表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
兄が異世界救って帰ってきたらしい  作者: 色川玉彩
第七章
66/85

ここが私の家

「シノ!」


 竹井山に事務所をかまえる『カレカノ』に戻ると、事前に連絡がいっていたのかエレベーターが開くや否や、社長が出迎えてくれた。

 そしてあろうことか私を抱きしめる。

 

「しゃ……社長?」

「よかったわ。家にもいないって言うし、あんな写真も送られてきたから心配で心配で……」

「……ご迷惑、おかけしました」


 なんでだろう。私なんかただのバイトなのに。

 まだ一、二回しか会っていないのに。

 この人は、どうしてここまで。


「お~シノじゃん!」

「シノちゃん~!」

「見つかったんですね、シノさん!」


 奥の扉から、異常をかぎつけたバイト仲間たちがぞろぞろと出てくる。

 そしてみんなが私を囲むように集まった。


「みんな嶺を心配して探してくれてたんだ」

「そう、だったんだ……」


 満面の笑みで私を迎えてくれる仲間たち。

 それはあまりにもキラキラでまぶしくて。

 胸が、熱くなる。


「シノ。私たちは何があっても味方よ。一緒に戦いましょう」


 社長がそう言って私を見つめる。

 ふと、『二軒目』の店長がフラッシュバックする。彼の、最後に私を非難した時の、怒りに満ち満ちた顔が。

 あの人は、こんなこと言ってくれなかっただろうな。

 大好きだったけど。家族だと思っていたけど。でも、今わの際ではバイトはバイトとして切り捨てるような人だった。

 孤独で寒々しかった心が、急速に温められる。

 凍り付いた心が、氷塊していく。

 私は世間知らずだったんだ。世の中はもっと広くて、いろんな人がいて、そしてこんな私でも受け入れて仲間と呼んでくれる場所がある。

 再度周りの仲間を見渡す。

 元カレにこっぴどく振られた人。

 離婚してシングルマザーとして働く人。

 孤児院出身で、大学費用を稼ぐ人。

 会社が倒産して借金を背負ってしまった人。

 たくさんの人がいて、たくさんの不幸があって。私の不幸はその中のほんの小さな一つで。

 みんな頑張ってる。

 私だけじゃない。


「俺たちは、家族だから」


 北田くんを見る。

 彼は私の肩を優しく抱き寄せる。

 ああ、そっか。

 私の家族は、ここにいたんだ。


「私……頑張りたいです。もう一度、ここから」

「その言葉を待ってたわ! シノにはバリバリ働いてもらうわよ! 覚悟してて」

「はいっ」


 もう一度、ここから頑張っていこう。

 まだ死ななくていい。

 まだここじゃない。

 もう一度、みんなで。


「はいはい。それじゃあ無事シノも見つかったことだし、みんな解散しなさい」


 社長がそう言うと、みんなはぞろぞろと奥の待機室に戻っていく。本当に私のためだけに待ってくれていたようだ。申し訳ない。


「よかったな嶺。明日からバリバリがんばろうぜ」

「……でも、どうしよ。私、今まで以上に借金が増えちゃって……このままじゃ返せない」

「そっか……。よかったら、ここ別の仕事も斡旋(あっせん)してるんだけど、そっちも紹介しようか?」

「別の仕事?」

「うん、そうなんだ。これまでは嶺もバイト目的だったから声かけなかったんだけど、ここで働いてる人たちの中には、別の仕事も請け負っている人がいるんだ。俺も実はそうなんだけど、それなら今の三倍からうまくやれれば十倍は稼げる」

「十倍……それって、どんな仕事なの?」

「百聞は一見に如かず。よかったら今から案内するけど来るか?」


 何の仕事だろうか。

 十倍ももらえるとなると、相当危険な仕事に違いない。

 気軽に頷けない。足がすくむ。


「でもそれなら一年も頑張れば借金は返せるし、大学生の時にはもう自由の身だ。受験勉強を平行でやるのはしんどいけど、でも未来を勝ち取るためには今頑張るしかないと思うんだ」

「……そう、だね……うん。見てみたい」

「わかった。じゃあ着いてきて」


 北田くんに導かれ、奥の待機室に向かう。

 そこではまだ十人程度のメンバーの人たちが待機していて、その中にはミレンさんや仲良くしてくれる女の子たちもいる。


「あれ、どしたのシノノノ」

「嶺も奥で働くことになったから」

「まじ!? わ~お仲間!」


 ミレンさんがふりふりと私に手を振ってくれる。それに合わせて他の女の子たちも笑顔で私に手を振ってくれた。


「みんなやってるの?」

「ん、ああ。この時間に待機してるメンバーは、実はさっき言った別の仕事をしてる人たちなんだ」

「そうなの……知らなかった」

「口外は禁じられてるから。でもみんながやってると思うと、少し気が楽だろ?」

「うん。なんか大丈夫な気がしてきた」


 この待機室はいつも私が待機している場所で行き止まり。でも北田くんはさらに奥へと向かっていく。

 すると、上から大きなスクリーンが下りてきた。


「こんなのあったんんだ。全然気づかなかった」

「普段は使わないからな。夜だけ下ろすことにしてるんだ」


 そう言いながら、北田くんは傍に置いていたリモコンを手に取った。

 そして天井についていた映写機に向かってそれを向ける。

 すると、モニターに映像が映し出され――。


「……え……」


 そこでは。

 同年代の女の子たちが。

 色とりどりの服を着て。


「これ、って……」

「ああ。いわゆるJKリフレってやつだよ」


 北田くんは爽やかに笑ってそう言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ