜けていると思います。

 あそこまで、依頼の意図を汲《く》んで動けるのは異常ですし、指示も的確で、恐らく、侍女《メイド》の域を超えた業務も粛々(しゅくしゅく)とこなしてきたんだと思いますよ。でなければ、あの齢《とし》で、あそこまでの力量が身につくとは思えません」


 ……実力を隠す系の主人公か、アイツ?


 正直、俺と漫才しながら、働いているおちゃらけメイドとしか思っていなかった。


「なんで、アイツ、三条家を辞めてるんだよ……?」

「恩がある、と言っていました」


 俺の独言《どくげん》に、リリィさんが反応する。


「恩……」

「三条様は、お優しいから」


 綺麗に微笑んで、リリィさんはささやいた。


「きっと、昔から、たくさんの方を助けてきたんだと思いますよ」


 おいおい。


 俺は、嫌な予感に汗を流した。


 まさか、過去ヒイロのフラグが、現在《いま》になって回収されつつあるとか言うんじゃないだろうな……ふざけんなよ……エスコ本編では、そんなもの、ひとつも回収されてなかっただろ……俺がヒイロの中に入ったことで、フラグスイッチがONになったとしか考えられないが……なんで……?


 や、やめよう。深く考えるのはやめよう。昨日、肋骨を折ったばかりなのに、今度は脳が破壊される。


「とりあえず、ココがどういう立ち位置の場所なのか、スノウがなんでココで働いてるのかもわかった……でも、新入生歓迎会との関係性がわからないんだけど?」

「歓迎会には、新入生をもてなすメイドが必要だからな」


 ナイフとフォークを持って、パンケーキを待っている寮長はおすまし顔で言った。


「こんな地下で辛気臭く働いているよりかは、たまには、お日様の下で働かせるのも良いと思ったんだ。

 わたしのアイディアだぞ! リリィがどうしてもと言うから、コイツらを匿《かくま》ってやってるんだし、わたしの役に立てるならコイツらも嬉しい筈だ!」


 ふっくらとしたパンケーキが運ばれてきて、ミュールは歓声を上げる。


 楽しそうに、ちまちまと切り分け始めて……その嬉しそうな顔とは正反対に、リリィさんは不安気に顔を曇らせていた。


「良いアイディアだが」


 だから、俺は、代わりに言った。


「十中八九、アイズベルト家の邪魔は入るだろうな」


 と言うか、入ることは確定している。


 ただ、その企みは、月檻の手で事前に潰されて、ミュールは彼女に対する信頼を高める……黄の寮(フラーウム)の新入生歓迎会は、そういうちょっとしたイベントの筈だが、特別指名者に月檻桜ではなく、三条燈色が選ばれたことで、そのお鉢《はち》が俺に回ってきてしまっているらしい。


「あ、あの」


 パンケーキを運んできたメイドのひとりが、震え声でささやく。


「私は、やれるならやりたいです……折角、ミュール様に頂いた機会を無下《むげ》にしたくはありませんし……リリィ様への恩も返したい……それに、アイズベルト家の方々に、私たちは出来損ないじゃないって……伝えたい、です……」


 他のメイドたちも、同じような考えを持っているらしい。


 かつて、矜持《きょうじ》で輝いていた顔は、曇りきっていたが、それでも彼女たちは未来を見上げようとしていた。


 スノウが、微笑んで、俺を見つめている。


 その答えを知っていると言わんばかりに。


「いえ、いけません。

 三条様は非常に腕の立つ御方で、この御方が『危険だ』と明言しているのだから、コレを機に貴女たちも諦め――」

「いや、やろう」


 きっと、リリィさんは、俺が自分側に付いて、一緒に説得してくれると思っていたのだろう。


 驚愕で、彼女は、目を見開いた。


「コレは、俺たちとアイズベルト家の戦争だ。

 あんたたちが、一方的に、こんな薄暗いところに押し込められてて良いわけがない……日向《ひなた》でしか、百合の花は咲かない」


 言葉の波動を受けて、メイドたちの顔に矜持《きょうじ》が戻っていく。


「成功させてやろうぜ、新入生歓迎会。

 その上で、俺が、アイズベルト家に――」


 ニヤリと笑った俺は、ひとつの企《たくら》みのもとに両手を広げた。


「本物の一流ってもんを教えてやるよ」


 スノウは微笑して、リリィさんは愕然《がくぜん》とし、ミュールは――


「アイス、まだか……?」


 パンケーキに載《の》せるアイスを待っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] こ、コイツ!お嬢と同じ波動を感じるぞ…?
[一言] パンケーキにはアイスが乗る。 うむ!わかっているじゃないか!!
[一言] この謎の疾走感、内々け〇き氏の作画と相性よさそう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。