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兄が異世界救って帰ってきたらしい  作者: 色川玉彩
第七章
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そして世界は崩壊する。

「それでは、自己採点を始めます」


 模試が終わり、帰りに駅舎内のカフェに愛ちゃんと入った。


「え、嘘、いや! お茶するだけって言ったじゃん!」

「お茶しながらするの」


 案の定、拒絶反応を示す愛ちゃんをあしらいつつ、本日の問題用紙を開いていく。


「ダメ、二回戦は無理。体力持たない」

「ん、普通の意味よね。変な意味じゃないわよね」


 愛ちゃんの発言が、いちいちエロの方向に聞こえてしまってしょうがない。

 反応しちゃう私も私なんだけど。


「ん~。え、うそっ、ここ2番なの?」


 スマホで解答速報を見ながらうなる。

 この設問、絶対自信があったのに……。そうか、そうなのか、設問自体がひっかけだったのか。なんて意地悪なんだ。


「あ、私それ当たった」

「嘘、愛ちゃんすごい」

「その引っ掛け、設問から怪しかったから多分2番かなって」

「え、適当?」

「うむ」

「……ほめた私がバカでした」

「でもなんとなくわかんない? 問題作った人の気持ち考えるとさ。私結構当たる……ほら、ほら」


 そう言いながら、愛ちゃんは自分の問題用紙をめくりつつ丸を付けていく。

 正答率は6割程度か。


「見て! すごくない?」

「なにそれ、全部勘?」

「もち!」


 褒められるわけがない。


「愛ちゃん、ここに何しにきたのよ……」

「まあまだ二年だし」

「もう」


 なんて言いつつ自分の解答をチェックしていく。

 ……。

 …………。

 あれ。

 あれれ。

 あれれのれっれ。


「どうしたの、お志津?」


 やヴぁい。

 私真面目に答えてたのに、正答率6割強だ。


「ど、どうしたのお志津? 顔が赤くぷるぷる震えてるよ? おこ? おこなの?」

「おこじゃない」

「ででで、でも……だ、大丈夫だよ。お志津はようやく受験対策始めたところなんだし? 私塾とかでもそれなりに模試とか受けてたから、なんとなくわかったんだし……ね?」

「……ごめん、気を遣わせちゃって……」


 あまりの情けなさに力が抜ける。

 私はこんなにもダメだったのか。

 いい大学なんて、夢のまた夢じゃないか。

 ――と、私の頭の上に何かが乗ってくる。見上げると、それは愛ちゃんが手でなでなでしてくれているところだった。


「まあまあ、まだ先は長いんだし、今日はパーッとお茶して帰ろ?」

「……」


 ずるい。

 愛ちゃんは、いつも適当でうざいのに、こういう時に妙に大人になる。

 そしてそれがとても温かく心地よい。


「うん」

「よし! じゃあ私もう一杯やってくる!」

「言い方」


 席を立ち去っていく愛ちゃんを見送り、スマホに目を落とす。

 するとそこには、北田くんからメッセージが届いていた。

 自分の心が浮足立つのが明確にわかる。もはやそれは隠せぬ感情で。

 恋を知らない私でも、それが明確になんであるかを理解させられる。

 うきうきしながらメッセージを開く。


「……え」


 思考が止まる。

 北田くんからのメッセージは一言、「これ、違うよな?」だった。

 そしてそこに添付されている写真を見る。


「なによ、これ……」


 それは二人の男女がある建物に入っていく瞬間だった。

 まるで週刊誌のゴシップ記事のように。

 顔は斜め後ろからであまりわからない。第三者が特定するのは難しい。

 でもしかし、そしてそれは見知った二人で、見知った場所で。



 ――私だ。



 それは私と根波田(ねはだ)さんがラブホテルに入っていく様子だった。

 動悸が始まり、それが一瞬にして最高潮にまで達し、激しく鳴り響く。


「どうして……」


 誰が、いつの間に、なんで……。

 そんな犯人捜しを始めた瞬間、背後から愛ちゃんが戻ってくるのがわかる。


「どったの?」

「え、ううん、大丈夫」

「……そう。でもお志津、顔色悪いよ?」


 言われて傍にあった円柱の鏡面を見つめる。

 そこには私の顔が、円柱のせいでひどく歪んで見える。

 これは……私?

 本当に?

 私、こんな顔してたっけ?

 いつもの私って、どんなだっけ。


 がしゃん、と音がして現実に引き戻される。


 自分のティーセットが肘に当たって落としてしまったようだ。

 可愛らしい陶器が床で粉々に割れている。


「ご、ごめんなさい」

「お志津、店員さんにやってもらお? 破片とか危ないから」

「ごめんなさいごめんなさい……」

「お志津!」


 愛ちゃんの声が遠く聞こえる。

 すると愛ちゃんが私の手を強くつかんだ。そして顔を私に向ける。


「どうしたの? お志津、大丈夫?」


 悲しげな声。

 私はそんな顔をしているのだろうか。

 私の顔は、醜く写っているのだろうか。


「お志津!」


 耐えきれなくなり、私はその場を飛び出した。

 とにかく今は誰とも話したくない。

 誰にも見られたくない。

 私は……私は……。

 


 汚れてしまったのだろうか。

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