プロローグ
「さーてと、それじゃ行ってくるね。50年留守にするけどその間よろしくね。」
「はい、視察頑張ってください。」
僕の頼れる右腕大天使であるライトに手を振り自身の管理下にある世界の一つである地球に続くゲートに飛び込む。
ゲートは閉じその場にはライトが佇むのみ。
「何も問題なく終わることをお祈り致します。」
ライトはゲートがあった場所に一礼して仕事をするべくその場を立ち去った。
おぎゃあおぎゃあ
地球の日本という国のとある夫婦に2人目の子供が生まれた。
「おめでとうございます!元気な男の子ですよ!」
秀樹と名づけられた彼はすくすくと育ち現在それなりに偏差値の高い高校に通う2年生。
5つ上の売れない漫画家の兄と2つ下の絶賛受験生の妹を持ち、そんな3人を育て、まだまだラブラブの両親も健在。
とても充実した人生を送る彼は、誰にも言えない秘密がある。
それは____彼が神様であるということ。
ふざけてるわけでも患っているわけでもなく、事実神様が人に転生して現場の視察をしているのだ。
といっても視察というのははっきりいって名目上だけのことで実際は神様の小旅行である。
視察は1000年に1度、彼の管理する2つの世界のどちらかで人として生活し、同じ立場で世界を見る仕事。
本当に見るだけで特別干渉はしない。何に関しても大きな成果や発明はしてはならず、一国の今後を左右するような政や戦に参加してはならない。あくまでただの市民として50年という決まった寿命を生きる。
彼が干渉することがあるとすれば、世界滅亡の危機くらいだろう。
***
「ひでにい~~~!!!」
「うわっ、とと。どうしたの舞華。」
帰ってくるやいなや後ろから勢いよく抱きついてきたのは妹の舞華。
よくあることなのでやんわり剥がしつつ向かい合う。
「勉強教えて~~~~!
このままじゃひでにいと同じとこ行けない!」
「勉強?いいけど、舞華の頭なら僕と同じじゃなくても選択肢多いでしょ?無理して合わせる必要ないんだよ?」
「やだやだ!ひでにいと一緒がいい~~!」
「舞華ちゃんは本当に秀樹が大好きね~。」
夕飯の用意をしていた母さんが台所から顔を出す。
今日はカレーなのであとは煮込んでルーを入れるだけのようだ。
「うん!ひでにいは優しくてかっこよくて頭も良くて!ひでにいの妹じゃなかったら私が彼女に立候補してたよ!」
「べた褒めだな。俺は?俺もお兄ちゃんだぞ~?」
「無職デブは黙ってて。」
「うわ~ん秀樹~舞華がいじめる~。」
くう~!と何やら悔しそうに拳を握る舞華に声をかけたのは2階の自分の部屋から降りてきた兄の葉一。
妹に一蹴され、泣き真似をしながら食卓のいつもの席に座った。
苦笑いを返して僕も席につく。
「あ、そうだひでにい。明日予定ある?」
「ん?いや、特にないけど。」
「じゃあじゃあ、明日友達と勉強会するからさ、先生してくれない?」
「ああ、いいよ。図書館?」
「ううん、友達ん家。」
「オッケー。」
そんな話をしているとカレーのいい匂いが漂う。
ルーを入れて完成したようだ。
「みんな好きなだけ自分でよそってね。」
皿を置いて自分の分をよそう母さん。
全員がよそい終わったところで父さんが帰ってきた。
「ただいま。今日はカレーか。」
おかえりーと声をかける。
母さんが父さんの分をよそう。
全員が席に着いたところでいただきますと合掌して食べ始める。
「兄さん、進捗はどう?」
「うーんあんまりだな。異世界モノなんだが描写が難しくてな…。」
他愛もない話をして食べ終わり、使った食器を洗い、風呂を済ましてテレビを見たりまた話をしたり。
いつもの日常を過ごして布団に入った。
次の日。
「行ってきまーす!」
今日は土曜日。早めに昼食を済ませ舞華の友人の家へ。
思いの外距離があり30分ほど歩き漸く着いた。
集まったのは舞華含め女の子が4人。
少し肩身が狭いなと思いつつ先生としてわからないところを教えてあげる。
合間におやつ休憩を挟んだくらいで、無駄話もせず集中する彼女たちに感心する。
気づけばもう少しで5時をまわる時間。
お礼を言われ少女たちと別れる。
「やっぱりひでにいは教えるの上手いなあ。
先生目指したりしないの?」
「考えてないかな。海外に行きたいから。」
そっかあと残念そうな愛華の頭をポンポンと撫でる。
「お、2人とも今帰りか~?」
ばったり兄さんと出くわした。
スーパーの袋を持っているのを見ると買い出しを頼まれたのだろう。
3人で見慣れた道を歩く。
天気がいいなあとか夕飯はとんかつだぞとかぽつぽつ話をする。
「ん?なんだろ、あれ。」
もう少しで家に着くというところで舞華がT字路を指さす。
そちらを見れば不自然に眩い光が漏れていた。
家に帰るには通らなければいけない道なので首をかしげながら歩を進める。
首だけを出して光っている道を見れば_
「勇斗…?」
舞華がつぶやく。
光の中心には舞華と幼なじみの勇斗くんがいた。
よく見れば光っているのは勇斗くんの足元で、それは所謂__魔法陣だった。
「あれって魔法陣ってやつだよな?ゆ、夢?」
「魔法陣?そんな、漫画みたいなこと…。じゃあ、勇斗…。」
舞華がはっとして駆け出す。
「あ!おい待て!巻き込まれるぞ!?」
兄さんも舞華を追って駆け出す。
そして僕は、まずい、と思っていた。
2人を引っ張ってこの場を離れるにはもう時間が無い。
僕だけならなんとか巻き込まれない距離まで離れられるが、人として生まれたからには人並みの家族愛を持ち合わせている。
…覚悟を決める他ない。
足に力を込め地面を蹴る。
離れた2人の背中に手を伸ばす。
その瞬間一層強い光が視界を覆い次いで暗転した。