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第6話 娼館と仕事と出会い


 聖堂を辞去し仲介業者の所までの道のりをアレッツと歩く。ナデュノーゲンの好意でしばらくの宿は聖堂になった。荷物も聖堂に置いてくることができた。憂いがあるとすればそれは今向かっている仕事についてだろう。仲介業者の店や仕事についての疑問を聞いてみる。


「これから行く仲介業者の店ッてのはどんなもんなんだ?」


「サウィンさんって人がやってる喫茶店だべ。」


「どんナ仕事があるんだ。何カ気を付けることはあるか。」


「おらは力仕事が中心だべ。荷運びとか掃除とかやったべ。サウィンさんにいわれたとおりしっかりやってれば大丈夫だべ!」




 そういって中央部への道を進むと、レンガ造りの古びた建物に入っていく。周辺は雑貨を扱う商店が並んでいるようだ。


 店の中に入ると甘ったるく、独特なにおいが充満していた。店の奥には水たばこを吸っているもの、薬を吸っているもの。酒を飲んでいるもの。様々な人間がいた。何人かはこちらを見るがほとんどが目をすぐ興味を失ったようにそらすか、どこか視線が虚ろである。喫茶店とは酒場などの隠語なのかもしれない。キーは無表情で視線を合わせないように彼らを観察しながらアレッツの後を追う、


「サウィンさん。こんにちはだべ!」


 そんな光景をものともしないようにずかずかと進み、カウンターにいる男に陽気な声で話しかけた。




「……アレッツか」


 ワインレッドの緩く伸びた髪を持つ、背の高い色白の美青年だった。紺色の服を基調に、薄手の髪と同色のストールを巻いている。どこか物憂げな表情をしておりこの店には似つかわしくなく気品がある。甘い色気を放つ面貌の虜になる女性は多いだろう。


「仕事をもらいに来たのと、新人の紹介だべ」


「キーだ。よろしク頼む。仕事を紹介してもラえると聞いて来た」


 サウィンは表情を変えることなく、ごくわずかな視線をキーに向けて抑揚のない声で話す。




「そうか。なにができる」


「ちょっト!なんていエばいいの!」


 キーは小声でアレッツを肘で突く。


「おらは農作業って答えたべ!」


 胸を張って堂々と問いに答える。




「俺様ハ……何もデきねぇ……!!!」



「そうか」


 キーは屈辱的な表情で吐き捨てるように答えを口にした。しかし淡々とサウィンは返答する。キーの顔に向けていた視線を下方に移動させ、まじろぎもせず見つめる。。


「キー……。気にすんな……」


「うッせボケ!聞かれるコとあるなら最初に言え!大事なこトだろうが!」


 アレッツの頭を殴り、大声で言い争うが周りの客は我関せずとしている。この店でも多少のいざこざは日常茶飯事のようだ。そんなことをしていると今まで黙りこくっていたサウィンが静かに、だが不思議と響く声を出した。




「ベニオ」


「あーん?なんだよ」


 ちびりちびりと飲んだくれながら無精ひげを生やした中年の男が椅子からのけぞってサウィンを見やる。くたびれた服装やだらけ切った口調からだらしない印象を強く受ける。


「この茶髪の男を仕事に連れていけ」


「はーぁ?」


 視線をずらし、キーの顔を見やる。




「そこのぼくちゃんは娼館の護衛より男娼の方が向いてるんじゃないのか?」


「そうだな。どうする」


 サウィンは何の感慨もなさそうに同意した。キーは無理やりいらだちを抑えるように無表情で答える。


「初めから娼館行ってなイ時点で選択肢に入ってるわけねぇだろうが」


 ベニオと呼ばれた男とその連れたちはゲラゲラと笑っている。


「おいおい坊主。娼館で働けるってのはなかなかできねーんだぜ?殺し合いよりもはるかに安全に稼げる。」


 中年男は酒の入ったコップを呷る。そして諭すように真面目ぶった顔を作る。




「何よりシコいねーちゃんと仲良くなれる」


「てめー何いいこと言ったみタいな面してんだ」


 ますますこの中年男の連れたちは笑いを大きくする。


「まぁ一度娼館に行けばわかるさ。女の体を貪る欲求がな」


「教えてくれるとありガたいね」


「決まったならいけ。時間だ」


 サウィンが出発を促す。ベニオは椅子に立てかけた剣を腰に差し、つまみを粗雑に手でつかみ食らいつく。




「自分の身は自分で守れよ坊主。俺は忙しい」


「当然ダ。そんなに護衛ってのは忙しいのカよ?」


「護衛ってのは護衛対象を常に見張ってないといけねぁ。護衛対象は一人だけじゃねぇ。娼館じゃ俺の性欲を抑えることに総力を注ぎ込まないといけねぇ」


「……タフな仕事になりソうだ」


 キーのベニオを見る目は完全に無になっていた。そうしているうちにアレッツの仕事も決まり、出発するようだ。




「キー!がんばるべ!」


「オう。お前モな」


 アレッツは手を振り、キーは片手をあげて答えると扉を開けて外に出ていった。キーは見送ると、サウィンに確認をする。


「報酬はどう受け取れバいい?」


「この紙を依頼人にサインしてもらえ。その時に報酬は渡される。依頼が終わった後に紙は俺に渡せ。」


紙を2枚もらい、ベニオに顔を向け、1枚渡す。




「娼館に向かうんダろう。場所ハ?」


「まぁ着いてこい」


 ベニオも扉を開ける。キーはそれに続き外へ出る。


「この町にも娼館はあルんだな。その辺で客引きやっテる女は見かけたが」


「立ちんぼなんざやめとけ。変な病気移されたくなけりゃそれなりの店が管理してる娼婦が一番だ」


「へェ」


「まぁ案内してやるよ」


 ベニオは口笛を吹きながら歩く。キーは物珍し気にまだ来たことのない道を見回す。




「なんだ坊主この辺は初めてか?」


「まぁナ」


「娼館にシャブに酒にいろいろこの町はそろってるが、お前はどの口だよ」


「俺様はたダの訳アリだ。そんな奴はごまんトいるだろう」


「そうかい。なら一通り回ってやるよ」


 そういってまっすぐ進んでいた道をそれる。キーはそれに続いて進んでいく。




「あの店では煙草や薬草を売ってる。昔からある店で悪い噂は聞かない」


「アぁ」


「あの店では酒を売ってる。ちと薄いが安い。俺の馴染みだ」


「へェ」


「あの店ではラットポップっつーバカがシャブを売ってる。この町でも選りすぐりのカスだ」


「ほウ」


 そういってベニオは店の品ぞろえを確認していた。店主と交渉しているのをみると欲しいものがあったのだろう。心なしかご機嫌だ。客とも何かを話し込んでいる。ベニオと同じようにみんな目が死んでいるものたちばかりだ。店が店だからなと一人納得し、自分も品ぞろえや、商品を購入次第待ちきれない様子で使っている客を眺めていた。




「以上おれの行きつけだ。どうだ」


「この世界目にハイライトがない人たち多すぎない?」


「ん?なんだって?」


「ためにナったぜ」


 寄り道をしている間に時間が過ぎていき、仕事の時間が迫ってくるのではないかとベニオを急かす。思い出したようにへらへら笑いながらまっすぐ進み始める。そうしているとすぐに到着した。




「お、見えてきた見えてきたあれが俺たちの護衛する娼館だ!いきり勃つ♪いきり勃つ♪俺のチンコがいきり勃つ♪」 


「……」


 ベニオは卑猥な歌を歌いながらリズムに乗って腕を振るう。キーは完全に無視を決め込む。周りの建物とは明らかに大きく見える。薄紫色のレンガ建て件の娼館のようである。仕事の時間が来た。キーは初仕事に意気込みを強め、不敵に笑いながら娼館へ入った。



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