ヒロイン一釣
ダンジョン。
世界各地に発生した、異界へと繋がる特異点……そこからは、人々を襲う魔物が溢れ出し、ダンジョンの核を潰すまで入り口が閉じることはない。
この魔物には、魔法以外の攻撃手段が通用しない。
そのため、主人公たちは、このダンジョンから溢れる魔物から対抗するために、魔法学園へと通うことになるのだ。
魔導触媒器の扱いを学び、全世界のダンジョンの核を潰すまで、主人公たちの戦いは終わらない……!!
みたいなことが、電子説明書に書かれていますが、大体のエンディングでは、ダンジョンのことなんて忘れて彼女らは幸せになります。
やったぜ!! この世界には、ダンジョンなんてなかったんや!!
と言う訳で、ダンジョンにやって来ました。
「…………」
さっきから、俺の後ろで、爪を弄っている暇そうなメイドを引き連れて。
「…………」
「…………」
一旦、謎のメイドは忘れよう。
ダンジョンは、世界各地に発生した謎に包まれた特異点。
わかっているのは、それは通路の役割を果たし、魔物と呼ばれる異形を向こう側から連れてくることだ。
基本的には、専門機関の管理下に置かれており、入り口は結界で封じられている。無許可での立ち入りは許されていない。専用の立ち入り許可証を必要とするが、一応、三条家の御曹司たる俺はあっさりと認可が下りた。
とは言え、その過程で、恐ろしい事実が判明したのだが。
どうやら、現段階の俺のスコアは……0点らしい。
『Everything for the Score』世界……通称、エスコ世界では、素行、活躍、社会貢献度から布団の畳み方まで、ありとあらゆることが評価され、政府から付けられる『スコア』が序列を決めるカースト世界である。
本当に、この世界では、なにもかもがスコアで決まる。
家格、学校での扱い、就活時の有利さ、飲み物の質から晩御飯のおかずの数まで。
なにせ、スコアは金銭的な扱いも出来る。金の代わりにスコアを払えるし、場合によっては、金よりもスコアの価値が高くなることもある。
スコアは、魔導触媒器に紐付けられている。
なので、自販機でジュースを買う時にも、勝手に自販機側でデバイスを読み取って、売ってくれる飲み物が変わったりする(0点の俺は、ドクター○ッパーしか買えない)。
しかも、現在、俺がいる『トーキョー』は、スコアでしか買い物出来ないコンビニや自販機が多すぎる。0点底辺層の俺は、わざわざ、現金支払い可能な駅前のコンビニまで行って、物資を調達してきたくらいだ。
たぶん、あっさりと、0点の俺がダンジョンの立ち入り許可証が発行出来たのも、三条家のBBA連合が手回ししたからだろう。
ワンチャン、ダンジョン内でくたばってくれないかなと言う淡い期待みたいなものが透けて視える。
さて、なぜ、俺は0点なのでしょうか?
理由は簡単。
俺は、三条燈色で、百合の間に挟まる男であり、世界単位でヘイトをもらっているからだ。この男、天性のタンク職である。将来は、サンドバッグにでもなればいいんじゃないかな(皮肉)。
そんな俺ことヒイロくんは、これから約三年後、学園卒業の頃合いには悲惨な死を宿命付けられている。
それまでに、なんらかの対策を立てなければ……ゲームオーバー。
わーい、ふたりで仲良死だよ^^
とか、ニコニコマーク付けて、百合に挟まるクソ野郎と心中するつもりはない。
破滅を迎えるまでに、三条家の雇う暗殺部隊くらいは、一蹴出来る力を手に入れておかなければならないだろう。
そのためには、魔法の強化は欠かせない。
そして、魔法の強化には、導体は必須であり、各種パラメーターの成長も必要である。
で、そのためにも、導体が手に入り、成長も見込めるダンジョンにやって来たわけだが。
「…………」
なんで、このメイドは、付いてきたんだろ。暇なのかな。
とりあえず、メイドは放置して、俺はダンジョン攻略に思いを馳せる。
エスコ世界のダンジョンは、多岐に渡る。
洞窟、天空城、世界樹と言ったオーソドックスなものから。
誰もいないデパート、取り壊しになったビル、大量の罠が仕掛けられた豪邸と言った日常生活に結びつくものまで。
俺が現在いるダンジョンは、初心者向きと言われる『廃線駅のダンジョン』だ。全5階層の浅さで、出る魔物も、どうやったら敗けられるんだこんなの……と言った弱キャラばかりである。
俺は、屈伸しながら、自分の魔導触媒器を見つめる。
九鬼正宗……実際に、存在する刀剣のひとつで、国宝に数えられる業物である。
エスコ世界では、式枠3、筋力と敏捷のスキルUPのパッシブスキル搭載の良い感じのデバイス。どの式枠に導体を嵌めても、導線が繋がって連鎖するので使い勝手が良い。
『悪堕ちルート』で、ヒイロとの初対面時に『ころしてでもうばいとる』の選択肢を選ぶと手に入れることが出来る。その選択肢が選ばれた場合、ヒイロはなぜか爆発四散する。選択肢ひとつで死ねるとか、開発者の殺意がすごい。
俺は、魔導触媒器に『属性:光』と『生成:玉』の導体を嵌めてから引き金を引く。
瞬時に――導体と導体が接続。
蒼白い線が、鞘を走り抜けて、魔法が発動する。
発動――光玉。
俺の目の前に、光の玉が出現する。
「ぉお~!!」
かっくい~!!
なんか、やっぱり、俺も男の子なので、魔法とかそう言うの、実際に発動すると気持ちよくなっちゃうよね。
「…………」
しかし、さっきから、こっちを睨んでるメイドが気になるな……罠でも仕掛けるか。
「それじゃあ、次は、光玉を動かしちゃおうかなぁ!」
わざとらしく、声を上げて、俺は手のひらを構える。
そのまま、光玉を撃つ仕草をして……ぴくりとも、動かない光玉を見つめる。
「あれれ~? おかしいぞ~?」
ぴくりと、メイドが反応する。
「なんで、うごかないんだ~? あれれ~? 不良品かなぁ~?」
ちらちらと、こちらを視ながら、メイドはうずうずと身体を動かしていた。
ふふ、教えたいだろ……教えたいんだろ……わかるぜ……人間と言う生物は、マウントとってなんぼの生物だからなぁ……!
「し、仕方ありませんね」
俺の『あれれ攻撃』に屈したのか、ドヤ顔のメイドがトコトコ寄ってくる。
フィッーシュ!! フィッシュフィッシュ!!
俺は、心の中でリールを巻きながら、90度くらい首を曲げて攻勢に出る。
「わっかんないなぁ!? わっかんない!! ひとつもわからない!! 1+1すらわっかんない!! たぶん、3だわコレ!!」
「仕方ありませんね。
ひれ伏しなさい、教えてあ――」
「貸して」
急に、横から、魔導触媒器を奪われる。
急に現れた少女は、夢中になって、俺の魔導触媒器を弄り始める。
「…………」
いや、誰だお前!?
絹糸のように滑らかな金髪、特徴的な三角形の耳。
銀色の耳飾りを付けた彼女は、すらりとした体躯を持っており、その種族の特徴とも言える弓を身に着けていた。
銀の瞳は、月のように美しく、人の心を惑わせる。
露出の激しいところもある民族衣装的な衣装……俺は、この美しい少女が、何者なのかを知っている。
「はい、コレで完璧。
『操作』系統の導体を嵌めないと、射出出来ないから気をつけた方が良いよ」
エルフの姫君、最強の一角、ヒイロ殺す率第1位……そして、エスコ世界、四ヒロインのうちのひとり。
「君、ダンジョン初心者?」
ラピス・クルエ・ラ・ルーメット――
「死なないうちに帰った方が良いよ」
メイドの代わりに、ヒロインが釣れた。