女子校に男子が通う世界です
百合ゲーに出てくる学校は、大体、女子校である。
当たり前と言えば当たり前だ。
女の子同士の恋愛を描くのだから、男の存在なんて必要ない。むしろ、邪魔である。女の子と女の子が、美しい恋愛関係を描く物語に、男の存在があっても困ると言うか、単純に不必要と言うだけの話だ。
鳳嬢魔法学園も、また、その例に則っており……見事なまでの女子校で、お嬢様学校である。
で、これから、俺はその鳳嬢魔法学園に通う。
えっ!? 男の通える女子校があるんですかっ!?
その質問に答えよう――あるんです!!
エスコ世界には、男の通える女子校があるんですっ!!
と言うか、逆に、男の通える女子校しかない。
この世界の学校は、ほぼほぼ女子校と男子校で、共学の学校なんて珍しいモノとして扱われる。男と女が連れ立って歩いているだけで、不自然だと思われるような世界なので、男女の区別は完璧に行われている。
女子校の数は圧倒的に多く、男子校の数は圧倒的に少ない。
なぜかと言うと、ココは百合ゲー世界であり、女の子は女の子と恋愛しなければならないので……自然と、その舞台となる女子校の数が多くなる。
たぶん、コレが、ボーイズ・ラブの世界だったら、その数は逆転していた筈だ。
では、女子校ばかりのこの世界、男でパンクした男子校に通えない男子はどうするかと言うと、当然、女子校に通うしかない。
女子校に、男子が通う。
意味がわからないが、この世界では、平然とそれが認められており、女子校通いの男子には地獄が義務付けられている。
なぜかと言えば、彼らは、存在してはいけないからだ。
本来、女性しか通えない学校に男性がいる……当然のように、彼らは敵視され、邪魔者扱いされる。
ただでさえ、男性の地位は低いので、無視されれば御の字、最悪の場合は奴隷扱いされて学生生活を送ることになる。
そのため、高スコアの男子は、勝ち組として笑顔で男子校に進み、低スコアの男子はこの世の終わりみたいな顔で女子校に赴く。
この世界、どうやって、人類は繁殖してるんだよ!?
とか思われるかもしれないが、安心して欲しい。
エスコ世界では、女性同士で子供が作れる(断言)。
いや、どうやってだよと言う疑問には、開発チームが設定資料集上で答えている。
魔法。
大文字のポップ体で、異論は認めないとばかりに記載されており、開発陣は無敵かな? と思った。
女性同士が魔法で、子供を作れる素晴らしい世界。
そんな世界の魔法学園で、スコア0の上、百合に挟まる男の俺がどうなるかと言えば……もう、おわかりですね?
校門前の桜並木で、突っ立っているだけでも、不審者を視るような目つきで観察される。
在校生らしき二人組が、こちらを視ながらひそひそ話をしており、すれ違いざまに『男装してるのか……?』と疑惑の眼差しを向けられる。
こちらを視る彼女らは、揃って、同じ制服を着ていた……本学園専用の特注品である。
鳳嬢魔法学園の制服は、黒地に赤のリボンを合わせた瀟洒なものである。白色のブラウスと合わせると、質の良い黒の布地が映えるし、なによりもロングスカートであることが、お嬢様学校っぽくて高ポイントだった。
端的に言うと、KAWAII!
対する男の俺の制服は……男の制服なんて、どうでも良いわ!! と言う感じの出来である。まぁ、普通のズボンとブレザーだ。ソレ以上でもソレ以下でもない。
鳳嬢魔法学園の制服が、普通の学校のものと違うところは、魔導触媒器の使用を前提としていることだ。
この制服は『鎧布』と呼ばれる特殊な布で出来ており、引き金に感応し、体内から体外への魔力放出を手助けする。
その上で、対魔障壁も張られているので(自動的に体外の魔術演算子を取り入れ、障壁を生み出す)、魔法を受けても破れたりはしない。
なので、主人公やヒロインが、この制服で戦ってもえっちなシーンは発生しない。
当然である、百合ゲーにエロシーンを求めるな(怒気)。
俺は、脇を通り過ぎる新入生たちに視られながら時間を確認する。
8時45分。
9時には、ショートホームルームが行われる。もう行っても良いだろう。
主人公の顔を拝むためだけに、ラピスやレイと別行動をとっていた俺は、ネクタイを緩めてから玄関口にまで向かう。
張り出されたクラス表。
俺は、ソレを見もせずに、指定された教室へと向かう。
なにせ、ゲーム内で、何千回も目にするクラス名だしな……基本的に、教室で一日の計画を立てるし……主人公、ヒロイン、我らがヒイロくんは、当然、同じクラスの筈だ。
鳳嬢魔法学園の校内は、アホみたいに広い。
なにせ、ゲームの都合上、ゲーム進行に必要な設備は全て揃っている。
三つの寮、魔法/導体の研究棟、訓練場、錬金工房、魔導庫、購買部、冒険者協会、社交用サロン、植物園に図書館……挙げれば切りがない。
購買でベーカリーがパンを売ってる横で、魔導触媒器を売るキャラクターがいると言えば、その規模がわかってもらえるだろうか(スーパーマーケットで、銃が買えるアメリカかな?)。
と言うわけで、大体の新入生は、教室に行くまでに迷う。
そこら中で、絶望の声を上げる彼女らを視て、俺は、一周目に感じた絶望感を思い出してひとりニヤニヤしていた。
俺は、もう、周回プレイで完全に記憶しているので、迷うことなく『Aクラス』の扉に手をかけ――扉が吹き飛んだ。
男性の制服を着たキャラクターが、廊下に飛び出して逃げていく。
俺は、その背中を見送ってから、扉を吹き飛ばした元凶を見つめた。
「あら、また男かしら?」
派手な金色の巻き髪をもつ少女が、身に着けた首飾りを揺らした。
「このクラスに、男がふたりもいるなんて聞いておりませんわ」
彼女の名前は、『オフィーリア・フォン・マージライン』。
エスコ世界のサブキャラのひとりであり、通称――
「オーホッホッホ! そこになおりなさい!! 名門、マージライン家のわたくしが、貴方を征伐して差し上げるわ!!」
『噛ませお嬢』である。