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矢と矢、弾と弾

 描いた経路線レール


 指先から放たれた不可視の矢(ニル・アロウ)は、宙空を滑り落ち――蒼白い矢とかち合い、互いの矢は反対方向へと弾き出される。


 瞬激の撃ち合い。


 俺とラピスは、大量の矢を生成クラフトし、目にも留まらぬ速さで矢を撃ち出した。


 そのことごとくが空中で衝突し、蒼白い閃光を放ちながら四方八方、弾き出された矢は戦場に突き刺さる。


 風と水。


 占拠地ポジションの眼前でぶつかり合った二属性の矢は、混じり合って風水と化し、北北西に虹をかけて吉兆を示した。速射された矢と矢の激突は激しさを増し、徐々に戦場は混乱と狂騒に満ちていく。


 魔風が過ぎる。


 背後から己を突風で押したラピスは、伸び続ける氷河に乗ったまま、白雪姫弓エーレンベルクを構える。


 左方から右方から、上方から下方から。


 ありとあらゆる方向から矢を飛ばしながら、時たま、氷河から氷河へと飛び移ったラピスは、空中で逆さまになった状態でも精確に俺を狙ってくる。


「おい、ヒーロくん。ジリ貧だぞ」

「だまらっしゃぁ!! 知っとるわい!!」


 さすがは、四ヒロインのうちのひとり、百合ーズでの活躍を視ている時にも思ったが、遠距離戦において付け入る隙が無さすぎて笑えてくる。


 それに加えて、この変幻自在の氷河まである。


 恐らく、コレは、フーリィ・フロマ・フリギエンスの仕業だ。あの魔性の女は、遥か彼方の本拠地ベースから、第二戦線から第一戦線の間の正規路に対して氷河の操作コントロールを行っている。


 攻めてきている蒼の寮(カエルレウム)の連中の中に、フーリィと連絡を取り合い、氷河の操作コントロールの調整を行っている奴がいる筈だが……3km離れた地点で、精確な操作コントロールを成し遂げるとは信じ難い離れ業だ。


「アルスハリヤ、プランBだ!!」

「よしきた」

「プランBって、なんだテメェ!? この場面で、人のことおちょくってんのか!? ぶち殺すぞ!?」

「落ち着けよ、頭、百合の花畑か?」

「オラァ!! ラピスぅ!!」


 矢と弾が飛び交う戦場で、ラピスは俺の声を聞き取りながら跳躍する。


 そのタイミングで、俺は叫んだ。


「良い足ですね!!」

「えっ!?」


 顔を真っ赤にしたラピスは、ロングスカートを両手で押さえつけ、この長さではスカートがめくれ上がることはそうそうないことに気づき――


「今だ、撃てぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」


 無防備な彼女に、一斉掃射を浴びせる。


 氷河が勢いよく走って、曲がりくねった氷上を飛び跳ねながら、ラピスは弾丸の嵐をすり抜ける。


「ひ、ひきょーもの!!」


 天高く伸び上がった氷河、魔力で滑り上がったラピスは、狙いを付けられない高さまで上がって矢弾を避ける。


「ぐへへ、お嬢ちゃん、ココは戦場だぜ? 甘っちょろいことを言ってる暇があったら、ママに戦争のやり方とカワイイ女の子の連絡先でも教えてもらってくるんだなぁ?」


 悔しそうに歯噛みしたラピスは、再度、氷河から滑り落ちて来ようとして――俺は、慌てて、画面ウィンドウを開いた蒼の寮(カエルレウム)生を見つける。


 引き金(トリガー)


 振り向きざまに、俺は、指先を伸ばして構える。


観測みっけッ!!」


 不可視の矢(ニル・アロウ)生成クラフトした瞬間に撃ち放つ。


 蒼の寮(カエルレウム)生たちを避けるように設置した魔力の壁に反射しながら、戦場を駆け抜けた一矢はその生徒の胸を貫く。


「きゃあっ!!」


 ブー。


 HPが0になり戦装束バトルドレスによって拘束された寮生は、顔面を蒼白にさせて――途端に、氷河の操作コントロールは甘くなり、蒼の寮(カエルレウム)生たちの統率が乱れ始める。


「嘘!? もう、バレたの!?」

「はぁ!? 嘘でしょ!? まだ、攻め入ってから5分もってないわよ!?」

「皆、落ち着いて!!

 良いまとになってるから、接近戦に切り替え――」

「オーホッホッホッ!!」


 特徴的な笑い声。


 思わず、俺は、満面の笑みを浮かべて顔を上げる。


 勝手に、着物風のアレンジをほどこした戦装束バトルドレス


 綺麗に正座したオフィーリア・フォン・マージラインは、ド派手な扇子を口に当てながら高速で氷河を滑ってくる。


蒼の寮(カエルレウム)窮地ピンチに、華麗に見参、ですわぁ!! オフィーリア・フォン・マージラインッ!! マージライン印の優美な着物姿を引っさげ、メディアの注目をかき集め、誰よりも速く敵陣に突っ込むその艶姿あですがたは白鳥のごとし!!」

「うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! お嬢ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! お嬢、来たぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 大声を上げながら歓迎した俺の前で、我らがお嬢は膝が擦り切れそうなくらいの高速度で参戦する。


「オフィーリア・フォン・マージライン!! 三寮戦に参戦決定ですわぁ!! 参戦決定の動画むぅーびぃは、1億再生間違いなしのシンデレラガール!! それが、マージライン家の次期当主たるわたくしに相応ふさわしき栄誉!! オーホッホッホッ!! 恐れおののきなさい、黄の寮(フラーウム)の皆様!!

 このオフィーリア・フォン・マージラインが来たからには、もう好き勝手させな――あっ」


 連絡要員の生徒がリタイアしていたせいか。


 お嬢を乗せていた氷河は、急カーブを描いて、唐突に終端を示した。


 すぽーんっと。


 音を立てて、お嬢は空中に投げ出され、正座したまま物凄い勢いで吹っ飛んでいく。


「あああああああああああぁぁ…………ぁあ……………………ぁ……………………!!」

「お嬢ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!(感涙)」


 セルフ姥捨て山を成し遂げたお嬢は、『あ』という母音メッセージを残して自然の中へと帰っていった。


 旗頭はたがしらたるお嬢を失った影響なのか。


 徐々に、蒼の寮(カエルレウム)の戦線は崩れ始める。


 接近戦に切り替えようと占拠地ポジションに突入してきた蒼の寮生たちは、仕掛けられたトラップに引っかかり、動揺しているところを阻塞バリケード越しに撃ち抜かれた。


「ダメ!! 一階から突入しないで!! 混乱せずに、手筈通り、氷河グレイシア操作コントロールが戻るのを待っ――」

「今だ!! 畳み掛けろッ!!」


 第二戦線Botを捨てて、追撃を選ばなかった第三部隊は、魔術師による転瞬ワープで第一戦線Midに飛び、その足でTopにまで移動していた。


 山中に潜んでいた第三部隊の八割は、占拠地ポジションにいなければ、魔力集積量が1.5倍になる兵士で構成されている。敵陣地に攻め入ることと野戦を得意とした第三部隊は、接近戦に切り替えようとしていた蒼の寮(カエルレウム)を真横からぶっ叩いた。


「はぁ!? ちょっと、コイツら、どこから!? きゃぁ!!」

「に、逃げ――いやぁ!!」

「あ、貴女、逃げるなんて卑怯ですよ!! 戦いなさい!!」


 真正面から矢と弾を射ち掛けられ、思いも寄らない方向から奇襲を受け、氷河グレイシアを失った蒼の寮(カエルレウム)は総崩れになる。


 いつの間にか。


 数的優位は覆り、俺たちは、一気に敵勢を蹴散らしていく。


「て、撤退!!」


 いち早く、ラピスは、判断を下した。


「撤退して!! 第二戦線まで下がるよ!! 早くッ!!」

「ちっ」


 もう少し、粘ってくれれば、壊滅的な被害をプレゼント出来たのに。


 さすがは、ラピスと言うべきか、部隊を固まらせた彼女はじわじわと下がりながら氷河グレイシアの復活を待ち、氷河グレイシア操作コントロールが戻った瞬間、脱兎のごとく逃げ始めた。


「ぐ、軍師!? 追うよ!?」

「ダメだ、やめろ。一回、落ち着いて深呼吸しろ。第二戦線Topには、大量の蒼の寮(カエルレウム)生が詰めてきてる。興奮したままイノシシみたいに突っ込めば、ぼたん鍋にされて美味しく頂かれるだけだぞ。

 まぁ、とりあえず」


 俺は、ニヤリと笑う。


「勝ったな」


 爆発的な歓声が響き渡り、黄の寮(フラーウム)生たちは抱き合い、突如大量発生した百合の嵐に俺は興奮して雄叫びを上げる。


「すごいすごい! 蒼の寮(カエルレウム)に勝っちゃったよ!! 黄の寮(フラーウム)なのに、あのエリート集団に!!」

「大したことないじゃん、蒼の寮(カエルレウム)ッ!!」

蒼の寮(カエルレウム)の罠を見抜いた寮長、すごくない!? それに!!」


 彼女らは、きらきらとした眼で俺を見つめる。


「ヒーロくん。

 ワンポイントアドバイスなんだが、こういう時には――」

「黙れ、死ね(笑顔)」


 好意的な視線を浴びながら、俺は、とっとと魔術師を捕まえ本拠地ベースへととんぼ帰りして――


「ヒイロッ!!」


 戻るなり、ミュールに抱き着かれる。


「さすが、わたしのヒイロだ! 勝ったな!! 途中で『お嬢』って泣き叫んでたとこ、中継で全国にお届けされてたぞ!!」

「死にてぇ……」

「ヒイロ」


 クリスは、俺を見つめて微笑む。


「お疲れ様」

「……おう」


 かつての敵とのむず痒いやり取りをて。


「寮長、ヒイロさん」


 困惑気味のオペレーターに、俺たちは呼び出される。


「少し、気になることが」


 広げられた画面ウィンドウ、俺とミュールは肩を寄せ合いながら覗き込む。


 その瞬間、俺たちは、ハッキリと理解する。


「ヒイロ」


 寮長ミュールはささやき、俺は頷いた。


「死神が来る」

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― 新着の感想 ―
[良い点] お嬢 [気になる点] 百合ってもうこれ存在してるの?(主人公が関わった人間のみ) [一言] テーマと、望んで無いハーレム大好き
[気になる点] 死神、似非か師匠かはたまた2人同時発動か…… [一言] 出オチありがとう、皆んなのお嬢♪
[一言] お嬢...右から左に流れるように退場して行ったな まるで工場の生産ラインのようだ たまにはお嬢とヒイロ氏の絡みがみたい...
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