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対人形使い

「…………」


 アシュリィ先生は、魔法合宿に参加している生徒のほぼ全員が『人形』だという話を聞いて。


「…………」


 早くも裏切る算段を立て始めているのか、土下座したまま黙り込み動かなくなる。下手すれば、このまま永い時を過ごし、数百年後に土下座姿で出土するかもしれない。


「もしかして、魔法合宿の参加者リストに則って、自殺呪詛カウンタースーサイド用の人形を作ったりしてたのかな……?」

「だとすれば」


 委員長は、ゆっくりとささやく。


「運営サイドは、全員、敵側ということになりますね」

「先生」

「…………」


 呼びかけても、土下座地蔵と化した先生はぴくりとも動かない。


「このリスト、誰から入手したの?」

「…………」

「推察するに、護身が完成していて動く気はないようですね。丁度、アルマジロやダンゴムシが丸まるように、アシュリィ教諭の防御態勢は土下座なのかと」

「薄汚ぇアスト○ンだ……」

「ねぇ、置き物(インテリア)に構ってないで対応策を考えようよ」


 一介の教師を置き物(インテリア)扱いした緋墨は、飲み物や食べ物をバッグに詰め込みながら言った。


「これから、どうする?」

「手っ取り早いのは、運営フーリィに接触することじゃねぇの……真正面からアイツに聞いてみれば良いだろ?」

「彼女が人形だったらどうしますか?」

「殴る」

「人間だったら?」

「殴る」

「YES/NOのない暴力性やめなさいよ……ただ、殴りに行くんだったら、そこらのサンドバッグで我慢しなさい。

 やっぱり、下手にフーリィさんに接触するのは危ないんじゃないの?」

「ですが、人間と人形を判別する方法は簡潔でわかりきっています。雑談を交わしながら、紅茶の一杯でも飲ませてみれば真偽が明白になる」

「…………」


 腕を組んで。


 悩み込んでいた俺は、椅子に座ろうとして土下座アシュリィに座ってしまい、謝罪してからハンモックに腰掛けた。


「ねぇ、アステミルさんとリウさんのところに行ったら? あのふたりなら、スピード解決してくれるでしょ?」

「ダメだ。

 師匠は飲み食いしてたが、リウは俺の食事の世話ばかりしてたし、師匠の食べ残しも処理したと言ってたが食うところを直接視てない」

「アステミルさん程の実力者が、自殺呪詛カウンタースーサイドの存在に気が付かなかったりするでしょうか?」

「いや、あの女性ひと、どれだけ後手に回っても余裕で勝てるから……大はしゃぎで合宿に参加してたら、なにかを嗅ぎ取ってても『大したことないから放置しよ! 合宿中だし!』でスルーすると思うよ……420年間、無惨に退化し続けた師匠面の子供ガキだし……正直、どんなに優秀な魔法士でも、事前情報なしで見破るのは無理じゃないか……?」

「そうですか」

「『そうですか』ってなにぃ!? 委員長、俺の師匠のことバカにしてる!? さすがの委員長でも、それは許せねぇわ!! 来いよ!! 俺の師匠フォルダが火を吹くぜ!! ラピスとのツーショットしかねぇけどなぁ!?」

「うざ絡み、やめなさい」


 ぽかりと、緋墨に殴られて。


 正気に戻った俺は、息を荒げながら、師匠とラピスが腕を組んでピースしている写真を視て心を鎮める。


「とりあえず、師匠に電話するわ。

 フハハ、このバカタレがァ!! こちとら、最先端技術の使い手じゃい!! 名も顔も知らぬ襲撃者よ!! 我が師は、最近、ポイントカードの使い方すらも憶えたんだぞ!! 相手が悪かったなァ!!」

「電話が生み出されたのは19世紀ですよ」

「ポイントカードって、出せば良いだけじゃないの……? 使い方とかそういうの……ある……?」


 俺は、師匠に電話をかけて――


『――でしょ!』


 怖気おぞけと共に両目を見開き、大量の汗を掻いて息を荒げた。


『あいこでしょ!! あいこでしょッ!!』


 電話口から聞こえてきた掛け声、あまりの恐怖で全身がガクガクと震え始め、即座に通話を切ってから両手で顔を覆った。


「…………」

「えっ……ど、どうしたのよ……?」

「……じゃんけんしてた」


 顔面蒼白になった俺は、顔を掻きむしりながらささやいた。


「じゃんけんしてたぁ……!! ぐぎぃ……ぐぎぎぃ……じゃ、じゃんけんしてたぁ……!! う、うぅ……もう、二日()ってるのにぃ……あ、あいこでしょ……あいこでしょぉ……!!」

「ちょ、ちょっと、大丈夫!? 深呼吸して!! 落ち着きなさいよ、大丈夫だから!!」


 俺は、自分の右手と左手でじゃんけんを繰り返す。


 ひとりで無限あいこ編に突入していた俺は、ようやく我に返って自殺呪詛編に舞い戻ってくる。


「やられた、完敗だ……師匠は、じゃんけんに本気だから電話に出れない……そこまで計算して、俺を利用するとはやるじゃねぇか……」

「全く事情を存じ上げませんが、九分九厘、三条さんの自業自得ですね」


 ぐったりと、頭を垂れた俺の背を撫でながら。


 緋墨は、人差し指を顎に当てて小首を傾げる。


「ねぇ、そもそも、襲撃者の狙いは三条燈色なんでしょ?」

「……この手の呪詛は」


 ページをめくりながら、黒砂はゆっくりとささやく。


「……対象が固定される」

「だとしたら、襲撃者の狙いは俺で、対象は俺に絞られてるんだろうな……元ネタの丑の刻参りも、複数人を呪うようには作られてない」

「だったら、もう、鳳嬢から逃げ出しちゃえば良いんじゃないの? わざわざ、相手が差し出してる手を握ってあげる必要ある?」

「私が襲撃者であれば」


 土下座椅子(アシュリィ)に座りかけた委員長は、何事もなかったかのようにベッドへと腰掛ける。


「そうさせないための策を講じておきます」

「……人質か」


 俺は、ため息をく。


「委員長、この参加者リストにってる人間、誰でも良いから連絡先を持ってる子に電話かけてみてくれない?」


 素早く、委員長はコールして。


 電話をかける相手を何度か変え、出ないことを確認してから首を振る。


「確定だな。

 人形化している生徒は、全員、人質にされてる」

「……学園内に居る」


 ベッドシーツに黒髪を広げて、仰向けの体勢で本を読んでいる黒砂はつぶやく。


「……もとの人間がいるなら結びつきが必要」

「この学園そのものが神社を模してるから、同じようにして藁人形を模してる人間もこの場に居ないといけないってことね」

「で、どうする?」


 俺は、両手を合わせて答える。


「お参りに行こうぜ」


 その答えを予期していたかのように、緋墨は苦笑を返した。

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― 新着の感想 ―
[一言]  劉はほぼ本物と断定しても良さそうなものだけどなぁ。本物確定の師匠と動体視力勝負で二日拮抗してるみたいだし
[良い点] > いや、あの女性ひと、どれだけ後手に回っても余裕で勝てるから……大はしゃぎで合宿に参加してたら、なにかを嗅ぎ取ってても『大したことないから放置しよ! 合宿中だし!』でスルーすると思うよ……
[良い点] ヒイロ君はさぁ今の状況の本当のヤバさに気づいてないだろ! 一度もっと冷静に考えるべきだぞ! 学園お嬢様数百人がみんな人質に取られた状況の深刻さ! …本当に助けに行っていいんすかねそれぇ? …
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