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第4話 マイシティウルゴルヌーマ ②


 その日は夜分遅くまで大騒ぎをした。子どもたちは畑での興奮が冷めやらず、歌や踊りをした。娯楽がない分、金のかからないことで楽しんでいるのだろう。畑でも歌を歌っている子供は少なからずいた。キーも場の空気に充てられ、この世界からすると膨大な数の故郷の名曲を歌うと、子どもたちは更に興奮し歌をせがんだ。そうしているうちに夜が更けたので子どもたちのわがままで孤児院で一夜を明かすこととなった。


 次の朝、日が昇るころ起きるとメイエルハニカが朝支度をしている。台所で朝食の仕込みをしている。子どもたちはまだ起きていない。ホムホッケも丸くなって寝ているようだ。子どもたちに囲まれて体を丸めている。昨日は子供たちに遅くまで振り回されていたので、ろくに話していなかったなと思いつつ、話しかける。




「ヨぉ。はエーな」


「おはよう!キーちゃんも早いね!」


「イつもこんな早いのか?大変ダな」


「子供たちから目を離すわけにはいかないから自然とね。一人でやらないといけないことは先に済ませてるの。」


 メイエルハニカは包丁を動かしながら苦笑する。




「手伝うゼ」


「キーちゃんは料理できるの?」


「やったことナいと思う。」


「なら座ってていいよ。昨日は疲れたでしょ?話し相手になってくれるだけでうれしいよ」


「早く飯食いてーかラな。コれでも器用なんだ。野菜切ルくらいはできるぜ」


「そっか。ならこれを切ってくれる?」


「わかっタ」


 淡い黄色をした細長い瓜のような野菜を渡される。持ってみると身が詰まっているのかずっしりと重い。キーは包丁を見つめると、ゆっくりと皮をむき、野菜に切り込みを入れる。少しすると次第に切るスピードは速くなり、手際よく切っている。




「デきた。見てくレ」


 したり顔でメイエルハニカに見せるもひきつった形容しがたい表情をして、上ずった声色で話す。


「……頑張ったね!ありがとう!」


「ソれいまいちの時の常套句じゃん?」


 キーは憮然とした表情をする。思いもよらない反応だったのだろう。


「切り方がね。ちょっと意表を突かれたね」


「だって硬いから細かくした方がいいかなって思わン?」


「これはバスカビタっていう野菜なんだ。皮が付いたまま大きく切ってさっとゆでると柔らかくなって食べやすくなるんだよ」


「そうだったのカ。ソもそもどんな料理をつくるのかどんな野菜があるのかも知らなかったわ」


「そういえば記憶喪失だったね」


 メイエルハニカは困ったように思案する。




「ごメん……」


 キーは小さな声で謝罪する。珍しく萎れている。


「失敗は誰にでもあるよ!やりようはあるから気にしない!キーちゃんは私の料理してるところを見ててね」


「わかっタ……次からはワかんなければ聞く」


 メイエルハニカは大なべを取り出し、調理を続ける。




「キーちゃんは朝食食べたらどうするの?」


「すぐ出て仕事でモ探すつもりだ。ソの相談をしたかった」


「仕事かぁ……」


 鍋はぐつぐつと煮えている。そこに先ほど切ったバスカビタをはじめ種類ごとに野菜を放り込みながらしばらく考えている。




「教団で聞いてみるのがいいんじゃないかな?あとはイルーシャに聞けば何か紹介してくれるかも」


「イルーシャに?そういえばどんな仕事をやっテるんだ?」


「お店の管理とかをしているみたい。その手伝いとかだと思うよ」


「ナるほど。いまイルーシャはドこに?」


「わからないな。いろんなお店があるからね。普段は来るのを待ってるんだ」


「そうカ。教団とイうのは?」


「そっか。それも忘れちゃったか」


 メイエルハニカは困り顔をして説明しあぐねている様子だ。たどたどしく言葉を絞り出す。




「うーんとね……この世界には神様っていう人間を作ったえらい存在があるの。その神様のことをみんなに教えてくれるのが白戒教団なんだよ。」


「白戒教団」


「教戒師の人たちはみんな真っ白な服を着ているからすぐわかるよ。このあたりには聖徒があまりいないから聖堂は東部に一つだけかな。知り合いがいるの。紹介するからお話を聞いてみたらどうかな」


「そうしてみヨう。紹介も頼ム」


「まかせて。あとは読み書きはどうするの?」


「暫くは生活基盤の充実に努メる。それからだナ」


 そうしているうちに鍋が出来上がった。キーは知る由もなかったが、タラトールやザジキに似ている。ヨーグルトをベースにキュウリやニンニクやオリーブなどの香味料を入れて作るスープである。




「それじゃ私は畜舎に行くから子どもたちを起こしてあげて」


「了解」


 子供たちはまだ寝ていたが、キーが近づくと目を開け、カーテンを開けると起きだした。寝ぼけ眼で井戸まで昨日キーが歌った曲を口ずさみながら歩き、顔を洗い、食器やパンを出してテーブルにつく。メイエルハニカも席に着くと食事を始めた。ハードブレッドをスープに浸して食べ、見よう見まねで食べる。爽やかな味わいだ。朝に食べるにはなかなか好ましい。周囲ではトアルとティリなどの年長組が、年端もいかない子供たちを甲斐甲斐しく世話をしている。ホムホッケは椅子を使わず、浮きながら夢中で食事を進めている。




「キーは出発したらどうするの?」


 子供に食事を食べさせながらトアルが尋ねる。


「聖堂に行くつも理だ。仕事ヲ探す」


「ナデュノーゲンさんの所か。いいと思う」


「ソの人は?」


「教戒師の人だよ。メイエルと仲がいいんだ」


「どんな人なんダ?聖堂では何か気を付ケることはあるか?」


「優しいいい人だよ。こんな街だから暴れたりしなければ大丈夫だよ。僕も作法には詳しくないけどなにかわからないことがあれば教えてくれると思う」




「そウか。聖堂ってのはどんなことしてるモんなんだ?」


「ぼくたちに関係するのは毎週の礼拝や冠婚葬祭と、大きなけがをした時の回復魔法くらいだね」


「回復魔法っテのは教会が管理しているのか?」


「そういうわけではないけどぼくたちでも使える回復魔法となると教会しか頼むところがないね。それでもすごく高いけど。まさか貴族様に頼むわけにもいかないし」


「この町にも貴族様ってのはいるノか?」


「うーん……この町はちょっと特殊なんだ。き「トアル。来客よ。キタヤさんの家のドアが壊れたみたい。これから仕事で家を空けるからすぐに来てほしいって」


 孤児院の外で鈴のような音が鳴り響いたと思うとティリが駆けていき、トアルを呼んだ。

聞くや否や朝食をかき込み、席を立った。




「ごめんキー。仕事だ。見送れないかもしれない」


「いや助言助かっタ。がンばれよ」


「うん。じゃあまたね」


「おウ」


「行ってらっしゃい!」


 トアルは子どもたちに頷くと急いで出発する。キーは見送ると朝食の残りをたいらげる。食べ終わると目を見開き驚愕の声を上げる。




「俺様より先ニ……手に職を持っテいる……!?!!!?!!」


「トアルは器用だからね。孤児院の補修なんかも任せているわ」


「このお椀もトアルが作ったんだよ!」


 ティリが語ると、口に食べかすをつけた子どもが椀を見せつけて誇らしげに話す。ティリは布で口を吹いてやる。




「ウ……アあ……!俺様ヨり小さいのに!しカも技能職!食いッぱぐれないやつ!」


「アンタくらいの年になればどこかで働いてるのが普通よね」


「キーちゃんは家事を手伝ってくれてるよ!無職なんかじゃないよ!」


 残酷なティリの言葉にメイエルハニカは見かねてすかさずフォローするも、キーの表情は険しくなる。


「家事手伝いは男は世間に評価されネーんだよ!!!」


「別にいいじゃないかノ!男は自分の道をゆくんだノ!」


「自分に恥ずかしい道はいカねぇっ!」




 そういうと席を立ち、大声で宣言する。


「もう俺様は出発すル!止めテくれるな!!!」


「慌ただしいやつね……」


「勢いは買うノ!」


 ティリは呆れたようにつぶやき、台所に行き食器を洗い始める。ホムホッケは楽しそうに空中を舞っている。




「もう行くの?まだちょっと待ってて。片づけてから行くから」


「ア……そウ」


 メイエルハニカの言葉に座る。同行しなければ紹介のしようもないからであった。いたたまれないからかまた立ち上がり食器洗いを手伝い始めた。微妙な空気が流れるも、そのまま食事の始末も終わり、出発の時を迎えた。




「朝食の残りよ。箱は次に来た時に返しなさい」


「かたジけねぇ」


「これはトアルから」


 そういって手に抱えている箱を渡す。中をのぞくとギターのような7弦ある弦楽器をよこした。




「……くれるノか?」


「昨日の歌を聞いてトアルが前作っていたリュビトスをあげようって話になってたのよ。でも今はいないから代わりに渡しておくわ」


「そウか……」


 嬉しそうにリュビトスを見つめ、試しに少し鳴らしてみる。美しい音色だ。トアルの器用さに感心しているのか驚きの色が混じっている。




「トアルにありがたクもらう。練習スると伝えてくれ」


「わかったわ。ま……がんばりなさいよ」


 そういってティリは言葉を切った。


「あァ。厄介になッた。達者デな」


「それじゃあ行ってくるね!昼前には戻ると思うからみんな仲良くね」


「「「はーい!」」」




 リュビトスの入った箱の背負い紐を背中に回し、キーとメイエルハニカは出立する。トアルから楽器をもらったことに高揚しているのかキーの口元は緩み、話は尽きることはなかった。メイエルハニカは相槌を打ちながら微笑みを浮かべて歩いていった。




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