どうすれば、女装したまま混浴出来るのか考える男たち
「では、大浴場に集合をお願いいたしますわ」
「ドゥリャァハァン!!」
魔人の言う通り、待っていたら風邪を引く恐れがあるということで、全員同時に入浴することになってしまった。
和室に戻った俺は、頭を抱えて蹲る。
「くそっ、やられた!!」
「いや、自分で濡れて自分で招いた結末だろ」
ゆっくりと、俺は立ち上がり、うろうろと室内を歩き回る。
まずい……まずいまずいまずい……さすがに、裸になれば一瞬でバレる……別に変態女装クソ男子扱いされるのは構わないが、お嬢に正体がバレれば、あの子の心に傷を付けることになる……どうにか、この窮地を凌がなければ……!!
「困ったことになったね」
襖が開いて、月檻が入ってくる。
「わたしも、さすがに、ヒイロくんに全部見せちゃうのは恥ずかしいかな」
「…………」
「あれ?」
黙り込んだ俺に向かって、四つん這いの月檻は、微笑を浮かべたまま近づいてくる。
「想像しちゃった?」
「しとらんわ、バカが、しとらんわ。お前、アレだわ、全然、しとらんわ。脳の容量をそんな妄想に割く余裕なんかないわ、このバカが。いいから、この窮地を脱するためのエクセレントなアイディアを出してみんかい」
「んー」
俺の肩に頭を預けてくる月檻は、俺にぐいぐいと押し出されながらつぶやく。
「まずは、一緒に入浴しなくて済む言い訳を考えてみる? とか?」
「例えば?」
「『オフィーリアの裸を視たら我慢出来なくなる』とか言ってみる? とか?」
「よし、それだ。行ってくる」
俺は、襖を開いてお嬢の元に向かい、戻ってきて襖を閉じる。
「『我慢しなくていい』ってさ」
「テンポ良く状況が悪化したね……単純に体調不良って言ってみる? とか?」
「よし、それだ。行ってくる」
俺は、襖を開いてお嬢の元に向かい、戻ってきて襖を閉じる。
「医師の診察を受けて、健康体であることが証明された。
医師から体調不良に対して、湯治を勧められました」
「テンポ良く逃げ場がなくなったね……先に大浴場のお湯を飲み干す? とか?」
「よし、それだ。行ってくる」
俺は、襖を開いて大浴場に向かい、戻ってきて襖を閉じる。
「3リットルくらい飲んでから、無限に注ぎ出しされてることに気付いた。
無理だわ」
「だろうね」
顔中、湯まみれの俺は、泣きながら膝をついた。
「万策尽きたぁ……!!」
絶望に苛まれたその時、勢いよく襖が開いて――
「話は聞かせてもらったわ」
颯爽とエイデルガルトが姿を現した。
「人類は滅亡する」
「当然のように話聞いてないところに痺れるぜ」
改めて、現在の危機的状況を説明すると、彼女は真剣な表情で頷いた。
「ち○ぽを取るしかないわね」
「エイデルガルトさん……なんて……?」
「おちん○んを取るしかないわね」
「別に言い方を変えてもらいたかったわけじゃねーんだよ。お前の正気を確認してやってんだよ」
エイデルガルトは、ふわりと髪を搔き上げる。
「あら、燈色さん、貴方の覚悟はその程度なのかしら? 己の一部を失ってでも、前に進む覚悟が、貴方には備わっているんじゃないの?」
「止血を頼む」
「こら、待て」
月檻に頭を叩かれ、俺は、九鬼政宗を取り上げられる。
「上手く死なずに止血出来たとしても、傷口を視られたら直ぐにバレるでしょ? それに、胸の膨らみでも疑われるだろうし」
「「確かに……」」
考え込んだ俺は、脳内でアルスハリヤに問いかける。
「アルスハリヤ」
真剣な顔で、俺は、彼女にささやく。
「仮に魔人の力でち○ぽの着脱が可能だったとしても、男性と女性の体つきの違いを修正するのにどれくらいの変更が必要になる?」
「ハッキリ言おう。
そこまで、やれば、君はもう元の肉体に戻れなくなる。それどころか、下手すれば、人間らしい体つきすらも取り戻せなくなるかもしれない」
「ち○ぽは取れるのか?」
「ち○ぽは取れる」
俺は、意識を現実に戻し、彼女らにささやいた。
「俺たちは、ち○ぽしか取れない」
「なんで、わたしたちは、楽しい夏休みにち○ぽの着脱について真剣に話し合ってるの?」
壁に背を預けていたエイデルガルトは、静かに前に出てくる。
「燈色さん、なら、私が影武者をやるのはどうかしら? エリート忍者の私の変装術を駆使すれば、多少の肉体改造と声帯模写くらいなら出来るわ」
「うぉお!! エイデルガルト、ゥエクセレントォ!! 間違いねぇよ、ソレだわ!! ブラーヴァ!! ブラーヴァ、エイデルガルト!! 間違いねぇよ、忍者だわ忍者!! 俺は、現世に生きる忍者をしかとこの眼で見届けたよ!!」
「少し、ウィッグを借りるわね」
そう言って、俺からウィッグを受け取ったエイデルガルトは廊下に消える。
数分が経過してから、ようやく、襖が開いた。
「…………」
ウィッグを反対にかぶったエイデルガルトは、いつも通りの姿のままで、ふわりと長過ぎる前髪を掻き上げた。
「オフィーリア、愛してるよ(野太い声)」
「お前、もう、里に帰れ」
不服そうな面をしたエイデルガルトが、俺にウィッグを投げ返し、里に帰るつもりはないのか隣に腰を下ろした。
「こうなったら、タオルを巻いて風呂に入るしかないな」
「だね。
わたしとエイデルガルトでサポートするよ……というか、ヒイロくん、この子とどういう関係なの……本当に従姉妹じゃないでしょ……?」
「説明すると長くなるんだけど、一応、三条家付きのNINJAだ。現在は、ちょろまかされて、オフィーリアの監視任務に付いてる」
「燈色さん燈色さん」
つんつんと肩を突かれ、振り向くと、エイデルガルトはオフィーリア家の別荘の見取り図を畳に広げていた。
「オフィーリア家の別荘の見取り図を入手したわ」
「うわぁ、有能!!」
「でも、お習字の練習をしてた時に墨を零して、四分の一くらいしか読めなくなっちゃってるわ」
「うわぁ、無能!!」
「なんで、監視任務の最中に習字の練習してるの……?」
俺たちは、三人で別荘の見取り図を確認する。
「話は決まったわね」
「決まってねーよ。まだ、視始めて3秒くらいしか経過してないだろ」
「ふーん……大浴場と露天風呂は繋がってるんだ」
奇跡的に黒く塗り潰されていなかった大浴場周辺を確認し、月檻はとんとんとその箇所を指で叩いた。
「折を見て、露天風呂に行った後、そこから庭に下りてぐるっと回ってから別荘内に戻ってくるのがベストかな……事前に、あの渓流の岩場の辺りにでも着替えを用意しておけば、問題ないでしょ」
俺は、賛同を示すために頷く。
「でも、最初に服を脱ぐタイミングはどうする? 脱衣所で一緒に服を脱いだら、その時点で正体がバレるだろ?」
「この部屋で服を脱いで、廊下を走って行くのはどうかしら? もちろん、私とツキオリで事前に人がいないのを確認して」
「露出好きな忍者らしいアイディアだが、リスク高すぎない? 脱衣所に一番乗りして、他の連中が来る前に、タオル巻いたまま湯船に浸かっておくのがベストだと思うんだけど?」
「いや、どうかな……ベスト云々を言い出したら、疑われないように、誰かと一緒に脱衣所で服を脱ぐのが良いと思う」
俺の腕をぺしぺしと叩きながら、月檻はぼそりとささやく。
「いやいやいや、お前、そんなことしたら一発でバレるだろ」
「ヒイロくんを挟んで隠すような形で、わたしとエイデルガルトが脱衣すれば問題ないんじゃない?
ちょっと、ヒイロくんのお尻は見えちゃうかもしれないけど……たぶん、見分けなんてつかないと思うよ?」
「待って待って待って!! もういやになってきた!! すごく涙出てきた!! 既にもう死にてぇよ!! そもそも、月檻もエイデルガルトも普通に脱ぐんでしょ!? 俺の真後ろで!?」
「燈色さん、そんなに恥ずかしがることはないわ。わたしとツキオリが覗き込めば、全部視えてしまうでしょうけど、うっかり視界に入らないように気は配るから」
「わかった!! 俺は、全裸廊下ダッシュを選ぶ!! クラウチングスタートして、全速力で、生まれ持ったこの肌で風を受ける!! 任せろ!!」
「却下。わざと視たりはしないから我慢して。
エイデルガルト、岩場にヒイロくんの着替えを隠しに行って。目印を忘れないでね。わたしは、大浴場の下見に行って脱出ルートを想定してみる。ヒイロくんは、黙って覚悟を決めて」
「……はい」
微笑んだ月檻は、慰めるように俺の背を撫でて、エイデルガルトと一緒に和室を出て行った。
眼の前の座布団の上に、ぽんっと、ミニ・アルスハリヤが出てくる。
「そう暗い顔するなよ、いざという時は、即座に僕が君のち○ぽを消してやるから」
「…………」
「僕は、この技を」
彼女は、そっと、ささやく。
「リアルタイム・ペ○ス・リムーブと名付けた」
「人のち○ぽで遊ぶな、殺すぞ」
こうして、大掛かりな入浴作戦が決行されることになった。