表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

278/363

永久じゃんけん機関

 自分の右手で、自分の左手を握って――俺は叫んだ。


「じゃんけんしてください!!」


 俺は、右手と左手で握手した。


「じゃんけんしてください!! 勝ったほうが俺の姉であり師であり、勝者であり覇者であり、じゃんけんチャンピオンです!!」


 俺から隣の好敵手ライバルへと。


 注目が移ったのを確認して、ニヤリと笑った。


 コレで(精神的)死亡フラグは退けた……PERFECTだ、俺よ……コレを契機に俺への保護欲を互いに向けあってくれ……頼む……『肝』と『口』くらいなら喜んであげるから……等価交換だ……!!


「「じゃんけん、ぽんっ!!」」


 姉と師は向き合って、じゃんけんを始める。


「…………」

「「あいこでしょっ!!」」

「…………」

「「あいこでしょっ!!」」

「…………」

「「あいこでしょっ!!」」

「…………」

「「あいこでしょっ!!」」


 幾重にも折り重なったフェイント。


 異常なまでの動体視力をもって、相手の繰り出す手を視認してから勝ち手を出そうとするので、とんでもない速さで利き手がブレていた。


「「あいこでしょっ!!」」

「…………」

「「あいこでしょっ!!」」

「…………」

「「あいこでしょっ!!」」

「…………」


 なんで、コイツら、敵に包丁突きつけられながら、助けてもらう順番をけてじゃんけんしてんだろう……?


「「あいこでしょっ!!」」

「…………」

「「あいこでしょっ!!」」

「…………」

「「あいこでしょっ!!」」

「…………」


 良い歳して本気でじゃんけんしている姿を視て、脅すように包丁の先端をちらつかせていた二体の人形は、救いを求めるかのようにこちらをうかがう。


「「あいこでしょっ!!」」

「「「…………」」」

「「あいこでしょっ!!」」

「「「…………」」」

「「あいこでしょっ!!」」

「「「…………」」」


 諦めた二体の人形は、俺の隣で白熱のじゃんけん勝負を見学し始めた。


「「あいこでしょっ!!」」

「「「…………」」」

「「あいこでしょっ!!」」

「「「…………」」」

「「あいこでしょっ!!」」

「「「…………」」」


 体育座りをして、三人で眺めていると空が白み始める。


「「あいこでしょっ!!」」

「「「…………」」」

「「あいこでしょっ!!」」

「「「…………」」」

「「あいこでしょっ!!」」

「「「…………」」」


 日が昇って、俺たちは無言で解散した。


 一列になって階段を下りていき、最後尾に立った俺はその背中を蹴り飛ばし、急に裏切られた人形たちは命乞いをしてくる。


 気にせず、頭を蹴り上げてから拘束した。


 藻掻いていた二体の人形は、朝日が完全に上ったと同時に消滅し、俺が現在いままでに捕縛していた人形たちも消え去っていた。どうやら、証拠隠滅のために自動的に消滅する仕掛けになっているらしい。


 先生アシュリィのテントに戻ると、彼女はぐーすかぴーと爆睡していた。


 傍にあったタオルケットを先生にかけ、ハンモックの上に戻った俺もまた睡眠に移行し……明くる朝、魔法合宿始まって以来の休日を迎えた。


 縛っていた先生を解放すると、目を覚ました彼女は手首を擦りながら背伸びする。ハンカチで目元を覆った俺を視て、ニヤニヤとしながら口に手を当てた。


「えぇ? なに? なぜ、アナタ、右目を覆ってるの? ぷぷっ、思春期ぃ? オーマイガッ、ジャパニーズ、マガン・ガ・ウズクゥ?」

「…………」

「じょ、冗談じゃないのぉ~? 怒らないでぇ~? ハッピーハッピー、イぇ~ス、プリティスマイル!!」


 口を閉ざすだけで、自動的に下手に出るの天性の三下。


 血塗れのハンカチを取り去った俺は、テント内に用意されていたタオルを巻き直し、なにも言わずとも勝手に先生が用意したパンを口に運ぶ。


「……あのぉ?」


 ニコニコとしながら、先生は甘えるように身をくねらせる。


「汗、かいちゃったしぃ……わたくし、シャワー、浴びたいなぁって……コンセンサス、欲しいなぁ……わたくし、そろそろ、この狂ったテロリズムから解放されたいなぁ……?」


 ちょいちょいと。


 俺は、先生を指で招いてから、テントの入り口をそっと開ける。


 こちらを見張っていた外部講師の魔法士は、慌てて目を逸らし、俺は真顔で彼女のことを指差した。


「俺の仲間だ」


 次々と。


 俺は、顔も名前も知らない人たちを指していく。


 俺の人差し指が示した赤の他人を確認し、慎重に慎重を重ねすぎて、土下座キャラと化したアシュリィはびくりと震えた。


「………………でしょ! しょ! しょ!」

「それと、早朝から屋上より響き渡りしこの謎の声は、俺の仲間からのモールス信号による定期通信だ。『でしょ』が『ツー』で、『しょ』が『ト』になる。先生程の逸材なら解読出来るだろうが、読み取ると『大好き』になる。

 いがみ合っているように聞こえるが、実のところは互いに告白し合ってるんだな、コレが」

「なんで、定期的にアナタに向かって『大好き』なんて送ってるのかしら……? 定期通信なら、『こちら異常なし』とかじゃない……?」

「…………(確かにと思っている)」


 俺は、闇が深そうな笑みを浮かべて誤魔化す。


 やけっぱちだったが、意外と通用したらしく、先生は震えながら問いかけてくる。


「あ、アナタ、何者なの……?」


 顔面蒼白となった彼女の肩に、ぽんっと俺は手を置いた。


「好奇心は猫を殺す……蝙蝠のまま生きていたいなら……疑問符はつけずに口を開きな……俺からのアドバイスだ……」


 ぼそぼそと、俺は彼女の耳へとささやきかける。


「俺を探ったり裏切ったりすれば……わかるな……?」


 こくこくと。


 勢いよく、首を縦に振った先生に微笑みかける。


「なら、まずは、先生の情報網を使って、魔法合宿に参加している外部講師と学園生をひとり残らずリストアップしてくれ」

「はぁ? なんで、超多忙なわたくしが、休日にそんなことしないとい――」

「俺の右目がァ!! 疼くぅ!!」

「WAO!! わたくし、そう言えば、休日勤務が大好きだったわ!! 最高、ヴェリ、クゥール!! アグリーが溢れちゃう!!」


 舌打ちを連射しながら。


 アシュリィはテントから出陣し、少し間隔を空けてから外に出た俺は、ばったりと緋墨たちと出くわした。


「…………」

「「「…………」」」

「…………」

「「「…………」」」

「…………」

「「「…………」」」


 早朝、美人教師のテントから、着崩した制服姿で出てきた俺を目視し、緋墨、黒砂、委員長は沈黙を護ったまま立ち尽くす。


「…………」

「「「…………」」」

「…………」

「「「…………」」」

「…………」

「「「…………」」」


 俺は、歓喜の笑みを浮かべて舌なめずりをする。


「抱き心地が良かったぜぇ!! あの女ァ!!」

「「「…………」」」

「…………」

「「「…………」」」

「…………」

「「「…………」」」

「……なんか、もちもちしてた」

「「「…………」」」

「…………」

「「「…………」」」

「…………」

「「「…………」」」

「…………」


 いつの間にか。


 三人に取り囲まれた俺は、怖くてちょっとだけ泣いてしまい、そのまま自分のテントへと連行されていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] じゃーんけーん ぽん! あーいこーでしょ!でしょ!でしょ! ズコー 懐かしいですねジャンケンマン(おっさんネタ [一言] やったね!
[良い点] 女の子達の圧力に涙ちびっちゃうヒーローくん これこそ、ハーレムヒーローですねw [一言] 呪い人形実行犯や、癒えない目よりも、じゃんけん続いてるのかとか、連行されたヒーローくんの貞操とか…
[一言] ヒイロくん、実は嘘を吐きたくなかったんじゃない? 騙しはしたくても。 前々回より、 >俺は彼女の両手両足を縛って隅の方に転がした。 ってあるんだけど、これつまり抱っこして運んで転がしたん…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ