華やかな予兆
バイトを終えてスタッフルームに戻ると、格安に格安を極めた私のスマートフォンに通知が届いているのに気が付いた。
おおよそ私に連絡してくるのは、母と愛ちゃんとバイト先の店長くらい。
母は入院中だし、店長は直接話した方が早いし、兄はそもそもスマホ機器を持っていない。
だったら愛ちゃんかと思い通知を開くと、それは意外な人物だった。
「北田くん?」
北田光太くん。連絡先を知っていたかなと思ったが、以前遊園地に行った後に愛ちゃんが私と北田くんを誘ってグループチャットを作ったのを思い出した。
そこから辿って、私に個人メッセを送ってきたみたいだ。
――北田だけど、いきなり連絡してごめん!
初めのメッセージはそれだった。
――いきなり送って迷惑だったかな? もしかしてバイト? 嫌だったら無視していいから! ごめん!
2通目のメッセージはその10分後に届いていた。
私が既読をつけないから追いメッセをしてきている。
その後、2件ほどメッセージを一度送ってきてはいたが、削除した形跡が残っていた。
――今日言ってたバイトの話だけど、個人的に話したい。学校じゃなくて。
1時間後のメッセでそう書いてあって、ようやく北田くんの連絡してきた意図がわかった。
「初めからそう書いてくれたらいいのに」
一人そうごちりながら返信を打つ。
北田くん。嶺志津香です。よろしく。バイトだった。バイトの話って、北田くんの?
そう返信したと同時に、「既読」の文字がついた。
「はやっ」
――お疲れ! そう。俺のバイトの話なんだけど。
それがどうかしたの?
――実はあんまし学校とかでは知られたくなくて、あの時は言えなかったんだ。
そうなんだ。実は私も同じ。
――マジ? その辺よかったら話したいな。お互い大変な身として。
たしかに。
――それで、もしよかったら、うちのバイト紹介しようかなって思って。
ほんとに?
――もちろん! かなり時給いいよ! でも一回見てみて、嫌だったら断ってくれて構わないし。
嬉しい。困ってたから助かる。
――じゃあ、明日の休み会えないかな?
――あ、デートとかじゃないから気にしないで! 嫌だったらいいから!
嫌じゃないよ。明日、バイト夜からだから夕方までなら。
――オッケー! じゃあ正午に竹井山駅で! 細かい場所はまた伝える!
それだけ確認して、スマホの画面を閉じた。
気づいたら20分ほど経っていて、着替える途中でやり取りに夢中になっていたらしい。上を脱いだままで、こんなところを誰かに見られたら恥ずかしい。
割のいいバイト。今の私にこれ以上魅惑的な言葉はない。
と、ふと目の間の鏡にキャミソールを着ていない自分の下着姿が写る。
「……明日はちゃんとキャミ着て行こ」
そう自分に言い聞かせた。




