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古代マヤ文明の幻 下

作者: 小城

 ユカタン半島。このメキシコ湾とカリブ海を分ける半島には、石造りの住居とピラミッド型の神殿を持つ都市がいくつも存在していた。そこには王を中心とした神権政治を司る司祭たちと、トウモロコシを育てる人々がともに暮らしていた。

 ユカタン半島北部のマヤパンと呼ばれるこの都市では、今がトウモロコシの収穫の最中であった。人々は、畑から収穫したトウモロコシを籠に入れては背負い、貯蔵庫や、あるいは、市場へと運んでいく。それらの様子を一際、高台にある石造りの住居から見ている一人の男がいた。マヤパンの王である。王は金の冠を被り、手にはヒスイの杖を持ちながら、都市の中央を眺めている。そこにはトウモロコシを運ぶ人々の姿はなく、ひっそりとピラミッド型の神殿が建っていた。その神殿では、もう半日以上、両腕にヒスイの腕輪をはめた男が、神託を得ようと、あるときはひざまずき、あるときは立ち上がるという動作を繰り返している。

「雨が降るか。」

王は掌を空に向けた。空には曇が広がっている。人々はトウモロコシが濡れないように、急いで運んでいく。王の掌に一滴の水滴が落ちた。その瞬間、神殿の男のもとに神託が降りた。

 マヤパンからさらに東へ行ったところ。そこにもうひとつの都市チチェンイッツァがあった。マヤパンはその周りが石壁で覆われているが、チチェンイッツァにはそれがなかった。ただ、マヤパンと同じ点は、この都市の中央にもピラミッド型の神殿が建っていることである。空からは大雨が降っている。その雨しずくはセノーテと呼ばれるこの土地特有の石灰岩が陥没してできた天然の泉に降り注いでいた。

 その泉ではちょうどヒスイの首飾りをした、14,5歳になるであろう少年が澄んだ水の中で美しい手足を泳がせている。少年は雨が降ってきたのを知ると陸へ上がり、高くそびえ立つ木の幹の下に身を寄せた。少年は雨が上がるまで、この大木のもとに身を寄せていようと思ったが、迫り来る歴史の波が少年にそうさせることを許さなかった。少年が目を上げると、遠くに黒く細い、かすかにしか感じとれない程度の煙の筋がいくつも上がっているのを見つけた。それは少年の住むチチェンイッツァのある方からであった。

 ユカタン半島には、マヤパン、チチェンイッツァ、それともうひとつイツァマルと呼ばれる都市がある。彼らは等しく都市の中央にピラミッド型の神殿を持ち、その神殿にはククルカンの神を崇めていた。ククルカンはケツァルコアトルとも言う。その昔、ククルカンは西からやってきて、この地に住まう者たちを滅ぼし、新たに都市を建設したといわれている。三つの都市はそれぞれ、先祖を同じくする者たちではあったが、長い期間を経た今日では、お互いに争い合う関係となっていた。

 雨が降るこの日も、マヤパンが神託により、イツァマルとともにチチェンイッツァへと攻撃を仕掛けたときであった。雨が降りしきる中、人々は驚き、慌て、逃げ惑った。トウモロコシの山に火がつけられてはいたが、雨により、その火が広がることはなく、黒く細い煙を、幾筋も真っ暗な空に棚引かせていくだけであった。チチェンイッツァの人々の中には、咄嗟に棍棒を持って抵抗する人々もいたが、マヤパン、イツァマルの戦士たちの前に、悲しくも倒されていく。石灰岩の土壌は赤く染まり、その色は雨に流されてトウモロコシの皮を赤く染めていた。やがて、騒ぎを聞いて駆けつけてきたチチェンイッツァの戦士たちが王とともにマヤパン、イツァマルの戦士へと向かっていく。争いは乱戦となった。あの泉の少年がどうなったのかは誰にも分からなかった。

 その後、マヤパンはイツァマルとともにチチェンイッツァをユカタン半島から追い出すことに成功した。しかし、やがて、マヤパンとイツァマルが争うようになり、ユカタン半島の都市国家は分裂、小王国がお互いに争い合う状態となった。そして、1450年、マヤパンは反乱により廃墟と化した。1560年にスペイン人がこの地を訪れたときには、戦乱によりマヤ文明はまったく衰退していたということである。現在、メキシコやその周辺には、彼らが残したピラミッド型の神殿や石造りの宮殿などが残っている。その資料館のガラスケースの中には、昔、誰かが身に着けていたであろうヒスイの首飾りがきれいに展示されていた。


この小説は創作であり、歴史的、文化的事実とは異なる場合があります。

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