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兄が異世界救って帰ってきたらしい  作者: 色川玉彩
第四章
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華やかな予兆

 バイトを終えてスタッフルームに戻ると、格安に格安を極めた私のスマートフォンに通知が届いているのに気が付いた。

 おおよそ私に連絡してくるのは、母と愛ちゃんとバイト先の店長くらい。

 母は入院中だし、店長は直接話した方が早いし、兄はそもそもスマホ機器を持っていない。

 だったら愛ちゃんかと思い通知を開くと、それは意外な人物だった。


「北田くん?」


 北田光太(こうた)くん。連絡先を知っていたかなと思ったが、以前遊園地に行った後に愛ちゃんが私と北田くんを誘ってグループチャットを作ったのを思い出した。

 そこから辿って、私に個人メッセを送ってきたみたいだ。


――北田だけど、いきなり連絡してごめん!


 初めのメッセージはそれだった。


――いきなり送って迷惑だったかな? もしかしてバイト? 嫌だったら無視していいから! ごめん!


 2通目のメッセージはその10分後に届いていた。

 私が既読をつけないから追いメッセをしてきている。

 その後、2件ほどメッセージを一度送ってきてはいたが、削除した形跡が残っていた。


――今日言ってたバイトの話だけど、個人的に話したい。学校じゃなくて。


 1時間後のメッセでそう書いてあって、ようやく北田くんの連絡してきた意図がわかった。


「初めからそう書いてくれたらいいのに」


 一人そうごちりながら返信を打つ。

 北田くん。嶺志津香です。よろしく。バイトだった。バイトの話って、北田くんの?

 そう返信したと同時に、「既読」の文字がついた。


「はやっ」


――お疲れ! そう。俺のバイトの話なんだけど。


 それがどうかしたの?


――実はあんまし学校とかでは知られたくなくて、あの時は言えなかったんだ。


 そうなんだ。実は私も同じ。


――マジ? その辺よかったら話したいな。お互い大変な身として。


 たしかに。


――それで、もしよかったら、うちのバイト紹介しようかなって思って。


 ほんとに?


――もちろん! かなり時給いいよ! でも一回見てみて、嫌だったら断ってくれて構わないし。


 嬉しい。困ってたから助かる。


――じゃあ、明日の休み会えないかな?

――あ、デートとかじゃないから気にしないで! 嫌だったらいいから!


 嫌じゃないよ。明日、バイト夜からだから夕方までなら。


――オッケー! じゃあ正午に竹井山駅で! 細かい場所はまた伝える!


 それだけ確認して、スマホの画面を閉じた。

 気づいたら20分ほど経っていて、着替える途中でやり取りに夢中になっていたらしい。上を脱いだままで、こんなところを誰かに見られたら恥ずかしい。

 割のいいバイト。今の私にこれ以上魅惑的な言葉はない。

 と、ふと目の間の鏡にキャミソールを着ていない自分の下着姿が写る。


「……明日はちゃんとキャミ着て行こ」


 そう自分に言い聞かせた。

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