フラグ乱立、お嬢炸裂
めっちゃ、ダンス踊った(出落ち)。
代わる代わる、月檻、レイと踊らされた俺は『レクリエーション合宿のダンスパーティーで、ダンスを踊った人同士は結ばれる』と言う伝説を破壊するために、ダンスホールの隅にあった花瓶を抱いて踊っていた。
「さ、三条燈色が、花瓶と踊ってる……」
「…………」
「花瓶と踊ってるぅ!!(恐怖)」
「なんだよ、邪魔するな。俺は花瓶と結ばれるために本気なんだぞ」
「バカなことしてないで来て」
真っ赤なドレスを着た緋墨は、恐る恐る俺の手を握って、踊るフリをしながらダンスホールへと向かった。
「あんた、こんなところに居て良いの? 襲撃の時間、そろそろの筈だけど?」
「だから、ココに居るんだよ。いざという時のためにな」
「てか、あんた、ダンス……びっくりするくらい下手くそ……そりゃあ、女の子と踊らずに花瓶と踊るわよね……」
「お前ら人間どもは、好き勝手ステップを踏まない花瓶さんを見習え。
アレが真の上級者だ。地に足を付ける必要すらない」
俺と緋墨は、くるくると回りながらささやき合う。
「あんた、逃げるつもりはないの?」
「ないね」
「お人好しバカ」
「どうも」
「あんた、怖くないの?」
俺が手を上げると、彼女はくるりと回転する。
綺麗に回った彼女は、俺の肩に手を置いて、また左右にステップを踏む。
「下手したら、死ぬかもとか……考えたりしない?」
「そんなもんより、百合が死ぬ方がよっぽど怖いね」
「理解出来ない」
「お前はお前で良いだろ。理解する必要なんてねーよ。精々、好きに生きろ。てか、恋をしろ。可愛い女の子を捕まえて、初デートのツーショット写真は、俺に送ってもらえると嬉しいな。女の子と結婚しろ(溢れ出る欲望)」
「襲撃が始まったら」
緋墨は、俺から手を離す。
「あたしは、あんたの敵に回る」
「そうすか」
「舐めてるでしょ、あんた……言っとくけど、本気で、あんたを倒しに行くから。
一度、命を救ってもらったことに関しては、襲撃の件を教えたことでチャラ。逃げなかったのはあんたの勝手。アルスハリヤ様の側につくって決めてるから。あんたがこっちと敵対するつもりなら、魔神教の一員として排除する」
「なら、俺は、全力でお前を救う」
薄く笑って、俺は、緋墨を見つめる。
「なぜなら、俺の脳内で、お前は伴侶の女性と手を繋ぎながら、陽だまりの中で幸せに死ぬと決まっている……運命に逆らうな、緋墨……やはり、お前は百合になれ……共に百合の世を見届けようじゃあないか……?」
「きっしょぉ!!(どストレート)」
叫んだ緋墨はフッと笑って、俺に手を差し伸べる。
「お互い、また、生きてたら会いましょ。
敵同士、だけどね」
「狙われてるんだから大人しくしてろよ」
「信頼出来る眷属がいるから、その女性に護ってもらうわよ。心配無用」
「まぁ、上手くやれよ」
俺と緋墨は握手を交わし、彼女は、ダンスホールから消えていった。
さて、俺はどうす――ダンスホールを見回して、そこに居るべき子が居ないことに気づき、俺は慌てて月檻の元に向かう。
「つ、つつつつつつつつつきつききつつき!!」
「え? オフィーリア、いないの?」
レイたちと立食を楽しんでいた月檻は、小首を傾げる。
「おりつきつききつつききつきつつつきおりッ!?」
「ううん、視てないけど」
「つきおり!? つきおり!? つきおりぃ!!」
「わかった。ラピスたちは任せて。
いってらっしゃい」
「桜、それどうやってるの!? ずるいっ!! 教えて!! 教えて!!」
「桜さん、私も教えて下さい。卑怯です」
「いや、顔色と表情から類推してるだけだけど(チート)」
泡を食って駆け出した俺は、隠していた九鬼正宗を引っ張り出す。強化投影を発動し、一気にダンスホールを飛び出した。
船内を駆け回りながら、俺は、必死の形相でお嬢を探す。
なぜ、俺の『見守りお嬢システム』が発動しなかった!? アレは、エスコ・ファンであれば、常時発動のパッシブスキルの筈なのに!?
俺は、怒涛の勢いで、お嬢を捜索し――ばったりと、Aクラスの専属スタッフ『A』さんと出くわす。
「こんばんは、三条様。
もしや、どなたかお探しでしょうか?」
「そ、そうなんですよ!! あの!! 視てませんか!? 金髪縦ロールに人間の身体がくっついてるような子なんですが!? どこかで涙目敗北かましてませんでしたか!? 秒で敗けるクソ雑魚なんですが!?」
「オフィーリア・フォン・マージライン様ですか」
コイツ……お嬢を侮辱してるのか……?(ピキピキ)
「お見かけしましたよ。
上のタンザナイト・デッキで、夜風を浴びているようでした」
「よ、良かった!! どうも、ありがとうございまし――」
すっと、道を塞がれて、俺は足を止める。
「申し訳ございません。
ひとつだけ、貴方にお伺いしたいことがありまして」
彼女の真っ黒な瞳が、俺を覗き込む。
「先日、貴方は、六人の少女にボートを与えて下船を促したようでしたが……貴方は、なぜ、あの時、彼女らと一緒に行かなかったんですか?」
眷属たちを逃してた場面、視られてたのか。
わざわざ、嘘を吐く必要もない。ココで、下手に偽装するようであれば、後々、面倒な事になるかもしれない。
だから、俺は、正直に言った。
「百合を救うためです」
「……百合」
彼女は、人差し指を顎に当てて微笑む。
「初めて聞く言葉ですね。
可能であれば、ご教授願いたいところですが」
「では、365日くらいお時間を頂いてもよろし――」
「よろしくありません(即答)。
簡潔にどうぞ」
俺は、首を捻って……答える。
「愛、ですかね」
「愛」
「陳腐だと笑われるかもしれませんがね……365日を費やせないのであれば、俺は、ただ一言『愛』と答える他なくなる(イケボ)」
「なるほど」
彼女は、すっと道を空ける。
「貴重なお時間をとらせてしまい、申し訳ございませんでした。
どうぞ、お通りください」
「どうも」
俺は、その脇を通り抜けようとして――
「…………すよ」
ぼそりと、つぶやかれたその声を聞いて振り返る。
「なんか言いました?」
「はい? 私でしょうか?」
嘘を吐いているとは思えない表情。
足を止めていた俺は、火急の要件(お嬢)を思い出し、慌てて駆け出す。
「それじゃあ、情報、どうもでしたぁ!!」
「お気をつけて」
深い一礼に見送られた俺は、タンザナイト・デッキまで駆け上がっていき――なんか、格好良い感じで、夜風を浴びているお嬢を見つける。
柵にもたれかかって、ふぅと息を吐いた彼女は、自分のことを『格好良い』と思っていそうだった。
「格好良いですわ……わたくし……」
ほ、ホントに思ってる……すげぇ……(感激)。
気配を気取られたのか。
彼女は、バッと振り返って、真正面から俺と目が合った。
「あ、貴方!? 奴隷!? い、何時から視てらしたの!?」
「『マージライン家のご令嬢が、ダンスパーティーをサボタージュなんて……ふぅ……あまりにも気高き存在は、孤高に至るということかしら……』から(当てずっぽう)」
「そ、そんな前からっ!?」
お嬢検定1級とれるわ、俺。
恥辱で顔を赤くしたお嬢は、自慢の金髪縦ロールを掻き上げる。
「そ、それで? 奴隷ごときが、わたくしに何の御用かしら?」
「せっかくの機会だし、ちょっとおしゃべりしようかなって」
「オーホッホッホッ!! 身の程をお知りなさい!! このオフィーリア・フォン・マージライン!! 庶民の男と交わす口は持たなくてよ!!」
「まぁまぁ、そう言わず。
義理堅いマージライン家のご令嬢が、見事に転けて怪我を負った際、その危機を救った恩人に褒美を与えないなんてことはないでしょ?」
「うっ……そ、それもそうですわね……し、仕方ありませんわね! ふんっ! ちょびっとだけですわよ!」
このちょろさ、最早、人類の宝だろ(恍惚)。
お嬢が嫌がるので、俺は少し距離を離して、彼女の隣で柵に身を預けた。
冷たい潮風が全身を煽り、お嬢は、そっと首飾りを握った。
「その首飾り、魔導触媒器なんだよね?」
「えぇ、そうですわよ。マージライン家の宝ですわ」
星あかりに照らされる首飾り……光の下で輝くソレを見つめて、お嬢は嬉しそうに微笑む。
「わたくしが、まだ幼かった頃、親友からもらった素晴らしい宝物なのですわよ」
「えっ……そ、その親友って……女の子……?(警戒と期待)」
「当たり前でしょう? 髪は短くしていましたが、女の子に決まっていますわ」
瞬間、身体の震えが止まらなくなる。
声が漏れ出ないように、自分の口を自分の手で塞いだ。
ば、バカな……お嬢の首飾り、魔導触媒器、『耽溺のオフィーリア』はただの産廃で……親友の女の子からのプレゼントなんて、尊い設定はなかった筈だ……そんなエピソードがあったら、俺は死んでも『ゴミ(笑)』とか言ったりはしない……!!
「う……うぐっ……!!」
さらなる可能性に気づいて、俺は、両手で思い切り口を塞ぐ。
ま、待てよ……オフィーリアルートに入っても、お嬢は月檻と恋仲になることはない……現在まで、それは開発上の都合だと思っていたが……も、もし、お嬢が、過去に出会ったその女の子に惚れているとしたら……す、全ての辻褄が合う……そして、俺の身体はその尊さに耐えられない……!!
「ぐっ……ぐっ……ぐぅっ……!!」
口角が、自然に上がる。
き、聞きたい!! その子が好きなのか、聞いてしまいたい!! だ、ダメだ、聞くな!! こ、ココで!! ココで、俺は死ぬわけにはいかない!! 死ぬわけにはいかないんだっ!!
「す、好きなの、その子……?(自殺)」
頬を染めたお嬢は、そっぽを向いた。
「そ、そんな昔のこと……し、知りませんわ……」
ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!(昇天)
「す、好きなんでしょ? は、恥ずかしがるなよ? す、好き? 好きでしょ? んぅ? 好きでしょ?」
「し、知りません知りません!! も、もう、顔も憶えてませんわ!!」
ァ(以下略、昇天)
「か、髪の色は? 何色の子?」
「な、なんなのかしら、急にいきいきと……き、金でしたわ! 綺麗な金色!」
「お、おふたりは、どういう関係性?」
「ち、父からは……その方は、わたくしの婚約者だと聞いておりますわ……か、華族の御方で……い、いずれ、結婚することになると……」
は??? なにそれ??? ふざけてんの??? 全力で推すが???(全ギレ)
「とても、優しい御方でしたわ。絵本に出てくるお姫様みたいで。女性であるにも関わらず、半ズボン姿も、異様に似合っていて。
ひとりぼっちだったわたくしと、いつも一緒に遊んでくださいました」
愛おしそうに、彼女は綺麗な首飾りを見つめる。
「もう少し経てば、顔合わせのために、その女性に逢えると……聞き及んでいますから……あの女性は、憶えてらっしゃらないかもしれませんが……この首飾りを着けたわたくしを見れば、あの日々を思い出してくれるんじゃないかって……」
目を閉じて、お嬢は、ぎゅっとその首飾りを抱き締める。
「だから、わたくし、その日がくるまで……ずっと、この宝物を身に着け続けますの……あの御方に見つけてもらえるように……楽しかった日々を思い出してもらえるように……あの御方にふさわしいマージライン家の淑女で居続けますのよ……って、えっ!?」
号泣している俺を視て、お嬢はぎょっとする。
そんな彼女を見つめ返し、俺は、涙ながらに口を開いた。
「俺が!!」
俺は、泣きながら叫ぶ。
「俺が護るよ!! その首飾りも!! お嬢も!! その女性に逢える日が来るまで!! だから、安心しろ!! 絶対に!! 俺が!! お嬢とその首飾りを護る!! その美しい愛を!! 必ず護る!!」
泣き続ける俺を視て、お嬢はふっと微笑む。
「この首飾りは、わたくしが命よりも大切にしている宝物。
その宝を護ると言われて、気を悪くするわけもありませんわね。貴方、男にしては、なかなか見どころがありますわ。
オーホッホッホッ!! このわたくしの素晴らしい淑女ぶりが、貴方のような底辺すらも引き寄せたということかしらぁ!?」
「そのとおりでぇす!! ありがとぉございまぁす!! 自分、本気でがんばりまぁす!! 是非、盾にしてくださぁい!!」
「オーホッホッホッ!! 良き良き、ですわぁ!!」
やっぱり!! お嬢は最高だぜ!!(涙声)
改めて、俺は、素晴らしい百合を護ると決めて――殺気――どこからか悲鳴が響き渡り、戦闘音が聞こえてくる。
来たか。
俺は、静かに、九鬼正宗を抜刀する。
「お嬢、俺の後ろに回――」
「巨悪の気配!! 行きますわよ、奴隷!! マージライン家の勇気と優雅さを見せつける時が来ましたわ!!」
「お嬢!?」
とんでもない素早さで、お嬢は船内に飛び込み、慌てて俺は彼女に続き――次の瞬間。
「武器を捨てなさい」
お嬢は、魔神教の眷属に捕らわれ、首に刃先を突き付けられていた。
「さもなければ、この子を殺すわよ」
「ひ、ひぃ……た、たすけてぇ……!!」
と、とんでもねぇ……か、敵う気がしねぇ……お、お嬢、あんた……どこまで行くつもりなんだよ……!(感動)
「はやく、武器を捨てなさい」
「た、たすけてぇ……し、死にたくありませんわぁ……!!(涙ボロボロ)」
「捨てる捨てる。だから、あんまり乱暴するなよ。
ほら」
俺は、九鬼正宗をぽいっと放り投げ――指先を引っ掛けて、引き金――強化投影を発動し、驚愕で硬直した眷属たちへと突っ込んだ。