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「で、俺は森を彷徨ってベアーゲルに襲われ、逃げ回っている途中でお前に出会ったわけだ。」


語り終えたギオレドは自嘲する。

意気込んだところで何か力に目覚めるなんてことはなく、僕がいなければそのうち捕まってベアーゲルに食べられてしまっていただろう。

その事実にギオレドは自分の無力さをさらに感じることになったのだ。

純粋な子供であったがための過ちが大きな因果としてその身を絶望のどん底に突き落とした。

素直に衛兵を呼びに戻っていれば、或いは父に声援を送るなんてことをしなければ、きっと未来は違っただろう。

因果応報とも言える。

しかし、当時9歳だった父に憧れる少年にそれを言うのはあまりにも酷だ。


「ギオレドは強いよ。」


「はぁ?」


訝し気に睨むギオレド。


「心の話。そんなことがあって立ち直れる人は中々いないよ。」


「…立ち直れてなんかいねえよ。ただ、アンリ姉ちゃんの願いだから。俺は生きねえとだめなんだ。」


目を伏せて拳を固く握るギオレド。

その小さな背中に背負った重荷で潰れぬよう支えてあげることができたなら…そう考えずにはいられなかった。


「なあキース。お前は街に着いたらどうするんだ?」


「え?う~ん暫く滞在して旅に出るかな。」


「旅…。なあ、お前腕は立つ方とか言ってたよな?実際ベアーゲルも仕留めたみたいだし。」


「うん、そうだね。」


ギオレドは意を決して僕を見上げて言った。


「俺もついていっていいか?」


続けて「ほら、お前魔獣捌くの下手くそみてえだし、父さんに習ってたから多少は戦えるし、炎魔法も使えるぞ!」としどろもどろになりながらアピールする。

そんな姿が微笑ましくてクスリと笑ってしまう。


「いいよ。確かにギオレドがいたら心強いから。」


一人旅というのも寂しいし、何より目立ってしまう可能性がある。

一人であちこち旅をするのは命知らずか余程腕に自信があるかだ。

というのも、旅に野宿は必須でそれには山賊や魔獣に襲われる危険が伴う。

夜に見張りをする必要があるのだ。

それだけではなく戦闘になった場合もやはり複数人の方が有利。

普通は三、四人でパーティを組んで旅をするので一人で旅をする奴は変わり者か強者しかいないのだ。

二人旅ならそこまで変には思われない。

つまり僕にもギオレドと共に行く利点があるということだ。


「ありがとう、キース!」


ニパッと嬉しそうに笑うギオレド。

丁度街の門が見えてきた。


街に入り真っ先に向かったのはギルド。

ベアーゲルの素材を売るためと、冒険者登録をするためだ。


「キースって冒険者じゃなかったんだな。」


「あはは…まあね。」


ギオレドは僕のことを冒険者だと思っていたらしい。

確かにあんな森に入るのは素材を採りに行く冒険者くらいだろう。

何も持たずあんな森の奥まで行く冒険者がいたらとんでもない阿呆だが。


「はい、それではこちらがキースさんとギオレドさんの冒険者カードになります。」


受付嬢からカードを受け取り説明を受ける。

原則Fランクからとなるが、申請して試験料を払って飛び級試験を合格すればDランクから始めることもできるとのことだが急いでランクを上げる必要もないだろう。

依頼をこなしていけばランクは自ずと上がっていく。

CからBに、BからAに、AからSに上がるには昇級試験が必要になることも説明された。

依頼にもランクがあり、FランクはFとEランクの依頼しか受けられない。

近場での薬草採取や街の人の小間使いのような依頼が主だ。

Eランクまでは見習い期間というわけだ。


「依頼はあちらの掲示板に掲載されていますので、受けたいものがあればこちらまでお願いします。

説明は以上になりますが何か質問はございますか?」


「了解しました。えっと、質問というか魔獣の素材を売りたいのですが。」


「素材の売却でしたらあちらの通路の先に担当の者がいますのでそちらでご相談ください。」


「分かりました。ありがとうございます。これからよろしくお願いしますね。」


ぺこりと頭を下げる。

こんな形にとはいえ憧れの冒険者になれたことが嬉しいらしくカードを眺めていたギオレドに声をかけて教えてもらった通路の先へ向かう。

珍しく礼儀のある新人にあらあらと微笑む受付嬢だった。


通路の先はポーションや薬草、火打ち石など冒険に必要な細々としたものが売っている店だった。

カウンターにはガタイのいい初老の男性が座っていた。


「あの、魔獣の素材を売りたいのですが。」


「おう、出してみな。」


声をかけると男性はカウンター横にある机を指してそこに出すよう促す。

それに従ってベアーゲルの毛皮と捌き忘れていた内臓を取り出す。


「ほう、ベアーゲルか。若いのに大したもんだ。捌きが甘いから手間賃を引かせてもらうぞ。

そうだな、ざっと銀貨二枚ってとこか。」


さっと鑑定した男性は銀貨二枚をぽんと渡してくる。

この世界の通貨は金貨、銀貨、小銀貨、銅貨とあり、銅貨十枚で小銀貨一枚、小銀貨五枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚と同等になる。

銀貨は一枚で一週間の食事を賄える金額。

普通であれば大金だろう。だが、


「銀貨四枚の間違いではないですか?」


相場を知らない新人なら喜んで二枚の銀貨を受け取っただろうが、生憎僕は相場を知っている若者だ。

幸い客はいないので変に目立つこともないだろう。

今の僕とギオレドは無一文なのだ。買い叩かれてなるものか。

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