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虹がかり

 作為的な猫騙し(フェイント)


 わかりやすく引っ掛かったライゼリュートは、己の腕の直線上に爪先を運び――緋墨の腕に霧紐ニドヘグを結びつけ、弧を描きながら飛翔した獲物を捉えられず、ニヤリと笑った俺は回転しながら引き金(トリガー)を引いた。


新連載開始リスタートだ」


 根本から。


 八本の腕を切り裂いた俺は、緋墨の腰から引き抜いた彼女の魔導触媒器マジックデバイスをその手に持たせる。


「緋墨、自分の胸をまな板に見立ててライゼリュートの腕を調理してやれ」

「ごめん、私の胸、豊かに凸ってるから無理だと思う」

「…………」

「刺すわよ?」


 魔人の腕に支えられていた緋墨を受け止め、俺は彼女を抱えたままボードの上に着地する。


 そのまま、俺は水上を滑り始めて、水飛沫を撒き散らした。


 前髪を濡らした緋墨は、必死の形相で無属性の刀身を振り回す。その度に、うじゃうじゃと緋墨の胸から湧いてきたライゼリュートの腕が飛び散り、赤黒い血液が周囲に飛び散った。


「ねぇっ!!」

「あぁん!?」


 風切り音が唸る中で、緋墨は声を張り上げる。


「勝算!! 勝算、あるの!? あんた、自殺呪詛カウンタースーサイドのせいで人形に手を出せないんでしょ!? そもそも、Qにクロエさんは操られてて!! どうやって、助け出すのよ!?」

「寮の前で言ったろ、『我に秘策有り』、だ!! 自殺呪詛カウンタースーサイド対策は考えてある!! 人質救出用の奥の手だったけどな!!」

「なにするつもり!?」


 俺は、ニヤける。


「呪詛返し返しだ」

「……はぁ?」

「それと、委員長の救出方法も考案済みだ!! 大船どころかタイタニック号に乗った気分でリラックスしろ!!」

「だから、その船、映画化されるレベルでド派手に沈むんだって!!」


 加速して、俺の首に縋り付いた緋墨は悲鳴を上げる。


 アクセルを最大まで踏み込んだ俺は、渦巻きながら螺旋を描いているコースの内側へと潜り込み――


「ほら!!」


 俺の胸ポケットに手を突っ込んだ緋墨は、『変化:流動』と『操作:液体』の導体コンソールを九鬼正宗の式枠スロットに叩き込む。


「コレでしょ?」


 俺は、緋墨に笑いかける。


「バカ言ってないで」


 彼女は、俺の背中を力強く叩いた。


「やっちゃえ」

「おう!!」


 回る、回る、回る。


 螺旋を描いている経路コースを辿りながら、俺は廻転する己に合わせて人差し指と中指を伸ばした。


 その渦巻きは、いつの間にか俺の指先へと集中していき――強烈に荒れ狂いながら、強烈な反動と共に撃ち出される。


 ドッ!!!!


 波立ちながら経路コースに沿っていった水鉄砲は、委員長を運び出そうとしている人形を弾き飛ばす。


 その瞬間。


 俺が生成クラフトした水人形の全身が破裂し、その中に閉じ込められていた俺の髪の毛が水中へと落ちた。


「やっぱりな」


 笑いながら、俺は、次々と髪の毛入りの水人形を生成クラフトする。


「呪詛には、相手との結びつきが必要とされる……そして、呪詛返しとは魔力の痕跡を辿った反撃魔法カウンタースペル……魔人である俺は魔力の塊みたいなものだから、自殺呪詛カウンタースーサイドで発生した呪詛返しは、理論的には『三条燈色の魔力を辿るモノ』に過ぎない……つまり……」


 俺は、水中から襲いかかってきた人形を切断し――同時、周囲の水人形が破裂し、勢いよく飛沫を飛ばした。


「自身の魔力を抑えて、水人形にめる魔力を高めれば、水が高いところから低いところに流れるように――水人形(ニセモノ)へと吸い寄せられる」


 笑いながら、俺は、水中から人形を生み出した。


「人形遊びも、たまには良いもんだ」

「三条燈色……あんた、やっぱり……凄いわよね……?」

「なんで、疑問符?」


 だが、コレでは攻勢に出ることは出来ない。常に魔力操作に追われることになり、魔力を上下するタイミングをしくじれば破裂することになる。


 だからこそ。


 俺は、白い霧をまとって、格納していたボードと信徒たちを召喚した。


「全員、俺を信じろ」


 俺は、彼女らのボードに霧紐ニドヘグを結びつける。


「俺は、貴重な青春時代を水流滑り(クソゲー)に費やした……人が汗と涙を流し青春を謳歌していた時、俺は、アクティブプレイヤー12人のゲームをプレイし台パンしていた……12人もの狂気を抱えた『水流滑り(ウォーターコースター)・オンライン』で頂点に立った世界記録保持者ワールドレコードホルダー……お前らの聖典に、この情報を追加しろ……」


 全員のボードを把握し――俺は、両目を見開いた。


「人、その者を英雄と呼ぶ」

「呼ばないわよ?」


 ぶっ――飛ぶ。


 急激な勢いで押し出された俺は、歓喜にむせぶ信徒たちを引き連れて水面を走り、幾重にも重なった人形の手が伸びてくる。


 上。


 凄まじいまでの『金剛炎上』の推進力により、吹っ飛んだ信徒のひとりは逆さまの状態で長槍を廻転させる。水滴を飛ばしながら円を描いたその一閃は、一筋の水線を宙に残し、人形の腕を両断した。


 危なげもなく、彼女はまるみを帯びた水の壁に着地する。


 数秒の合間に。


 360度、ありとあらゆる方向から。


 伸びてくる青白い手に対し、俺はボードと信徒を差し向け、彼女らは螺旋を描いた水路を駆け上り駆け下り――人形の腕や足や頭を断裂して叩き潰した。


 妄信的なまでに、俺の操作コントロールを受け入れた彼女らは人形よりも人形らしく、適切なタイミングで武器を振るった。


 雨あられと降り注いでくる大粒の水滴、人形たちの腕や足といった部品パーツ


 協奏的で狂騒的な、無慈悲なまでな共同作業。


 踊る、踊る、踊る。


 ボードというボードが、筒状になった経路コースの内側を舞い飛び、人形使いと人間使いはその狭間で結び合った。


 あたかも、歩調を合わせるかのように。


 人形と人間はぶつかり合い、俺と委員長の距離は縮まっていく。


 いける。


 斬り払った俺は、委員長へと手を伸ばし――緋墨の胸から吐き出された魔人の指が、九鬼正宗を弾き飛ばした。


 唯一の武器が、ぼちゃんと水中に没する。


「三条燈色ッ!!」


 なんの躊躇いもなく、緋墨は己の胸の中心へと刃を突き入れようとし――間髪入れず、俺は、その刃を自身の手で止める。


 当然の帰結として、俺の手のひらは貫かれて、思わず激痛に顔をしかめた。


 ぽかんと。


 緋墨は口を開けて、悔しそうに俺の左手を見つめた。


「なんで、いつも、そういうことすんのよ……」

「大事なモノ護るために、そういうこともクソもあるかよ」


 俺は、彼女に笑いかける。


「俺は、誰も死なさねぇよ。

 そうだろ、緋墨?」

「…………うん」


 ぐわんと。


 押さえつけられていたライゼリュートは、緋墨の胸の中心から生まれ伸びてきて、覚悟を決めた俺は刺さっていた短刀を抜いた。


 上方へと。


 上がっていった経路コースは、何時しか緩やかに下方へと向かい始めており、俺たちはゆっくりと落下を始めていた。


 その落下に合わせて。


 俺の横をすり抜けたライゼリュートは、委員長へと爪先を伸ばし――


『とぅーばっど』


 開きっぱなしだった画面ウィンドウから、声が聞こえてくる。


 画面の向こう側で、両腕を組んだアシュリィ・ヴィ・シュガースタイルは、無言で睨めつける霧雨キリウの眼前で微笑む。


『下策下策下策ねぇ、三条霧雨(キリウ)。貴女の行っている行動は、実にバッド、テストだったらマイナス100点で浪人ローニンね』


 協力者の動揺を感じ取ったかのように。


 ぴたりと、ライゼリュートの動きが止まった。


『ナァンセェンス……ココで、彼女クロエを殺せば、三条燈色を起点とした三条家の掌握にはフェイラー……失敗するわよ』

『…………』

『確かに、貴女のリスクヘッジにはスキームとしての型があるわ。でも、所詮、Hum、その程度ね。飽くまでも、大枠スキームに過ぎない。なぜなら、貴女の計画には、スペシャル・ワンな穴が存在している』


 マニキュアが塗られた爪を弄りながら、アシュリィは口端を曲げる。


『貴女は、三条燈色のことをらない』

『…………』

『だから、貴女の行動は二転三転、昔話フォークテイルみたいにスッテンコロリン。三条燈色の周囲に居る彼女たちが、今後の計画の邪魔になると判断したのであれば、あんな婚姻届ペーパーなんて無視して処分するのがGoodだった。でも、貴女はそうすることはなく、今頃になって躍起になりながら処刑を実行しようとしている。

 そんな約定破りを遂げた仇のことを、果たして三条燈色は信頼するかしら? 今後の行動に差し支えが出てくるのは当然でなくて?』

『…………』

『貴女は、三条燈色のことをらない……だから、彼のことを識ることによって、行動のチェンジを強要されている……つまるところ、コレは、貴女が三条燈色にコントロールされていることと同義ね』


 よくよく視てみれば。


 アシュリィ先生の両膝はガクガクと震えており、現在いまにも膝から崩れ落ちてしまいそうだった。


 にも関わらず、彼女はその恐怖を表情としては、おくびにも出さなかった。


『コンコルド効果に酔って、後に引けなくなるよりも、今からでも頭を下げて友好関係を維持することが必要だと思うわ。

 それこそが、我々にとってのWin-Winにな――』

『ぼくのことを』


 霧雨キリウは、機械的に微笑む。


『どこから調べた?』


 霧雨キリウは一歩踏み出し、震えながら先生は片手で待ったをかける。


『ディス・イズ・ウォーニング……それ以上、近づかないほうが良いわね。

 わたくしには、貴女には決して出来ない奥の手がある』

『……奥の手?』


 警戒したのか。


 霧雨キリウは足を止め、余裕の笑みを浮かべた先生は風になびく己の髪を押さえつける。


『……本日は、お日柄もよく』


 釣られて。


 霧雨キリウは、視線を逸らし――その瞬間、先生の奥の手は完了していた。


 綺麗に。


 目にも留まらぬ速さで、土下座した先生は頭を下げる。


 その速度とその所作、あまりにも卓越した土下座は無意識下の領域で行われ、非常識で現実味を帯びない高速土下座を確認した霧雨キリウは――硬直し、無防備にも思考を飛ばした。


『今よぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! ディス・イズ・チャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンス!!』

「委員長が言った通り」


 既に。


 俺は、ボードを蹴飛ばして落下を始めている。


「先生、あんたは俺たちの切札(エース)だった」

『ライゼリュートッ!!』


 落ちる、落ちる、落ちるッ!!


 引き金(トリガー)を引いた俺は水面を蹴りつけ、一気に頭から落下し、轟音を立てながらライゼリュートの腕が追い縋る。


 ぶわっと。


 水で出来た経路コースは白色に濁り、水面と見紛ったそれは人形の部品パーツで埋め尽くされる。あたかもパズルを組み合わせるかのように、それらは組み合わされていき、数百本の指と化して俺を襲う。


 その指の群れは弾け飛び、左右に交錯した師と姉は微笑む。


「師たるもの、見せ場は弟子に譲るものです」

「姉たるもの、右に同じ」


 同時に。


 師と姉は、俺の背中を叩き――更に加速した俺は、風切り音を掻き鳴らしながら落下する。


 ありとあらゆる方向から伸びてきた腕たちが、次々と召喚した信徒たちの盾で弾き飛ばされ、その間を縫った攻撃が頬を切り裂いた。


 俺のありとあらゆる部位へと、経路(コース)に混じった人形たちが襲いかかり、血だるまになりながら俺は右手を伸ばした。


「邪魔だァア!!」


 叫びながら、俺は、人形を払い除ける。


「その子は、テメェの人形じゃねぇんだよッ!! 人様の内側で、偉そうに引きもってねぇでッ!! 真正面から!! 俺を殺しに来いッ!!」


 伸ばして、伸ばして、伸ばして。


 追いついた俺は、右手で委員長の顔面を鷲掴みにし――驚愕で、目を見開いたQを覗き込み――左手で、ライゼリュートの爪先を受け止めた。


 落ちながら。


 血まみれになった俺は、彼女に微笑みかける。


「おいおい、人様を魔人で挟むなよ」

「三条燈色……他者の命のために、なぜ、ココまで出来得る……?」


 委員長の顔面は、笑みを浮かべながら歪んだ。


「この子の笑顔を知ってるからだよ」


 俺は、笑いながらその顔に魔力をめる。


「よく憶えておけよ、俺のこの顔を……俺は、百合を護る者だ……そして……」


 蒼白の輝きが、周囲を満たしていく。


「お前を倒す者だ」

「ならば、私こそが、貴方を殺す者だ」


 愉しそうに。


 委員長の顔を通して、Qは笑って――俺は、払暁叙事を開眼した。


「さぁ、行くぜ、呪詛返し返しだ。引きもりの魔人野郎に、洒落たプレゼントを返してやろうぜ。

 準備は出来てんだろうな」


 そっと。


 俺の手に、見慣れた手が重なる。


「アルスハリヤ?」

「やれやれ、Qと言いライゼリュートと言い」


 苦笑した魔人アルスハリヤは首を振る。


「君は、魔人にもモテるのか」


 魔力を流し込む。


 それは払暁叙事の可能性を基礎とし、流し込んだ俺の魔力をなぞりながら、アルスハリヤが知っているQの魔力を辿っていき、委員長を支えていた人形を破壊すると同時に――自殺呪詛カウンタースーサイドが発動する。


 その呪詛は。


 俺の魔力でかたどってアルスハリヤが作ったQの元へと繋がる経路ルートを進む反撃魔法カウンタースペルと化して、委員長に巣食っていたQのもとへと猛烈な勢いで進んでいった。


「三条燈色」


 そして、直撃する。


「また、逢いましょう」


 委員長の内部で、なにかが弾け飛ぶ。


 瞬間、周囲の人形たちは千千ちぢに吹き飛んで、宙空を飛んでいった破片や痕跡は風に流され掻き消える。


 俺は、委員長を抱いたまま着水し――水中で、目を覚ました彼女と見つめ合った。


 微笑んだまま。


 委員長は口の端から泡を漏らし、俺の口端から漏れた泡と混じり合った。


 いつの間にか。


 その混じり合う泡は、至近距離で浮かんでおり――彼女クロエは、俺の唇に自分の唇を重ねていた。


 お礼だと言わんばかりに。


 欠片も動じていない彼女は、微笑を浮かべたまま俺を見つめる。


 物言わず。


 俺はぷかぁと水面に浮かび上がり、空には綺麗な虹がかかった。

この話にて、第十四章は終了となります。

ココまで読んで頂きまして、本当にありがとうございました。


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[良い点] 本当にスタン与えられるんだ…これはRTAに引っ張りだこ
[一言] 土下座最強!
[良い点] ヒイロくんかっけぇええ! [一言] アルスハリヤ先生も流石だ…w
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