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ここで話せば長くなって日が暮れてしまうからと街に向かう道中で話してもらうことになった。

廃村を出る前にお墓に向かってまた来るからと声をかけたギオレドは再び溢れそうになった涙を乱暴に拭って歩き出す。

そして、ポツリポツリと彼の過去に何があったのか語り始めた。



小さな村に住む娘とその村からの依頼を受けたBランク冒険者。二人が出会い、恋をし、生涯を誓い合い生まれたのがギオレドだった。

村から長く離れることを嫌った父親は近辺で済ますことができる依頼を受けたり、時たま現れる魔獣を討伐してその素材を売って稼ぎにしていた。

裕福とは言えないが細々と幸せな家庭。

人当たりも良く腕っぷしも強い父親は村の人々に頼りにされ、村の守護者だなんて呼ばれていてギオレドはそんな父親が自慢だった。

将来自分も父親のような強くてかっこいい冒険者になるんだと夢見ていた。

剣を教わり、魔獣の名前や素材になる箇所を教わり、それを売りに行くため街にもついていった。

父親と共に汗を流し、家事の傍らで母親が見守ってくれる。

充実した日々。しかし、そんな日常はあっけなく壊される。


それはよく晴れた日の事。

受けた依頼の報告と魔獣の素材を売りに街へ赴いた帰り道。


「そろそろ冒険者登録してみるか?」


「うん!」


「よし、じゃあまた明日ギルドに行って…ん?なんだあれ。」


やっと認められた!やっとスタートラインに立てる!そう意気込んだ瞬間、父親は前方の異変に気付く。

雲一つない夕焼けの空に黒々とした煙が昇っている。

火事だ。それも丁度、村のあるあたりから。

それに気づくや否や父親は走り出す。


「父さん!?」


「お前は街に戻って衛兵を呼んでこい!」


慌ててついていこうとしたが父親はそれを止めた。

みるみる小さくなる父親の背中を呆然と見送るギオレド。

父親の言いつけ通り街に戻ろうと回れ右をしたが、すぐに足を止めた。

衛兵なんて呼ばなくたって父親がなんとかしてくれるんじゃないか?

街の衛兵は冒険者を見下している。小汚い荒くれ者と罵っている場面を偶然目撃したことがあったのだ。

あんな奴らに頼るなんて屈辱以外の何物でもない。

あんな奴らよりも父親の方が頼りになる、大丈夫だ。父親がなんとかしてくれる。

愚かにもそう考えてしまったギオレドは踵を返して村の方へ駆け出した。


「なんだよ、これ…。」


それはまさに地獄絵図だった。

家々から炎があがり、逃げ惑う村の人たち。地面には既にこと切れた見知った顔。

馬に乗った男たちが村を蹂躙していた。

あまりの惨状に足が震えて立っているのがやっとだった。


「子供はこんだけかぁ!?しけてんなぁ!おい!若い女もついでに攫っとけ!」


リーダーらしい男が叫ぶと仲間の男たちはニヤニヤと下品な笑みを浮かべる。

何人かの男は小脇に子供を抱えていた。この村の子供、ギオレドの友人たち。

助けなきゃと思ってもギオレドにできることは無い。

どうすれば、と思考を巡らせていると頼もしい雄叫びが轟いた。


「うおおおおおおおお!!!」


ギオレドの父親だ。

相棒である両手剣を振り回して次々と男たちを薙ぎ払っている。

やっぱり、父さんがいれば大丈夫だ!そう胸をなでおろす。


「父さん!!!やっちゃえ!!!!」


心に余裕ができて思わずそう叫んでしまった。

仲間が容易く打ち負けている姿に顔を歪めていたリーダーの男はにいと笑みを浮かべギオレドの方へ馬を走らせる。

それに気が付いた父親は息子の元に駆け寄った。


「どうしてここにいるんだ!!衛兵は!?」


父親はギオレドの肩をつかみ怒鳴るように叫ぶ。


「衛兵なんていなくても父さんがいれば…。」


「何を馬鹿なことを!!とにかく逃げろ!!今度こそ衛兵を」


「させるかよぉ!」


リーダーの男が炎魔法を放つ。

すんでのところで剣を薙いで防ぐことができた。

頼もしい背中を見上げているとぐいっと何者かに引っ張られた。


「ギオレド!」


父親は瞬時に気が付いたが一歩遅く、ギオレドは村を襲っている一味の一人に捕まってしまった。

じたばたと暴れてもびくともせず、父親も無闇に手出しできない。


「残念だったなぁおっさん。あんたのガキさえいなけりゃ俺らに負けるこたぁなかっただろうになぁ。」


くつくつと笑うリーダーの男はスラリと剣を引き抜いて振り上げた。

父さんと呟いた声が聞こえたのかも分からない。

いつの間にかすっかり日は沈み炎で逆光になった父親の表情は見えない。


「恨むなら馬鹿な息子を恨みなぁ。」


一突き。

心臓を貫かれた父親は倒れこみ、小さく擦れた声で言った。


「ごめん、な…ギオ…レ…。」


どさりと倒れた大きな体に手を伸ばす。

無論捕まっていてその手が届くことは無い。

俺の、俺のせいで。

漸く自分の浅はかな行動のせいで起きた事だと理解する。


「ああ…あああああ!!!!!父さん!!!!父さん!!!!!」


つんざくような悲鳴を上げるギオレドを冷たく見下ろすリーダーの男は泣きじゃくるギオレドの前髪を掴んで無理やり目を合わせる。


「うるっせえんだよ。こいつはもう死んだ。てめえのせいでな、ガキ。」


ひゅ、と喉が鳴る。

怖い。俺はこれからどうなる?守ってくれる父親はもういない。

奴らは子供を攫うことが目的なようだったから殺されることはないだろう。

だけど死ぬより恐ろしいものが待っているかもしれない。

怖い、怖い…!!!


「こいつで最後だな。おし、撤収だ野郎ども!!!!」


リーダーの男がそう叫べば仲間の男たちがおう!!と返す。

子供たちと数人の娘を抱えた男たちは村を後にした。

その際目に入ったのは家の前で血を流し倒れている母親だった。

絶望したギオレドはそっと意識を手放した。


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