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僕の前には赤々と燃える焚火があった。

なんと運よくあの少年は火属性の魔法を扱えたのだ。

今は追加の薪を拾いに行ってもらっている。

熊肉を捌く道具がないので素手でどうにかしなければならず、それをあの少年に見せるわけにはいかないからだ。

皮は街に着いたら売るため、できるだけ丁寧に剥がした。

所々肉片もついているが刃物なしと考えれば上出来だろう。

内蔵は大雑把に抉り取り、【収納】に戻す。確か、ベアーゲルの心臓は妙薬の材料になったはずなので刃物が手に入ったら切り分けてそれも売るつもりだ。

残りは肉塊と骨だが、奇麗に骨から削ぐことはできないので気持ち強めにぶん殴ってみる。

すると、肉も骨もバラバラに砕け散る。

大きさは不揃いだし食べれなくなった部分も多そうだな…。


「今はこれしか手がなかったんだ。ごめんね。」


飛び散った肉片に手を合わせ、日本の慣習に基づき冥福を祈る。

まだ食べられそうな大きさの肉片を拾って川で洗い細い枝に刺していく。

今食べない分は【収納】にしまう。

熊肉を焚火の傍に立てればあとは焼きあがるのを待つだけだ。


「おい!すげえ血の匂いじゃねえか!一体何がっ!うわああ!?」


丁度戻ってきた少年が血みどろの河原と僕を見て悲鳴をあげる。


「おかえり。ごめんね、驚かせちゃったみたいだね。さっき僕たちを襲った魔獣を捌いたんだ。慣れてなくてこんな有様に…。」


「ベアーゲルを?それで…って、不慣れにしてもこうはならねえだろ…どんななまくら使ったんだ…。言ってくれりゃ俺が捌いてやったのに…。」


状況を理解してくれた少年はそう言いながらぱっと短剣を出現させた。

【収納】に入れてあったものだろう。


「あはは…。じゃあ次はお願いしようかな。見たところ刃物を持っていなさそうだったからさ…。というか、ベアーゲルを捌けるんだね。まだ幼いのにすごいなあ。」


「幼くねぇ、俺はもう11だ。親父が冒険者だったから狩った魔獣の解体を手伝ってたんだよ。」


11歳はこの世界でも十分幼い部類だと思うんだけど…。

しかし、ベアーゲルを倒せるほどの冒険者ならF・E・D・C・B・A・Sまであるランクの中でCランクくらいはあるはず。そんな冒険者なら食うに困ることもないだろうに彼は痩せ細っているし、父親の話をする表情は苦し気に歪んでいる。こんな場所で1人でいるのに理由がないわけがないのだが、随分根深い問題そうだな。


「薪、ありがとうね。少し火にくべて肉が焼けるまで水浴びでもしようか。」


根掘り葉掘り聞きだすことでもない。話を逸らして水浴びの提案をする。血が乾いてカピカピしてきたし、彼も泥だらけなままだ。

彼も頷いてくれて服を脱ぎ二人で川に入る。


水浴びと、ついでに軽い洗濯を終えた。手頃な木に洗ったシャツとズボンを干す。

白かったシャツに斑な赤茶色の模様ができてしまったことを悲しんでいると服は洗わずそのまま着て先に焚火の傍で休んでいた少年から声がかかる。


「おい、そろそろ名前教えろよ。」


一瞬きょとんとしてしまう。

そういえばまだ名乗ってなかったか。


「人に名前を聞くときは自分から名乗るものなんだよ。」


「あ゛?」


ちょっと言ってみたかったセリフを口にすると思いっきり睨まれた。

そんなに怒らなくても…。

しゅんと肩を落とすと少年は大きな舌打ちをして仕方なさそうに名乗ってくれる。


「チッ…俺はギオレド。ギオレド・ヤイーシェだ。」


「ギオレドくんか~。僕はひ__」


秀樹、と名乗ろうとして思いとどまる。

日本名はこの世界では異色だ。もし、兄さんたちが僕もこの世界に来ている可能性を思いついたとしたら。

きっと探し出そうと考えるだろう。王に相談したり、行く先々で聞きまわったりするだろう。

僕は地球に戻れるまでどう過ごすか考えていた。

それは、三人とは絶対に合流しないこと。三人の邪神討伐が終わるまで彼らの動向を追いつつ、つかず離れずの距離を保つ。離れすぎれば僕はこの世界に取り残されてしまうかもしれないし、近づきすぎれば見つかって一緒に討伐することになってしまうだろう。

理想は邪神討伐を終えた帰り道で合流することだ。

そのために、僕がこの世界にいると悟られないことも重要。

秀樹という名前が風の噂ででも彼らの耳に入るのは避けたい。


「どうしたんだ?ちゃんと俺から名乗っただろうが。」


「うん、ごめんねギオレドくん。改めて、僕の名前はキースだよ。よろしく。」


笑いかけて手を差し出す。本当にごめんね。

ギオレドはその手を握り返し、ニッと初めて笑ってくれた。


「よろしくな、キース。」


この名前は前回の視察、つまり約1000年前にこの世界を視察しに転生したときの名前。

僕の名前であることには変わりないと痛む心に言い訳してギオレドの隣に腰掛けた。

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